第6話 黒×歴史×暴露

「ひとつ、いいだろうか」


 シロウお断りを申し出たフロスヴィンダに対し、一番最初に声を発したのはラーミアだった。


「実力いかんの話をするなら、シロウがクロウに劣っているとは思わない。つい先ほどだって、シロウはクロウに勝利して見せた」


 やはりラーミア。

 ラーミアはすべてを解決する!


「本当ですか?」


 そう! そうなの!

 いやー、シロウくんってばめちゃくちゃ強くなっててさー。

 さすがの俺も手が出なかったって言うか? やっぱり原作主人公って言うか?

 うん、フロスヴィンダはやっぱりシロウについていくべきだと思うよ!


「明らかに手加減してたけどね」


 お前! ササリス!

 余計なこと口にしてんじゃねえよ!

 せっかくフロスヴィンダがシロウ側についていく流れをラーミアさんが作ってくれたのに、ぶった切るような真似してくれてんじゃねえぞ!


「負け惜しみだな。あの勝負はシロウの勝ちだった」


 よし、言ってやってくだせえラーミアの姉貴!

 この空気読めないササリスをぐうの音も出ないほどに言い破ってやってくだせえ!


「ふふっ、あきれた。あなた、見てなかったの?」

「見る? なにをだ」

「師匠の放ったスリサズ。崩壊を始める石室。だけど、あなたたちは生きている。それはどうして?」

「どうしてって……ッ!」


 ラーミアの表情が凍り付いた。

 俺は敗北を察した。


「師匠のイサが、あなたたちを助けた」

「だが、停止のルーンならシロウも使える!」

「アハハ、まだわからない? あたしが言っているのは、もっと根源的な部分。イサのルーンを、師匠はどうやって発動したか、よ」


 もうやめて!

 とっくに俺の羞恥は臨界点突破よ!

 もう、勝負はついたのよ!


「ルーン魔法は指先でルーンを描き、いや――書いて、いなかった」


 驚愕するラーミアに、ササリスがドヤる。


「待て。だとしたらなぜ、シロウの攻撃を対処しなかった。文字を描かずに魔法を発動できるなら、あのタイミングからでも対処は十分に効いたはず!」

「対応できなかったのではなく、対応しなかった、とすれば?」


 お前、お前! お前!

 いっつもは俺の気持ちなんてわかりもしない行動ばっかりとるくせに、いまだって俺の気持ちを踏みにじるような展開を見せているくせに!


 なんでそういう部分だけしっかり把握してんだよ!

 おかしいだろ!


「勝ったのではなく、勝ちを、譲られていた?」


 くっ、我らが最強の騎士であるラーミアを完膚なきまでに言い負かすとは、侮りがたしササリス!


「結論は出たようですね」

「で、でも! 何か力になれるかも!」


 話を終わらせようとするフロスヴィンダに食い下がったのはナッツだった!

 そうだ!

 まだ終わっちゃいない!


「わたしたち、よくわからないよ。宇宙の危機だとか言われても。まして、指をくわえて見ていろなんて言われても」


 感情と理論を分けて考えるラーミアと違って、ナッツを説得するのは難しいぞ!

 さっきと同じように行くと思うなよ!


「だから、教えて。何が起きていて、どうすればみんなが助かるの?」


 そう言えば、そのお悩み相談が披露される前にフサルク星人襲撃イベントが起きたせいでうやむやになってたな。

 シロウたちもいてちょうどいいんじゃないかな。

 よし、話してやってくれフロスヴィンダ。


「言えません。言えば、巻き込むことになります」


 こいつ……!


「巻き込む巻き込まないで言うなら、とっくに巻き込まれてるの。大丈夫。もしそれでも不安なら」


 お?


「わたしたちが自分の身を自分たちで守れるように、どんな脅威と戦ってるかを、教えてくれないかな」


 ナ、ナッツ!

 お前、いいやつだなぁ!


 ラーミアがやられて、もう周りには敵しかいないと思ってた!

 でも、違った!

 俺にはまだナッツがいてくれた!


 まだやれる! まだ、原作の流れに引き戻せる!


「……おっしゃる通り、ですね」


 フロスヴィンダが重い口を開いた。

 これは、感化されている。

 ナッツの、裏表のない善意にあてられて、誠実な態度を取らざるを得なくなっている!


「始まりは、臣下の一人による奏上でした」

「そうじょう?」

「意見などを王に申し上げることです」


 キ、タァァァァァ!

 乗り切った! どうにか乗り切った!

 死地を何度となく迎えかけた。

 だけど、たどり着いた。

 フサルク星の出来事をシロウたちが知る、大事なシーン。


「私たちフサルク星人は、人の願いが結晶化することでルーン核としてこの世に生まれます」


 たとえばフロスヴィンダ。

 彼女のルーン核は豊穣を意味するフェフ

 これは人々の豊かな生活への祈りが具現化したものだと言い換えられる。


「私たちの命とは、私たちの祈りそのものなのです」


 では、もし。


「もし、それらルーン核が持つ祈りの力を、一度に解き放てば」


 無数のルーン核を、ただ一つの願いをかなえるための代償に支払うのなら。


「どんな願いでも叶えるだけのエネルギーを生み出すだろう。そして――」


 フサルク星の王が求めたのは支配の力。

 宇宙の法則すら歪める、何人も踏み入れることの許されぬ絶対の領域。


「私たちの王は、神へと至るつもりです。宇宙の歴史を、無かったことにするために」


 ここまでくれば勝ったも同然よ。

 シロウのお人よしをなめるなよ。

 困ってる人がいて、見捨てられるはずがない。

 必ずシロウは力になろうとする。

 絶対にだ。


「師匠、あたし、閃いちゃった」


 おい待てササリス。なにをだ。何を閃いた、言ってみろ。


「その願いの力があれば……もぐ⁉」


 やっぱり言うな。黙ってろ。口を開くな。


 くそ、こいつがいる前で喋らせるんじゃなかった……!

 また物語がややこしい方向に……!

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