第10話 共闘×拒絶する×ラスボス
頼むぜアルバス、復活してくれよ。
シロウが立ち直れなくなるほどボロボロになる前に。
(最悪の場合は俺が停止を意味する
俺が見たいのは、いがみ合っていた二人が手を取り合い、強敵に立ち向かうシーンなのだ。
アルバスの復活はあくまでそのおまけ。
わざわざ俺が手を貸す理由は無い。
(ん?)
ぴちょん、と雫の滴る音がする。
見れば部屋の片隅で、天井から黒い雫が雨漏りを始めている。
俺が地上で見た黒い雨と同じ雰囲気がする。
アルバスと目が合った。
やつの瞳の中に焦りが見えている。
(なんだ? この様子だと、おそらく砂漠の封印はすでに解けている。残すは俺のルーンだけのはず)
復活が目の前に迫って気持ちがはやったか?
いや、やつの気の乱れようは高揚によるものとは違う。
迫りくる危機への対応を追われる側の態度だ。
だが、なぜ。
「なあ、アルバス」
思い当たる可能性が、一つあった。
「お前、実はもう復活し終えてるだろ」
核心をついた手ごたえがある。
アルバスの驚愕を期待した。
だが、予想に反してアルバスは平静だ。
「どういう意味かな?」
だから、確信した。
「図星だな」
心の動きを隠そうとしすぎていた。
さっきまでの焦りが忽然と姿を消していた。
内心の動揺を、隠すために。
そもそもの話が、アルバスに施されていた呪術的な封印と
「そこにいたのは精神体だった。だがいまは実体をもってそこにいる」
だが
そういうことだろ。
(しめた!)
思いついちゃったもんねー、シロウがアルバスと手を組むまでの手順。
つまり作戦はこうだ。
「この時を待っていた」
魔核から魔力を引き出した。
骨という伝導路を伝って指先へ移動する。
その軌跡が描くのは、やつを一撃で葬り去る過剰威力の文字魔法【滅】。
ここでポイントとなるのは、この魔法が直撃すれば塵一つ残らないと周囲の人間にわかる禍々しさを放つことです。
丹念に怨嗟を込めていきましょう。
「くっ、シロウ! 早くしろ!」
そうするとアルバスはシロウを急かします。
ですがシロウはアルバスの封印を解こうとしません。
「くそが!」
アルバスが、叫んだ、腹の奥底から、永遠にも似た生涯で肥大した悲喜交々の思いを乗せて。
「やっと、やっと目覚めたんだ、
アルバスの前に立ちはだかる俺が放つのは、眩い淡青色の輝き。
影が光の強さを浮き彫りにするように、光の強さは闇の深さを暴く。
「また、独りかよ」
あきらめにも見えた。
疲れ果てた中年のようにも思えた。
この世への執着が消えていく様を見た。
極大の光が集約する。
放たれた究極の一撃を前に、死の運命は決定づけられた。
はずだった。
「アルバス!」
ハヤブサのような炎が、眩い光を追い抜いた。
その炎は的確に、アルバスを貫く糸を目掛けて一文字に飛んでいく。
そして、糸と交差した時、一気に燃え上がった。
(シロウがアルバスを救う展開きちゃぁぁぁぁぁ!)
アルバスの体が重力に従って落下する。
直後その頭上を、俺の放った【滅】の文字魔法が通り抜けていく。
「……あたしの糸ごと、切られた?」
ササリスが珍しくシリアスしている。
や、やるじゃねえかシロウ。
俺にすらできなかったことを成し遂げるなんて。
お前がナンバーワンだ。
(よくわからんけど、ササリスがおちゃらけていないいまがチャンスだ! 畳みかけろ、ふたりとも!)
文字魔法が通った後には暴風が舞い乱れた。
通過した部分から空気が消滅した分、周囲から空気が流れ込んだ。
荒波のような風の中心で、アルバスは訳もわからず呆然としている。
だから俺が口を開いた。
「なんのつもりだ、シロウ。まさか、こいつに何をされたか忘れたわけではあるまい」
「覚えてるさ! 忘れるわけがない! だけど」
シロウがぐっと歯を食いしばり、前を向いた。
「それでも、あいつはいま、本気で助けを求めていた!」
「甘いな。そいつが太古の昔、どれだけの命を奪ったと思っている。これからどれだけの命を奪うと思っている」
「昔の話は知らない! これから先は、誰の命も笑顔も奪わせない!」
すがすがしいほどの理想論だ。
「あっはは、本気で言ってるのか?」
アルバスでさえ、嘲笑うように口角を歪めている。
「本気で、ボクを止められるとでも? 君ごときが? 無理だね、ボクはボクの意志によってのみ生きる」
くぅ、やっぱり難しかったか?
アルバスとシロウに共闘させるのは。
「アルバス」
シロウが、ためを作った後、アルバスに呼びかけた。
「お前はもう、独りじゃない」
「なにを」
「聞こえたんだ、お前の本当の心の声が、つらかったんだよな、寂しかったんだよな」
アルバスの瞳孔が開く。
「黙れ!」
無音無動作で魔法が生まれる。
地水火風の四属性が、シロウ目掛けて襲い掛かる。
「ぐっ、お前が、本当に怖かったのは、この世界で何ともつながりを持てないことだ!」
シロウの前にラーミアが立ちはだかる。
アルバスの放った魔法の群れは、彼女の盾を前に散った。
それでも、一番前に立っていたラーミアだけは軽く負傷した。
しかしその傷も、ナッツによって瞬く間に治療されていく。
「黙れと言っている!」
「怒るのは図星だからか? お前が世界征服を目指した理由を当ててやる。欲しかったんだ、お前はお前のいる場所を! 自分の居場所が欲しかったんだ!」
「黙れ……いや黙らなくていい。二度とその口開けないようにしてやる」
アルバスが地面を踏みぬいた。
瞬間床が隆起する。
地面が姿を変えて、悪魔のような像がずらっと立ち並ぶ。
「アルバス」
シロウを拒む彼に、しかしシロウは穏やかに、目を見て語り掛けた。
「大丈夫だ、俺たちはきっと、友だちになれる」
アルバスの手が止まる。
(アルバス! お前、シロウがここまでお膳立てしてくれたんだぞ⁉)
わかってるよな⁉ お前に何が求められてるか、わかってるよな!
フリじゃないからな!
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