第3話 ᚦ×新たな×可能性
「王位でもなんでも差し上げます、ですから、どうかフサルク星をお救いください」
フロスヴィンダが涙をためて主張すると、ササリスがパッと顔を輝かせた。
だから俺が口を開くしかなかった。
「俺が王になったら執務に忙しくてササリスと会うこともなくなるだろうな」
「この話は無しで!」
無かったことになった。
凍り付いた表情でフロスヴィンダが「え」と声をこぼしているけど気にしない。
「お待ちください! お願いです!」
飛ばしかけた意識を取り戻したかのように、フロスヴィンダが叫んだ。
「困っている民がいます。苦しんでいる民がいます。彼らを、これ以上辛い目にあわせたくはないのです!」
「師匠、思ったんだけどこの人――」
お、気づいたかササリス。
そうだ。お前の予想通りお人よしだ。
それも、シロウレベルの善意を持った特級品だ。
わかったなら後は早いだろ。
この案件は俺たちの出る幕じゃない。
シロウにでも請けさせておけば――
「――王位継承権保持者なんじゃ」
くそ、予想の斜め上の言葉しか出て来ねえ。
「え、ええ。フサルク星の第一王女です」
「やっぱり! あ、そうだ! 王位はフロスヴィンダさんに受け継いでもらって、執務もこなしてもらう。あたしたちはその国益の一部を受け取る! フロスヴィンダさんは自分で自国の民を治められてハッピー。あたしたちも不労収入が出来てハッピー。みんなハッピーのアイデアじゃないかな⁉」
こいつクズだな。
本気でそう思った。
「よ、よろしいのですか? その条件は、なんといいますか、あまりに私たちに都合が良すぎるのでは」
騙されるなフロスヴィンダ。
シロウに頼んだら国益の一部を出す必要すらないんだぞ。
きちんと相見積もり取れ。
お前はいま、王族らしからぬ損益を生み出そうとしている。
「いいのよ。困ってる人がいたら助ける。当たり前のことでしょう?」
「ああ、なんとお優しい方なのでしょう。心より、感謝申し上げます」
やばい、また一人ササリスの詐術の餌食に。
まずいですよ!
本来、フサルク星を冒険する第二作では、シロウのルーン魔法が大幅に強化される話になっている。
だけどここで俺がシロウの代わりにフサルク星に向かってしまったら?
シロウの強化イベントがごっそり抜け落ちてしまう!
ダメだ! それだけは許せねえ!
(くそ、なんかこの話を全部流し去るくらいの特大アクシデント起こらないかな)
できれば発生源はササリス以外で!
とか、考えていたら、起きた。
「あ、あれは!」
フロスヴィンダが空を仰いでつぶやいた。
昼間だというのに、一条の流星が尾を引いて、空を駆け抜けていく。
(違う、流星じゃない)
灰色の体躯、鎧のような外骨格。
フサルク星から、フロスヴィンダを捕らえにやってきた異星人だ。
(さっき返り討ちにしたばっかじゃん! リベンジマッチが早いんだよ! ……ん?)
見る見るうちに接近してくる彗星のごとき影を見上げていると、俺たちの頭上を通り過ぎて行った。
どこ行くねーん。
(狙いはフロスヴィンダじゃない?)
考えろ、この周囲で、やつらの気を引けるもの。
なにがある。
やつらは何を探しに来た。
(さっきの二人組のフサルク星人の一人、生かして情報を持ち帰らせた方。あいつはルーン魔法の使い手がこの周辺にいると伝えたはず)
俺というルーン使いと、世界終焉へのカギを握る姫フロスヴィンダ。
それより優先して探すもの、いったいなんだ。
(いや、待て)
俺はとんでもない勘違いをしているかもしれない。
(やつらはいま、俺とフロスヴィンダが一緒にいると思っているはず)
そしてルーン魔法は極めて希少な魔法。
そう何人も使い手がいるとは想定していないはず。
(ルーン魔法の痕跡をたどれば、フロスヴィンダにたどり着くと考えている)
だが、実際には、この付近にはあいつがいる。
(シロウか!)
隕石が墜落したみたいな音がしたな。
フサルク星人が到着したらしい。
いまごろシロウサイドは突如襲来した異星人との出会いが描かれてるころなのかな。
(シロウVSフサルク星人、初戦……何それ超見たい!)
それってあれだろ。
シリーズ二作目【ルーンファンタジーⅡ】のオープニングイベントだろ?
見たい! 俺も見たい!
「追っ手?」
「は、はい」
「わかった。じゃあ、離れようか。ついてきて」
ついてきてと言いながら糸魔法でがんじがらめにしてフロスヴィンダを宙吊りにするササリス。
お前の運搬方法はおかしい。
「行こ、師匠」
「先に行ってろ。俺はあいつを迎え撃つ」
ちょうど試したかったこともあるしな。
(シロウ戦を終えてから、考えていた。ルーン魔法の可能性を)
ルーン文字ってのは、何も一つの文字に意味が一つしかないわけではない。
たとえば
「開け」
ルーン魔法には、まだまだ俺の知らない可能性が眠っている。
(古来、門とは神の代行者を意味する言葉だった)
たとえば
(そして、人の力では太刀打ちできない、天より降りかかる稲妻は、神罰と評されていた)
すなわち、雷と門は同源の言葉。
「
眼前に紫電が飛び散った。
いままでは雷としてしか使ってこなかったそれを、今度は門として開放する。
そして、目の前に移る景色が歪を見せた。
この先にシロウがいる。
「すごーいすごーい! あたしもついていくー」
あ、こら!
止まれササリス!
お前が混ざるとシリアスが崩壊するんだよ!
おとなしくフロスヴィンダとここにいろ!
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