第13話 まるで×ハニー×ムーン
夕飯は赤飯だった。
まあ、久々の帰省だからな。
めでたいと言えなくもない。
にしても張り切りすぎではないかな、母さま。
「もう行くの?」
「やることがあるんだ」
「……そう」
母さまは俺の少し後ろに焦点を合わせるように目を細くした後、優しく微笑んだ。
「いってらっしゃい」
一応振り返ってみるが、庭には誰もいない。
母さまが俺の背中に誰を見たのか。
言葉にしなくても、なんとなくわかった。
庭へと向き直り、かざすのは
バチバチと紫電を散らす亀裂が、どこか遠い異国の地へ繋がっている。
「師匠、このゲートの先にあるのって何?」
「かつては栄華を誇り、しかし鉱石を掘りつくしたいまは廃坑となっている、標高差にムラのある元採石場だ」
「お金にならなそう」
ならないどころかマイナスだと思うよ。
ん?
いや待て。
いまのはすぐに金の話に結び付けようとするササリスにつっこむところだったな。
いかん。毒されてきている。
「ここを安全地帯とする。ヒアモリ」
「はい」
CQRグリップを握る銀髪青眼の少女が、口元のマフラーに指を掛けて位置をなおしている。
安心感がすごい。
次。
「
運命のゲートは開かれた。
ルーン文字の刻まれた遺跡が、亀裂の向こうに広がった。
うーん。
ゲームだと結構苦労したダンジョンだったんだけどな。
こんなあっさり到着できてしまうとちょっと申し訳ない。
さて、と。
「師匠師匠、この壁面に描かれてるのって師匠がたまに使うルーン文字だよね」
「
個人的にはシロウが好んで使ってるイメージがある。
「
「まるであたしたちを祝福するみたいなめぐりあわせだね」
「その発想はなかった」
だとしたらこの運命は呪われてると表現したほうがいいのではないだろうか。
ということで、採掘します。
方法は簡単。
岩壁に浮かび上がったルーン文字に向かって
フサルク星人のエネルギーに端を発するルーン文字は、エネルギーを失い沈静化しているものの、再びエネルギーを持つと活性化する。
すると必然、ただの岩壁である周囲との間にエネルギーの差が生じる。
出る杭は打たれるとは言うが、この場合は逆。
岩壁から、はじき出される。
まずは一つ目。
「次行くぞ」
ルーンの刻まれた石塊を拾い、もう一度
「師匠師匠、この壁面に描かれてるのも師匠がたまに使うルーン文字だよね」
「
「病める時も健やかなる時も、汝はこれを愛し、これを助け、その命ある限り心を尽くすことを誓いますか」
「誓いの言葉じゃねえんだよ」
そういうのじゃねえからこの文字。
これ以上ササリスの暴走に付き合ってられるか。
さっさと決着をつけて、俺は帰らせてもらう。
ということで、
「次」
もう一度門を開いた先。
そこに待ち構えていたルーンは
「師匠師匠」
「これは
「師匠、思ったんだけど、ルーン文字って実は結婚を意味する文字なのでは」
「絶対違う」
婚前旅行じゃねえのよ。
「たとえば
「でも二人なら乗り越えていける」
「もはやお前の頭がピンク色なだけじゃねえか」
口ばっかり動かしてないで手も動かしましょう。
「これで、三つ目」
集まった文字は
異星間転移陣である
「これであと二つだね!」
「うん?」
ササリス、お前。
いよいよ算数ができなくなったか?
「だってほら、必要な文字が
「うん」
「いま手に入れたのは
「うん」
「そしてあたしたちにはフロスヴィンダがいる」
「⁉」
あ、しまった!
フロスヴィンダを頭数に入れるの忘れてた!
(そうだよ! フロスヴィンダのルーン核は
つまり、いま、俺の手元にあるのは4文字分のルーン。
残すところは
(しまった! このペースだとシロウがヒアモリと会う前に全部回収し終えちまう!)
それは盲点だった!
やべえ、どうしよう。
「結婚、結婚」
ええい!
だからお前の願いは叶えさせないって言ってるだろうが!
「ハッ⁉ 師匠、あたしはいま、とんでもない事実に気付いてしまった」
まだ何かあるのか。
「師匠の偽物を襲っていたフサルク星人。彼が落としたルーン核。あれって
すぅ、はぁ。
ここはね、一度冷静に深呼吸しましょう。
落ち着いて、物事を俯瞰することで見えてくる世界もあるはずです。
「……いやぁ、どうだったかなぁ?」
苦しい! 苦しい言い訳!
「
「本当に? ササリスの見間違いじゃないか?」
誤魔化せ! 誤魔化す以外に道はない!
「あたしがお宝を見間違えるわけないじゃん!」
「ぐっ」
何も言い返せねえ。
あまりにも説得力がありすぎる。
「と、いうことはだよ?」
よく考えてみよう。
異星間渡航に必要な文字は6文字。
そのうち、俺たちが保持している文字はこう。
財産を意味する
力を表す
知恵を形にした
旅を表現する
そして、エネルギーを司る
……5文字もそろってるなぁ。
(
シロウがヒアモリと修行する期間は⁉
ねえ! どこいった⁉
俺の抜かりない作戦はどこにいった⁉
くっ、
お前が俺の、最後の希望だ!
どうにか持ちこたえてくれ!
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