第11話 白×白×Answers
違うだろォ、違うだろッ!
そこはシロウが来てアルバスと戦い始めるパターンだろ!
「ササリス、ちょっと来い」
「えぇっ⁉ こんなところで⁉」
「お前は何を想像しているんだ?」
とにかく、プランAは失敗だった。
こうなればプランBしかない。
つまり作戦はこうだ。
俺にさらわれたナッツを追って古戦場までやってきたシロウ。
だが、そこにいたのは太古の邪悪、アルバスだった。
シロウは幼馴染を救うべく、強大な敵へと挑むのだった。
作戦に抜かりなし!
(シリアスブレイクの元凶を取り除けばシロウとアルバスで勝手にシリアスやってくれるやろ!)
気づいたのだが、俺にできる最大の支援って、シロウの前に立ちはだかることではなく、ササリスをシロウに近づけないことなんじゃ……。
うーむ、気づいてはいけない真実に触れてしまった気がする。
気づかなかったことにしておこう。
「クロウ! どこにいる、答えろ!」
俺とササリスが古戦場より100メートルほど標高の高い場所に移動し終えたところで、一人の少年が声高に存在を主張した。
黄色の肌に黒い髪、シロウだ。
「やあ、はじめまして、だね。シロウ?」
「誰だ」
「ボクか? そうだな、アルバス、とでも呼んでくれ」
「アルバスだとッ⁉」
シロウが張り裂けんばかりに目を見開き、重心を落として警戒心を強めた。
「ああ、そんなに警戒しなくていいよ。君と争う気はないんだ。あいつの手のひらで踊るのも癪だしね。大事なお友だちなら向こうに眠っているから勝手につれて行くといい」
おい。
戦えよ。
「嘘じゃ、無いんだな?」
「ひどいなぁ、施された親切は素直に受け取るのが人情ってものじゃないかい?」
人情って、お前が言うのか。
「なりゆきでここに立っているけどさ、究極的に言えばどうでもいいんだよね、君が彼女を救出できようとできまいと」
しばらく決断できずにいるシロウに、アルバスが肩を落として言葉を付け加えた。
シロウはさらに少しなやんだが、やがて決心したように動き出した。
「ナッツ! いま助けるぞ!」
駆け足でシロウがナッツの横たわる台座へと向かっていく。
ちくしょう、せっかくいろいろ仕込んだのに、全部台無しじゃねえか!
おのれアルバス、なんという邪悪!
貴様だけは許さない、絶対にだ!
――次の瞬間、心臓が震えるような地鳴りが反響した。
地震だ。それも、震源が極端に近い。
というより、これは、アルバスの魔法だ!
「あはははは、うかつに背を向けるものじゃないぜ? 素性のわからない相手にな!」
「くっ、お前ぇぇぇぇ!」
おお! アルバス!
さすがは初代ラスボスだ!
俺はずっと信じていたぜ!
お前なら俺の思い描いたシナリオ通りにシロウと対立してくれるって!
「お前もクロウの仲間だったのか!」
「仲間? 寝惚けるなよ。あいつは敵だ、ボクの倒すべきね」
「だったら、どうして邪魔をするんだ!」
シロウがキッとにらみつけて叫ぶ。
するとアルバスは少し遠い目をしてつぶやいた。
「あいつには、助けてもらった借りがあるからね」
少し悲し気な表情に、シロウが思わずたじろいだ。
「とでも言うと思ったか? どこまでもおめでたいやつだな」
「ぐうっ⁉」
シロウに生まれた意識の間隙を縫うように、直径2メートルほどの水球が彼を包み込んだ。
空気を求めてシロウがもがくも、彼を覆う水の塊は彼を解放しない。
これも、アルバスの魔法のひとつ。
「ボクが義理や人情で動くわけがないだろう」
よく言われるもんな、人で無しって。
「ボクが動く理由はただひとつ、愉悦のためさ」
水球から抜け出せずにいるシロウに向けて、アルバスはかまいたちを繰り出した。
水中でシロウの胴体に、大きな裂傷が出来た。
彼の血が水に溶け、赤黒く汚していく。
「見ているんだろ、クロウ。読めてんだよ、君の考えなんて。おおよそ、こいつの成長の糧にボクを使う算段だったんだろ」
バレてる。
「けど、残念だったね、こいつはここで終わりさ。あはは、君の誤算はただひとつ! このボクを量り損ねたことだ!」
アルバスが両手を前へと突き出した。
手首の付け根を重ねるようにして、シロウに向けて構えている。
「あはははは! シロウ、辛いか? 苦しいか? だけど残念。水球なんてまだ序の口だ」
そして彼の目の前に、特大の火球が現れた。
その矛先は、シロウの大事なナッツへと向けられている。
「ほらほら、君の大事な仲間が死んじまうぞシロウ! 君のルーン魔法は『人を助けるための力』なんだろう? 助けてみせろよ! 好いた女の一人くらい守り抜いてみせろよ!」
アルバスが嘲笑い続けている。
「あはは、そうだ、そうだ。もっと絶望に顔をゆがめろ。君ら劣等種が怯え惑う姿はたまらないね」
アルバス、確かに、俺はお前の実力を量り損ねたのだろう。
もしかすると、俺が知らないだけで、いつのまにか冒険者試験会場の封印も解除していたのではないだろうか。
だとすると、いまのシロウでは分が悪い。
でもな。
(シロウがお前に負けるとは、どうしても思えないんだよなぁ)
刹那、視界にノイズが走った、と感じた。
目に映る景色に大きな変化はない。
パッと見ただけでは違いに気付けない。
だけど、はっきりと大きく変わっているところがあった。
――戦う。
水球だ。
シロウを覆っていたはずの水球の表面に波が立っている。
静かな湖畔に、弱い風が吹いたような、小さな小さなさざ波だ。
――戦う。
だがその小さな風には、力強い息吹を感じた。
新しい何かが目覚める予感が乗っていた。
「……ハッ、なんだ、少しは見るにたえるツラするようになったじゃないか」
アルバスが、自分の右手首を左手で抑えた。
抑えた後、驚いたように抑えた手首を見つめていた。
一瞬だけ驚愕に染まった表情が、見る見るうちに怒気に染め上げられていく。
(臆したかアルバス)
あえて指摘させてもらおう。
俺の誤算がお前の実力を見誤ったことだと?
笑わせる。
「守るって、決めたんだ」
一文字のルーン文字が、シロウの眼前で瞬いている。
彼の決意を象徴するかのように、力強くその存在を主張している。
そのルーン文字の名は、
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!」
アルバスが掲げた巨大な火球を、シロウに向けて解き放った。
「なっ⁉」
だが、その火球はシロウに着弾するよりはるか手前で、自らの形を見失った。
つかみどころのない、おぼろげな炎として、シロウの周りを取り囲んでいる。
「誰にどう笑われても、決めたんだ」
実力を見誤ったのはお前だアルバス。
「俺のルーン魔法は、みんなを守るための魔法だッ! 誰も、誰も俺の目の前で傷つけさせやしねぇ!」
原作主人公の底力、なめるなよ?
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