第4話 ᚲ×異星人×格の違い
扉を抜けると、いままさに攻撃を食らう瞬間のシロウがいた。
「ぐあぁぁあぁぁぁぁっ!」
転がるように地面を跳ね回ったシロウの頭を、フサルク星人の硬い足裏が踏みつけている。
「どうした。この程度か、ルーン使い」
「貴様ッ、その足をどけろッ!」
ラーミアが勇猛果敢に攻める。
大きなストライドから、上体にひねりの力を加えた威力の強められたランスによる突き。
地面を陥没させるほどの推進力を上乗せした一撃が、フサルク星人に襲い掛かる。
「ボン、だ」
フサルク星人が柏手を打つ。
すると、忽然と爆撃がさく裂し、突進を仕掛けていたラーミアがその爆風に呑み込まれる。
「ぐぁっ」
「ラーミア!」
傷を負ったラーミアを、ナッツが回復しようと駆け寄った。
それを狙い撃つかのように、フサルク星人がナッツに向けて手のひらをかざしている。
(ここだッ!)
うおぉぉぉぉぉっ!
「燃えちまえ――何ッ⁉」
ナッツに向けて炎を打ち出そうとしていたフサルク星人に襲い掛かる突然の氷点下。
凍結を意味するルーン文字は、彼が繰り出した炎を瞬く間に凍り付かせ、格の違いを見せつけた。
「我が炎を滅するルーン魔法……貴様、何者だ」
この瞬間、フサルク星人のシロウたちへの関心は一切合切消え失せた。
鈍色に輝く瞳は、ただ俺だけを映している。
(かーっ、主人公が苦戦した相手を圧倒する俺。最高に強キャラ演じれてるじゃん!)
これがやりたかった。
これをするためだけにここに来た。
最高の一瞬を待っていた。
そう言っても過言では無い。
「名乗る名など無い。特に、これから死ぬお前には――」
「ふん、冥途の土産に教えた上げるわ。師匠の名はクロウ。しかと刻みなさい」
「……」
お前さぁ。
なんていうか、本当に。
解散しよう。
俺たち、うまくやっていける気がしねえんだ。
「なんなんだ貴様らは、お遊戯会でも見せに来たのか」
ほら!
せっかくかっこよく登場したはずなのに、敵キャラからさえギャグシーンだと思われてる!
お前のせいだからな! ササリス!
「ん?」
フサルク星人の目がぎょっと開き、俺の後方を見た。
俺の陰に隠れていたフロスヴィンダが、ぎゅっと身を強張らせて俺の袖を引いている。
「く、くく。そうか、貴様が、報告にあったルーン使いか」
お、いい加減に気づいたか。
シロウと俺が別人だと。
ルーン魔法の操り手は一人じゃないと。
「想定外だったよ。まさか、ルーン使いが複数人いるとはな」
フサルク星人がくつくつと笑い声をこぼしている。
「くくっ、いい」
フサルク星人が、大きく足を開き、震脚した。
大地が揺れ、空気がしびれる。
そして次の瞬間、彼の全身が激しく燃え上がった。
青白色に輝く、超高温の炎だ。
「今度は俺を失望させてくれるなよ! ルーン使い!」
「ああ、そうだな」
失望はさせないよ。
「お前には絶望がふさわしい」
「なっ⁉」
俺の眼前で描かれたのは
目の前のフサルク星人が得意とする炎や爆発と同じ文字。
だが、使い手が違えばルーン魔法の威力が変わるように、同じルーンでも結果は大きく異なる。
「燃やし尽くせ」
近寄るだけで灰すら残らないような超密度のエネルギーが、フサルク星人目掛けて飛んでいく。
「あり……え、ねえ」
青い炎をまとう男に直撃した
そこから、炎が広がるように、男の体が虚空に溶けていく。
存在そのものを否定するかのように、この世界から失せていく。
「ルーン使い、これほど、とは……」
絶望に顔を歪めながら、最期に彼はそう言った。
後に残されたのは、彼の核とも呼べるルーンで出来た核――
「ラーミア、まだ傷口が塞がってないんだから、無茶しちゃダメだよ!」
「大丈夫だ、問題無い」
「問題大有りだよ⁉」
いわゆるドロップアイテム的なルーン核を拾い上げていると、少し離れたところでふらふらと立ち上がるラーミアが見えた。
彼女は二歩三歩と歩み寄り、俺をまっすぐに見た。
「クロウ」
少し間があって、ラーミアの顔が険しい顔をして、だけどすぐに緩んで、言葉は続けられた。
「シロウを助けてくれたこと、感謝する」
いや、そんなつもりは毛頭なかったんだよなぁ。
この戦闘は負けイベントだけど、最終的には命を見逃してもらえるんだよね。
(ん?)
命を見逃してもらえる理由って確か、他の地点でフロスヴィンダが見つかって、捕縛を優先することになったからだよな。
今回みたいにすでにフロスヴィンダの発見報告が済んでいて、シロウが彼女をかくまっていると思われていた場合は?
(あれ、もしかしてギリギリのところだったのでは?)
あ、あぶねえ!
ワンチャンいま殺されてたぞ、シロウ!
(うーん、この、俺によってもたらされた命の危機を俺が救うというマッチポンプ)
これはひどい。
なんか申し訳なくなってきたな。
そんな素直に感謝述べられると心苦しい。
「勘違いするな」
「ふっ、そうか」
違うから!
本気で! シロウを! 助けたわけじゃねえから!
だからラーミア、その「わかってる。お前は言葉を素直に表現できないが、根はやさしいやつだ」みたいな優しい目をやめろ!
そういうのじゃねえから!
俺の目指すダークヒーロー像!
「ねえ師匠、師匠が手に持ってるそれって」
お、いいところに気付いたなササリス。
そうだ。
これはルーン核と言ってだな、言ってしまえばフサルク星人の霊魂的なやつだな。
フサルク星人は、灰色の外骨格に魂が宿ることで生体活動を可能としている。
のだけど、さすがにこれをフサルク星人でも何でもない俺が知っているのはおかしい。
フロスヴィンダが解説してくれるのを待とう。
「異星人の聖遺物として売れば、相当な値段になるんじゃ……」
また金の話か!
帰れ!
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