第11話 ササリス×シリアス×ハッピーアイスクリーム!

「ボクは――んぐっ!?」


 何かを言いかけたアルバスに突如襲い掛かるササリスの糸!

 おいこら待てや!

 いま、アルバスくんが何か言おうとしていたでしょうが!


「やめろッ!」


 シロウが手を前にかざす。

 指先で淡く青い軌跡を描く。


ケナズッ!」


 火球がササリスの糸へと伸びる。


 一度はイサのルーン魔法に使っていた糸もろとも焼き切った炎だ。

 だがしかし、どういうことか。


「なっ」

「うん。やっぱり切れてない。さっきは意識が緩んでたかな」


 今回はまったく焼き切れない。

 焼ける気配が微塵も感じられない。


 それはそれとして、ササリスに気が緩んでいないタイミングなんて存在するのだろうか。

 ツッコミ待ちか? ツッコミ待ちなのか?

 本気で言ってそうな気もする。


「やめろ! せっかく心を開きかけてくれていたのが、お前にはわからないのか⁉ 争わずに済む道だってきっとあったはずなのに!」

「あのさ、ウザいんだけど、そういう偽善」


 ササリスがばっさりとシロウの言葉をぶった切る。


「でもま、こう見えてあたしは優しい性格でね」

 ん?

「あんたみたいに、相手の意見を頭ごなしに否定したりはしないよ」

 自己主張が激しいけどな。

「こいつが改心する未来もあるかもね。でもさ、それってムカつくんだよね」


 シロウが何かを反論しようと口を開きかけ、それをササリスの言葉が遮った。


「こいつが心を改めたとしても、過去が変わるわけじゃない」


 だから、シロウは口を閉ざすしか、できなかった。


「アルバスには個人的な恨みがあるんだよね。『過去に悪いこともしましたけど、いまは真人間やらせてもらってます』なんて言われても、はいそうですかで済ませられないほどの私怨がさ」


 シロウがアルバスに「お前、彼女に何をしたんだ?」と問いかけた。ササリスの糸で口を塞がれたアルバスは小さく首を横に振って覚えが無いと表現した。


「罪は償わせない。こいつはあたしが裁く」


 ……俺はいま、世紀の大発見をしてしまった。


(ササリス、怒らせたらシリアスができるのでは!?)


 これはすごい発見だ!

 後世まで語り継がれてしまう!

 これでノーベル平和賞は俺のモンだッ!


「だけど! 人が人を裁くなんて、法が許さない!」

「あはは、甘いね、自分から規律に従いに行くような弱い人間の発想は」


 アルバスとわかり合える兆しが見えたから、ササリスともわかり合えるとでも思ったか?

 残念だけど、シロウ。

 お前たちと俺たちでは、育ってきた環境が違う。


「そんな甘えた考え、あたしたちの故郷では通用しない」


 弱者は強者の食い物にされる。

 強くなければ生き残れない。


 ササリスはそうやって生きてきた。


「ぐっ」


 ササリスが糸を引き絞る。

 アルバスの首にくくられた糸が、やつをじわじわとなぶり殺していく。


「やめろ!」


 シロウがササリスの糸を焼き切ろうとした。

 でも、できなかった。


 だから、シロウは泣き出しそうな様子で、

「やめろ、やめてくれ!」

 ササリスに訴えかけた。


「やだ」


 だけどササリスには通じない。

 無感情で、淡々と、アルバスを死線の向こう側へと葬り去ろうとしている。


 だから、いよいよ、シロウはササリスに指先を向けた。


「やめてくれ! やめてくれないと――」

「攻撃するかい? あたしを」


 ササリスがシロウをあざけった。


「あはは、見たものか。話せばわかるなんてきれいごとを言っても、それが本質! 相容れない思想を前に、最後は暴力に頼らざるを得ない」

「違う! 俺は!」

「本気で攻撃するつもりはなかった? ならそこで指をくわえて見てな! 罪人が一人、この世から消える一瞬を!」


 十年以上の付き合いだから、彼女についてわかることがある。

 ササリスは人を扇動するのがうまい。

 心を掴むのがうまい。


 相手の心の機微を読み取って、彼女の意図する方向へ誘導する才能に、この上なく長けている。


 それはひるがえせば、相手を怒らせるポイントをわかっているということ。


「やめろぉぉぉぉぉ!」


 シロウのルーン魔法が炎となってササリスへと襲い掛かった。


「あはァ」


 ササリスは笑った。

 いい性格してるよなぁ、褒めてるわけではないけれど。


「なっ、この水流は……!」

「シロウ! ナッツ! 危ない!」


 彼女の放った水魔法は龍の形を模して、シロウの炎を返り討ちにした。

 というかそれ俺が使ったラグズと【龍】の合わせ技のパクり!

 ただの水魔法でいともたやすく再現してんじゃねえよ!

 くそ! これだから天才は嫌いなんだ!


「ラーミア! ラーミア!」

「大、丈夫だ」

「しっかりして! すぐによくなるから、回復魔法が、あるから!」


 シロウとナッツを庇い、ボロボロになったクルセイダーをナッツが癒している。

 実力以上に思いあがった代償を、ササリスが侮蔑するように見下している。


「それ見たことかい。綺麗事だけで信念を貫き通せるほど、この世は美しくできていない」


 ササリスが突きつけた残酷な真実。

 を、真正面から叩き切る声が響く。


「それでも、綺麗事が通じる場合もあるだろうさ」

「……え」


 ササリスが小さく驚いた。

 この期に及んでまだ言い訳がましく食い下がられたから、ではない。


「なんで」


 彼女が驚いたのは、声の主。


「あたしの糸が、破られた? 二度も?」


 拘束していたはずのアルバスが、いつのまにか糸を攻略し、自由の身となっていたからだ。

 そして、シロウの隣に、肩を並べた。


(そろそろ俺の出番かな?)


 いい感じに場が盛り上がってきたし、ここでいいところをかっさらいたい!


「どうい――」

「どういう風の吹き回しだい、アルバス」


 あっぶねー、ササリスと同じセリフ言うところだった。

 いらねえんだよ、以心伝心。


「どういうって、まあ大した話じゃないんだけどさ」


 アルバスは不敵に笑った。

 勇者を前にした魔王が威厳を示すように、尊大に。


「こっちについた方が面白そうだ」


 おおおおおお!


「アルバス!」

「いくぞ、シロウ」


 主人公とラスボスのドリームタッグ!

 これが見たかったんだよ!


 でかしたぞササリス!


 戸棚の下に小判があるから後であげるね!

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