第7話 珍しい×シリアスに×ビビる
さて、一度整理しよう。
フサルク星の王様は、民を生贄にして神へと至る願いを叶えようとしている。
その星の王女様であるフロスヴィンダはそのための生贄であると同時に、これ以上民を犠牲にする儀式を止めたいと願っている。
これだけでも複雑な状況なのに、そこにササリスまで便乗して自らの欲望をかなえようとしていると来た。
正直もはやフサルク星のいざこざとか気にならないレベルでササリスが怖い。
こいついったい何を願うつもりなんだ。
ろくでもないことだけはわかる。
(うーん、この状況を打破する劇的な逆転の一手はどこかに無いものだろうか)
条件は三つ。
一つ、ササリスの野望を阻止すること。
二つ、あくまでダークヒーローらしく振舞うこと。
三つ、フロスヴィンダをシロウに引き渡すこと。
これらを満たす、神の一手。
「願いを叶える力か、ふっ、面白い」
ピカンと来たぜ……!
「その力、俺がもらい受けよう」
「なっ、クロウ!」
「そんな⁉」
つまり、作戦はこうだ。
ササリスが願いを叶えようとしているのなら、俺が先に叶えてしまえばいいじゃない。
マリー・アントワネットのパンティおくれ作戦と言い換えてもいい。
いや、これは違うな。
「クロウ! お前! わからねえのか⁉ この人は、お前を信用して、お前に自分の国の未来を任せようとしたんだぞ! 他の誰でもなく、お前にだ!」
シロウが叫んだ。
さりげなくフロスヴィンダを庇うポジショニングしてるのなんて言うか主人公だよね。
シロウの背後で不安そうに事の成り行きをうかがうフロスヴィンダを見ながら、改めてそう思った。
「だからどうした」
「それを、こんな形で裏切って、お前の心は痛まないのかよ!」
「痛まない」
「お前ぇぇぇぇっ!」
シロウが固めた拳でグーパンチ。
俺はシロウの手首をつかみ、脇の下に潜り込むとそのまま背負い投げを決め込む。
「がっ」
「寝ろ」
シロウの体がふわりと浮かんだタイミングで頭を掴み、地面に向かって叩きつける。
属性空の魔法で強化した身体能力による一撃だ。
いくら猛ろうと、強い衝撃で揺らされた脳では立ち上がることなど不可能。
「甘いな」
視線だけは俺に鋭いものを向けるシロウに対し、俺は上から言葉を吐いた。
「ルーンの力を、人を守るために使う。お前のそのつまらないプライドがある限り、お前は半端ものだ」
シロウの頭を踏みつけながら、俺は虚空に【刃物】をなぞる。
淡い青色の光がきらめいた後には白刃が陽光に照らされて、そして重力に従って落下した。
魔法で生み出された刃物の切っ先にあるのは、シロウの手のひら。
「ぐああぁぁぁぁっ!」
「シロウ!」
「これ以上好きにはさせんッ!」
シロウが悲鳴を上げ、ナッツとラーミアが息を合わせて連携プレー。
俺に向かって襲い掛かる。
襲い掛かって、途中でぴたりと動きが止まった。
まるでその場に固定されたかのように。
「ぐっ、これは、まさか」
「そういえば、いつぞやの石室では世話になったね」
ササリスだった。
糸魔法でナッツとラーミアを括り付けている。
そっか、ササリスか。
ササリスだったか。
……。
アイエエエエ! ササリス⁉ ササリスなんで⁉
「借りは返すよ。利息を付けて、たっぷりね」
いやグッジョブだけどもさぁ⁉
突然そういう感じで立ち振る舞われると、俺も困惑する。
普段からそういう感じでいてくれないかなぁ⁉
「クロウ……!」
「吠えるな」
いま大事なこと考えてるんだ。
(ここでナッツとラーミアに向かって魔法を放つとする。シロウはそれを防げるか?)
防げるならぜひとも攻撃したい。
そして、人を守るためにルーン魔法を使う際のシロウの底力をフロスヴィンダに見せておきたい。
(理想を言えばシロウが俺のルーン魔法を弾いて、フロスヴィンダに「キャー、シロウさん素敵ー」って言わせたい)
いや、言わんだろうけど、気持ち的にね。
フサルク星を救えるのは俺だけじゃない。
シロウでも救える。
いや、シロウの方がふさわしい。
どうにかして、フロスヴィンダがそこまで思えるくらいにシロウへの好感度の上がる展開に引き込みたい。
「俺は、半端ものだよ、クロウ、お前が言う通り」
シロウが歯切れ悪く言った。
「でも」
その言葉は、一つ一つが力強くて、前へと向かう信念が宿っていて。
「この気持ちは、半端じゃない! 守り抜くって決めたんだ! 俺は、俺の信念を曲げない!」
俺は、零れそうになる笑顔を抑えるのに必死だった。
(いけるよな、シロウ!)
俺は信じてるぜ。
お前は逆境に置かれて初めて真価を魅せる男。
苦しい場面で進化を遂げて強くなる主人公。
「寝言は寝て言え」
虚空に描くのは、シロウが最も得意とするルーンである
それが意味するところは、炎。
すべてを焼き払う高温の灼熱。
「いや」
シロウがハッとした。
そう、俺の描いた
まさか、俺のルーン魔法の威力を知らないわけではない。
寸秒ののちに引き起こされる悲劇が、彼には思い浮かんでいるはずだ。
「永遠に覚めない悪夢を見せてやろう」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
シロウの叫び声が空気を引き裂いた。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
シロウの髪が揺れる。
根元から毛先にかけて、蛍火色にきらめいていく。
こ、これは……!
「
たどり着いたのか、その境地にッ!
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