第3話 お願い×フェルトン×死なないで!
「
運命を意味するルーン文字を出力全開で発動する。
ふはは、フェルトン。
貴様はすぐに知ることになるだろう。
たとえどれだけ身を隠そうとも、俺に見つけ出される運命からは逃れられないということを。
「うん?」
ルーン魔法に従って、運命が強く感じ取れる方へと向かっていくと、最大値となる地点を通り過ぎてしまった。
フェルトンを見落としただろうかと振り返ってみるが見当たらない。
だが、代わりに、見落としがちなポイントを見つけた。
(流砂か?)
昔鳴門海峡で渦潮を見たことがあるが、それと似たような渦巻き状のくぼ地が、通り過ぎた砂漠には広がっていた。
(さすがに海神様を流砂の中に連れ込むのは気が引けるな……。ありがとう、また後でな)
ということで海神様から流砂に向かって一気にダイブ。
海神様は笑みを浮かべた後、北へと飛び立っていった。
俺は親指を立てておいた。
流砂に顔が埋もれた後も、親指だけは掲げ続けた。
親指を立てて流砂に呑み込まれていくシーンと語り継いでもらいたいものである。
「さて」
流砂に呑まれ終わると、だだっぴろい洞穴に俺はいた。
流砂の下には水脈が広がっているのかと思ったが、存外そういうわけではないらしい。
「【探知】」
文字魔法で周囲の様子を探る。
胴回りが直径50メートルある蛇が掘り進めたトンネル。
そんな印象を受ける。
かつては存在した水脈が枯れた跡なのだろうか。
案外本当に巨大な怪物がいて、その住み家だったのかもしれない。
後者の方がロマンがあっていい。
ぐねぐねと蛇行する穴を、俺はルーン文字に従って進んでいく。
(このあたりだと思うんだけどなぁ)
同じ場所をぐるぐる回っている気がする。
なんかもうめんどくさいな。
「【
洞窟の崩壊するリスク? 知らないね。
おら、出てこいフェルトン。
このあたりにいるのはわかってんだよ。
岩壁が爆撃によって瓦解していくと、その背後に、禍々しいオーラを放つ空間がこじんまりと広がっていた。
その隠し部屋と呼ぶべき場所から、体の内側で響くような不快な羽音が溢れてくる。
またあのハエか。芸がないな。
と、あきれ返っていたのだが、どうにも様子がおかしい。
(人型?)
さきほど見かけたハエは明らかに人の何倍も大きかったが、その空洞にいたのはせいぜい成人男性程度の体長だ。
だが、その容姿は人とも昆虫とも区別がつかない。
「誰だ、俺の領域を踏み荒らす狼藉者は」
たとえるなら、昆虫の
「貴様、ク、クロウ!」
え、誰。
なんで俺の名前知ってるの。
「ふ、ふん。わからない、という顔だな」
うん、そう、そうなの。
マジでお前誰。
「知りたいか? そうだな、特別に教えてやろう。俺がいったいどのようにしてこの強大な力を手に入れたかを」
いや、それは興味ない。
まずはお前が誰か名乗れよ。
「この紋章がわかるか?」
ハエ男は左手に巻いた包帯を外して、手の甲と、そこに記された奇妙な紋様をこちらに見せた。
知らない模様ですね。
「そうだ。これはかつてアルバス様の配下として世界を混沌に貶めた眷属、暴食のベルゼブブの証! 俺は強くなった! この力で今度こそアルバス様のお役に――」
「【殺虫】」
「ぐええぇぇぇえぇぇ⁉ な、なにをする!」
うわ、死なない。キモイ。半分人だからか?
「話、長くなるかなと思って」
「聞けよ! この俺の覚悟と、アルバス様に対する忠誠心を……なんだ、これは」
ハエ男の体が、ぐずぐずに溶けていく。
翅やら触覚やら複眼やら、人ならざる構造が、腐食したようにボトボトと落ちていく。
(あ、わかった。【殺虫】の文字がハエ成分にだけ効いたんだ)
それで、昆虫と合成される前の人間部分だけを残して腐り落ちて行っているということだな。
「ぐあぁっ、抜ける! 俺の力が、アルバス様にいただいた、暴食の力が!」
さて、その面拝ませてもらおうか。
いったいどこのどいつだ。
……え。
「お前」
どろりと腐敗した昆虫要素がはがれ落ちると、そこから見しった顔が現れた。
金髪オールバックに、色白の肌。
こいつは、間違いない。
「フェルトン、だったのか」
衝撃。
もうね、ごんぎつねの最後、気分的には。
まさかこの世界に来て俺が「そんな、どうしてキミがっ!」をやる側に回ろうとは。
恐れ入ったよフェルトン。
「ふ、ふざけるな! クロウ、俺は貴様のことを忘れたことは無かった! それなのに、いまのいままで気づいていなかったというのか!」
いやまあ冷静に考えたらフェルトンしかいないんだけどさ。
フェルトンと言えば美形じゃん。
悪役令嬢ものに登場する主人公に婚約破棄を申し出る暴君タイプの美形じゃん。
それがハエの見た目してたらわからなくない?
声だってなんかボイスチェンジャー通した感じのダミ声だったし、俺悪くないよね。
「チクショウ! 本当は使いたくなかったが、アルバス様にいただいたもう一つの力! それをいま、解き放つ!」
フェルトンが何かを取り出した。
俺は考えた。
どうしてこいつが口を開くと、何もかもがダサく聞こえてしまうのだろう、と。
「後悔してももう遅い! これで終わりだ、クロウ!」
フェルトンが取り出したのは、コルク栓をした試験管のような筒状の何かだった。
きゅぽんと小気味いい音を立てて栓が抜かれる。
するとそこから、なにかおぞましい気体があふれ出てきた。
その気体は、フェルトンに対し、まとわりつくようにとぐろを巻いている。
「ぐっ、何をする、違うっ、呪い殺す相手は、俺じゃない、あいつだ!」
なにやってんのあいつ。
自滅?
「やれやれ……ボクはね、君には期待していたんだよ、フェルトン」
不意に、声がした。
「ア、アルバス様っ、たす、助けて」
「あはは、その力は使うなと言っただろう? 言いつけを破った罰さ、これは」
「そん、な。俺はただ、あなたの役に立ちたい、その一心で」
あー、なるほどね。
完全に理解した。
「ああ、うん。お疲れ」
これは、フェルトンくんがアルバスくんに切り捨てられるあのシーンですね。
「そん、な」
フェルトンが、信じられない、信じたくないと、瞳でアルバスに訴えている。
必死にすがり、情熱を伝えようとしている。
だが対照的に、アルバスの態度は氷のように冷たい。
「バイバイ、劣等種」
……あれ?
このシーンに立ち会うのってシロウじゃなかったっけ?
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