第5話 以毒×制毒×呪物
ラスボスを復活させて原作主人公にぶつける悪魔の所業、はーじまーるよー。
計測はアルバスと交渉が成立し、ドワーフの町へと引き返したところから。
はい、よーい、スタート。
「ねえ、師匠。どうしてアルバスを復活させる気になったの? お母さまに不敬を働いた不埒者だよ?」
「お母さま言うな」
ササリスが口を尖らせて言っている。
まあ、それはそう。
俺だってあいつを許したわけじゃない。
だが、昔といまでは状況が変わったところと、変わらないことがある。
「昔と変わったのは、俺の実力だな」
当時はまだ血文字の魔法の能力把握に精を出していた時代だった。
つまり、昔はアルバスとシロウを同時に相手取る余裕なんて無かったわけだ。
だが、いまは違う。
「親父殿と出会い、
アルバスとシロウ、二人がかりでも圧倒できる切り札が俺にはある。
しかし、悲しきかな。
圧倒的力と圧倒的つまらなさは並行して訪れる。
いまなら、数々のダークヒーローが口にしてきたあの名言を口にできる。
つまり、こういう感じ。
◇ ◇ ◇
アルバス復活の儀により崩壊した四性質のバランス関係。
惑星規模での滅亡がカウントダウンを始める中、シロウが宿敵クロウと、大火山の噴火口で死闘を繰り広げている。
いや、より正確に表現するなら、死闘を繰り広げて
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
ほんの少し前までは現在形、しかし既に過去形。
己の影のようなクロウはしかし、シロウの実力をはるかに凌駕していた。
「どうした、この程度か?」
「くっ」
クロウがシロウの前髪を乱雑につかみ、無理やり面をあげさせる。
シロウが歯を食いしばる。
眼光に闘志の炎を揺らめかせてにらみつける。
「もっと俺を楽しませろ、シロウ!」
◇ ◇ ◇
ダークヒーローになったからには言ってみたい!
もっと俺を楽しませろって言ってみたい!
「師匠がすっごく強くなったのはわかるけど、あたしは反対かな。わざわざ師匠が復活させてあげる必要ある?」
あるだろ。何言ってんだ。
アルバスが復活しないとできないだろ。
シロウとアルバス、原作主人公とラスボスによる夢の共闘マッチが!
たとえばこんな感じ。
◇ ◇ ◇
「くそっ、勝てないのか……俺は、あいつに!」
深刻な表情で、シロウはいよいよ膝をついた。
死力を尽くした。万策尽きた。
彼の命運もまた尽き果てかけている。
「チィッ、なにをぼさっとしている劣等種ッ!」
そんな彼に声をかける存在が一人。
「お、おまえは! アルバス!」
「アルバス様、だ。劣等種が」
太古の時代に悪逆の限りを尽くした、いまは民なき王、アルバスである。
「やつを殺す、力を貸せ、劣等種」
「だけど、俺のルーン魔法じゃ、あいつには」
「寝惚けるな。やつも貴様と同じルーン使いだ。それでも、やつが貴様の上位互換だと感じるならば――」
口端にできた傷跡。
そこにたまった血を親指で払い、彼はシロウの隣へと並び立った。
「超越してみせろ、これは王命だ」
シロウは一拍、あっけにとられ、だが、すぐに笑みを浮かべた。
胸の奥に淀んでいた不安の闇が、晴れていく。
いまなら、なんだかいけそうな気がする。
「その王命は聞けないかな、殺すのは無しだ」
「チッ、どこまでも甘い奴め」
震える膝に鞭を打って、シロウは再び立ち上がる。
一度は拳をぶつけ合ったアルバスと肩を並べて、さらなる強敵へと向かい合う。
「うぉぉぉぉぉぉッ!」
◇ ◇ ◇
うんうん。
仲たがいは共闘の第一歩である。
俺はその手助けをする、いわば戦のキューピッド。
それってヴァルキリーでは?
まあいい。
どうせこっちを説明するつもりはない。
ササリスを納得させるための言い訳は既に考えてある。
「勘違いするなよササリス。アルバスを復活させるのは手段であって目的ではない」
「へえ? じゃあ師匠の目的って何さ」
シロウとアルバスが共闘するシーンが見たい。
という本音は建前で隠しましょうね。
「アルバスをこの世から葬り去る、今度こそ、確実に」
「ああ、なるほどね。それは確かに、あいつを蘇らせないとできないね」
ササリスは一度、俺がアルバスを取り逃したところを目撃している。
正攻法ではどれだけ追い詰めたとしても完全に消滅させられないと知っている。
そういう背景があるから素直に納得してくれたみたいだ。
「でも、どうやって封印解除を試みるつもり? 無関係のドワーフを巻き込むのは気が進まないんだけど」
「大丈夫だ、問題無い」
ここでアルバスの封印について少し解説。
「スラム街に浄化活動する樹を育てたことがあっただろ?」
「うん」
「疑問に思わなかったか? 浄化作用のある樹木が、どうして邪悪な存在の封印解除の一助になるのか」
「特に何も」
「そうか」
じゃあこの話はやめよう!
「毒を以て毒を制する、ってやつでしょ? 邪悪な存在を封印するために聖なる力ではなく、さらなる邪悪な力を利用した。違う?」
「あってるけど、癪」
それは俺が言いたかったセリフ!
くそう、いつもいつもいいところばっかり持っていきやがって!
「まあ、つまりそういうことだ」
ヒアモリの故郷では、凶暴な魔物が愚者の禁門に封印されていた。
冒険者試験会場は通称魔の密林。
数多くの人が遭難し、大量の死体が地中に眠る呪われた土地である。
「このドワーフの里にも、いわゆる呪物と呼ばれる類の代物が存在している」
太古の昔から連綿と続く、鍛冶職の総本山。
中でも一人、ひたすらとある武器に魅入られ、その生涯をその武器の精製にのみ捧げた男がいた。
彼が魅入られた武器とは、刀。
「その呪物は現代、畏怖を込めてこう呼ばれている」
妖刀ネフィリムとな。
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