第4話 ラスボス×ダークヒーロー×結託
ドワーフの住む岩山を地下に向かって下っていくと、岩壁の様子が少しずつ変化してくる。
砂岩質の岩肌は割合が減っていき、代わりに結晶質の鉱石が多く見かけるようになる。
この鉱石は魔力を多く含んでおり、扱いは難しいがうまく鍛えれば一級品の武具ができる。
ドワーフがこんな山奥に住むのは、ひとえにこの鉱石が存在するからだ。
その鉱石が一面に広がる空洞にそいつはいた。
白い髪に赤のハイライト。
玉座に胡坐をかいてグーで頬杖をつく不遜な態度で自分以外を見下す男。
俺はこいつを知っている。
「やあ、クロウ。君から接触してくるなんて、どういう風の吹き回しだい?」
古代に滅びた文明の王、アルバス。
そいつが傍らにフェルトンをひざまづかせて俺を出迎えていた。
「寂しい王座だな。民なき王など滑稽だ、そう思うだろアルバス」
「嫌味なやつだね。そんなことを言うために、わざわざボクに会いに来てくれたのかい? 悪いけど、ボクとしてはまだ君とことを起こしたくないんだよね」
まだ、ね。
「本当さ。だから君たちの故郷にはあれから手を出していないだろう?」
アルバスが白々しく言った。
ササリスがムッと機嫌を悪くして即応する。
「盗みは働いたみたいだけどね。冒険者試験会場でそこの金髪に接ぎ木させてた枝葉、あれは師匠があんたの封印を弱めたときの代物だろう?」
アルバスはニコニコと人間味の無い笑顔を見せるばかりだ。
俺たちがフェルトンの工作について把握しているところまで織り込み済みだったというところか。
「あはは、怒らないでよ。言っただろ? ボクはあの樹を気に入っているんだ。好きなものを世界中の人に知ってもらいたいと思うのは普通のことだろう? ただの布教活動じゃないか」
「わかる」間髪入れずにササリス。
「意気投合してんじゃねえよ」
うんうんと頷くササリスに思わずアイアンクロー。
「いだだだだ」
「ボクが言いたいのは悪気はなかったってことさ」
「痛い痛いっ!」
「クロウ、君だってどうだっていいと思っていただろう? なんだったらボクが復活しようがしまいがどうでもいいとすら思っていたんじゃないかい?」
「いだだだだ」
「それが、どうしていまになって邪魔しに来るんだい」
アルバスのスルースキル高いな……!
ササリスを完全にいないものとして扱っている!
なるほど、それが正しい対処だったか。
さすがは1作目のラスボス。
形は違えど、俺と奴は同じく敵役のロールを与えられたキャラクター。
学ぶべきところは多いな。
というか、アイアンクローをやめろって話だな。
「邪魔をしに来たつもりはないんだがな」
「あっ、やっと解放されたぁ」
ササリスが両手で頬をすりすりしている。
いや頬っぺたではないだろ痛いところ。
さてはノーダメージだな?
他方、アルバスは笑みを薄めてこちらの腹の底を探るように目を細めている。
「意趣返しかい? ボクに君の下につけとでも?」
「いらない」
問題児はササリスで手一杯なんだ。
他を当たってくれ。
「アルバス、お前の復活に少しだけ手を貸してやってもいい」
アルバスからいよいよ笑みが消えた。
余裕が無くなってるぞ太古の王。
「ふぅん? それで、君はボクに何をさせるつもりだい?」
「難しいことじゃねえよ」
この場で【紙】を作り出すとそこに【念写】を発動してアルバスに向けて飛ばす。
あ、やべ。
あいつ精神体じゃん。
形あるもの投げてもすり抜けちゃうじゃん。
と思ったら謎の力が働いて、アルバスの直前で紙が停止した。
地属性と風属性の複合魔術だろうか。
よくわからない。
「その男を叩きのめせ」
投げつけた紙に念写で描かれた人物は、もちろん俺のそっくりさん、シロウだ。
アルバスはちらっと写真を見ると、俺へと猜疑の目を向けた。
「ふぅん。確か、シロウって言ったっけ。確か彼もルーン魔法の使い手だったね」
「そうだな」
「君たち、どういう関係?」
アルバスがいよいよ真剣な目で問いかけた。
だから俺は思った。
これはゲーム化されたらイベントシーン間違いなし。
一章分のシナリオが終わって次の章に移る前に、一方そのころ、シロウの宿敵たちはこんなやり取りをしていたって感じで意味深に描写されるシーン。
プレイヤーが気になっているクロウとシロウの関係性が解き明かされるのか⁉ って緊張感が高まるシーン。
問題はここでアルバスに開示するかどうかだ。
ここで告白しておけば、ワンチャンシロウとの対決時にいい感じで告げてくれる可能性がある。
うん、教えておこうか。
「やつとは――」
「はいはーい! あたしもそれすっごく気になる!」
いや待てよ⁉
ここで話すってことはササリスにも俺とあいつの関係が知られるってことだな⁉
ちょっと待って考えさせて。
これまでのササリスから導き出される、「俺とシロウは兄弟」とわかったときのリアクションは、たぶんこう!
◇ ◇ ◇
「そ、そんな」
衝撃の事実を告げられ、ササリスは嘘だといわんばかりに口を手で覆った。
「あたしとシロウは、義姉弟だった……⁉」
◇ ◇ ◇
めんどくさい!
至極めんどくさい!
ササリスがいる前で俺とシロウは異母兄弟だなんて口が裂けても言えるか!
「アルバス、貴様が知る必要は無い」
くっ、数々のダークヒーローが使ってきたこの台詞を、まさかこんな形で使うことになるなんて。
もっとカッコいい感じで使いたかった。
「はいはい、わかりましたよっと」
アルバスは再び薄ら笑いを浮かべて悠々と座り直した。
「取引は成立だ。ただし、報酬は先払いで頼むよ。君が持ち掛けてきた話なんだから当然だよね」
よ、よし。
俺の情けない内心はバレてないみたいだぞ。
守り切った、悪役の矜持!
やったぞ、俺!
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