第6話 刀匠×原作主人公×アクシデント

 つまり俺たちがドワーフの町で行うことは、妖刀ネフィリムの保管庫へと忍び込み、浄化あるいは破壊を行うだけ。めちゃ簡単。


「毎回思うんだけどさ、師匠の知識ってどこからやってくるわけ?」

「どこって、妖刀ネフィリムはガイドブックにも載ってるくらい有名な展示品だぞ」

「ガイドブックに⁉ 呪いの刀が⁉」

「一般展示されてるのは模造刀だけどな」


 妖刀ネフィリム本体は、人目のつかない場所で厳重に保管されている。

 その妖刀を盗み出すべく、俺は管理している、妖刀を生み出したドワーフの直系子孫の家を訪ねた。


 彼の家の近くまで来ると、声が聞こえてきた。

 地面が揺れるほどの、強い怒号である。


「ええい! うるせえ! 帰れクソガキ! オレは剣を作るのをやめたんだよ!」

「そんな、待ってください! 俺にはあなたの剣が必要なんです! この町一番の刀鍛冶と呼ばれたあなたの剣が!」


 そのドワーフは、人と話をしていた。

 話し相手には見覚えがあった。

 シロウである。


(うーわ、また鉢合わせるのかよ)


 しかも結構入っていくのが気まずい雰囲気。

 どうしようかな、待っておこうかな、話が終わるの。


「ケッ、刀を必要としている人間なんざ信用できるかよ」

「どうして!」

「坊主、お前さん、オレの刀で何を斬るつもりだ?」

「そ、それは」


 一転して神妙な空気で話し始めた二人。

 ドワーフの町は彼らの豪胆さと実直な気質上、開放的な家が多いのだが、この家は妖刀ネフィリムの保管庫としての役割も果たしている。

 窓やドアはきちんと内外を隔てていて、彼らが声を潜めれば、外から聞き取るのは難しい。


 そこで、属性空の魔法による聴覚強化ですよ!


「答えれねえのは、やましい気持ちがあるからだろ」

「うっ」

「刀ってのは究極、殺傷のための凶器だ。賢者はこれに頼らず、さらなる賢者はそもそも帯刀しない。暴力は、暴力を呼ぶだけだ」


 ドワーフは歯切れ悪く言った。

 何かを悔いているようにも聞こえた。


「こんな単純なことに気付くまで、オレは何十年と棒に振っちまったがな」


 彼の言葉と態度から、何があったかはおおよそ見当がつく。

 彼の鍛えた刃が誰かを傷つけ、彼の大事な誰かが復讐の怨嗟に巻き込まれたのだろう。


(血は、争えないんだな)


 大切なこと、大切な人、少しずつ失いながらも刃を鍛えることだけに専念し、気づいたとき、彼の手には何も残っていなかった。

 妖刀ネフィリムの刀匠が、その刀を最後に刀を打つのをやめたのも同じ理由だ。


「シロウは違うよ! たとえ刀の本質が人を傷つけるためのものだとしても、シロウはそんなことに刀を使わない! 使うとしたら、誰かの笑顔を守るためだよ!」


 ナッツが反論する。


「ほざけ小娘! 剣士が敵を斬らずにどうやって人を守るッ! 矛盾してんだよッ、てめえらの生き方はッ! 人を守るために人を傷つける? そんな免罪符が許される世界じゃねえんだ、現実はよォ!」


 一息の間にまくしたてたドワーフは、最後に大きく息を吐いて、疲れたようにつづけた。


「もう、帰ってくれ。頼む」

「でも」

「帰ってくれ!」


 しつこく食い下がろうとナッツが何かを言いかけたが、それが認識できる言葉になることは無かった。

 代わりに聞こえてきたのは、シロウの声。


「すみませんでした、俺たちは、これで」


 なるほど、だいたいわかった。


(つまり、刀を作って欲しいシロウと刀を作りたくないドワーフがもめてるってことだな)


 シロウが刀を求める理由は明言されていなかったが、力を求める理由はナッツが答えてくれた。

 誰かを守るため。

 それはつまり、いまの自分では力不足だと認識し、さらなる力を手にしなければいけない相手がいると考えての行動の証左だ。


 では、シロウがもっと強くならないと勝てないと思っている、倒すべき相手とは誰か。


 そう、俺じゃん!


 かー、悪い気はしねえっすわ。

 シロウくんが俺と戦うためにこんな必死になってくれてるなんて。

 思わず肩入れしたくなっちゃうじゃねえか。


(このドワーフにはシロウに剣を作ってもらいたいな。でもどうやって? 俺が頼みに行ったところでシロウの二の舞だろう。アプローチはシロウと補い合える形が理想的だ)


 うーん、どうにかドワーフとシロウの仲を取り持つことはできないだろうか。

 欲を言えばこのドワーフとは仲良くならずに済ませたい。

 この後襲撃する家の主と仲良くなるのって気まずいからね。


 どうしたものか。


(ん? あるじゃねえか、二人が手を取り合わざるを得なくする状況で、しかも妖刀ネフィリムが俺の手に収まる手段)


 答えにたどり着いてしまえば、これしかないと思える一手。

 どうしてこんな単純な解決方法をすぐに思い付けなかったのだろう。


 派手にやるかー。


「【爆裂】」


 の、文字魔法をシロウたちとドワーフがいる家に向かって放つ。


「な、なんだぁ⁉ オレの家はどうなったんだ⁉」

「くっ、みんな、無事かッ⁉」

「ラーミア、あたしたちを庇って酷い怪我! 待ってて、いま回復魔法をかけるから!」


 困惑するドワーフ、みなの無事を確認するラーミア、仲間思いのナッツ。

 そして、


「この魔法、この威力、まさか」


 俺の生き写しのような姿をした少年が、俺に向かって視線を送った。


「クロウ!」


 そして、すぐさま臨戦態勢を取り、警戒心をむき出しにした。


「またお前か、シロウ」

「こっちのセリフだ! 無関係な人を巻き込むなんて、どういう了見だ!」

「あ?」


 少し考えるふりをして、間を開ける。

 考えるまでもなく、シロウの言い分はわかっているのだけれど、あたかもいま来たばかりで状況を把握できていない風を装う。


「くっはは、まさかシロウ、こいつが何者かも知らずにここに来たのか?」

「お前がこの人を傷つけていい理由なんざ知らねえッ!」


 くっ、即座にそんな返しができるなんて!

 成長したな、シロウ。

 お兄ちゃんは嬉しいぞ。


「くっはは、そうか。まあいい、どの道、結末は一つだ」


 ん、待て。

 ササリスはどこに行った。

 あいつがこんな長時間おとなしくしていられるはずがねえ。


 ……すごい不安。

 いったい何をやらかしてるんだ。

 でもここまでやっちまった以上、ササリスを探してキョロキョロするわけにもいかないし、最後まで言い切るか。


「妖刀ネフィリム、そいつをこっちに渡せ」

「なっ」


 ドワーフの表情が、一瞬で驚愕に染まった。


「し、知らん! オレはそんな刀、知らん!」

「ほう、ならば少し調べさせてもらおうか、力づくでもな」


 シロウ、ラーミアが前に出て、ナッツがドワーフを庇うように後ろに下げた。

 息の合った五人の連携。

 冒険者試験会場で会った時から、数々の経験を獲得してきたんだとわかるとちょっと感動。


(ん? ちょっと待て、五人目のシルエット誰だよ)


 ラーミアだろ、シロウ、ナッツ、ドワーフ。

 四人しかいないよな?

 五人目って誰だよ。


「師匠ー、あったよ! それっぽい刀!」


 お前かよッ!


「なっ、それは先祖代々伝わる呪われた妖刀!」


 そしてもう見つけてきてるのかよッ!


「えへへー、師匠師匠、褒めて褒めてー」


 よーし、いい子だぞササリス。

 後でグーパンチな!

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