幕間
幕間×WHITE×地
数日明けて、クロウたちが立ち去った集落のはずれ、ぽつんと立つ家屋にて怒声があがっていた。
「クソがぁぁぁ! またあいつか! いつもいつもボクの邪魔を!」
否。
正確には怒声など誰も発していない。
発声をしていないのだから、音波もなく、その声を聞き取れるものもいない。
ただ一人、プラチナブロンドの髪をオールバックにした色素の薄い肌の青年を除けば。
「お、お鎮まりくださいアルバス様」
「鎮まれだと? 誰に向かって口をきいている、偉くなったものだなぁ? ああ? フェルトン」
青年の名前はフェルトン。
太古の昔に封印された文明の王、アルバスを復活させるために東奔西走している健気なかませ犬である。
「いい加減にしろよ、フェルトン。ボクの気は長くないんだ。いったいいつになったらボクを復活させられるんだ?」
「ぐぇ、ア、アルバス様」
余談であるが、クロウたちがこの集落を訪れたときに出会った栗毛の少年が言っていた「地面が揺れた」というのは、アルバスの怒りだ。
全力には程遠いとはいえ、彼の封印は着々と解除に迫っている。
精神体としてだが、活動を再開できる程度には復活に近づいている。
もっとも、それで彼の心が満たされるかどうかは別の話だ。
「この集落にはボクを封印する一つである愚者の禁門があるから、それを壊せと言ったよね。そのための手段も用意した。かつてはボクたちを散々脅かした神獣フェンリルの成れの果てを操る術まで用意してね」
アルバスはフェルトンに、愚者の禁門の破壊を望んでいた。
フェルトンはそれに失敗した。
これまでの功績は関係ない。
今回、大きな失態を犯した。
だから許さない、絶対にだ。
「君の無能っぷりに、ボクの心はズタズタだ。人の心の痛みがわからないなら体験してみるかい? 永遠の眠りにつけば、ボクの気持ちがわかるだろうさ」
アルバスたち古代文明人の本質は残虐だ。
人殺しをゲームと称して競うことが、彼らにとっての何よりの娯楽だ。
まともな感性の人間が、彼らの心を知ることは不可能である。
また、アルバス自身にも、人の心の痛みがわかるはずもない。
だからこの問答に意味など無い。
ただ、力の一端を解放し、フェルトンをいたぶり、それに悦楽を覚える。
それがここで繰り広げられている茶番だった。
「ん?」
アルバスがふと何かに気付いたように、フェルトンへのいたぶりを停止する。
フェルトンは困惑するばかりだ。
なにせアルバスが感じ取ったのは、集落に向かってやってくる6人組の気配。
室内にいる、しかも凡夫のフェルトンには気づきようもない。
「クロウか……? いやだが、髪色も肌の色も違うな。それに、目の奥に宿る光の色も」
ここでフェルトンも、ようやくアルバスの意識が家の外へと向いていることに気付いた。
そして、彼の主人の言葉に心当たりがあった。
「アルバス様、あれは、シロウです!」
「シロウ?」
「ええ! 前にお話ししましたでしょう? アルバス様が怨敵と憎む男、クロウと同じ魔法を使う少年がいると!」
「ああ……あいつが」
アルバスは視線をシロウの方へと向けた。
フェルトンは、主人の心情が気になって、視線をアルバスへと向けた。
だから気付いた。
「へぇ、そうかぁ」
アルバスは、よからぬことを考えている。
背筋が粟立つような邪悪な笑みが、フェルトンにそう確信させた。
「面白いことが出来そうだぁ。おい、フェルトン」
「なんでしょう!」
「チャンスをくれてやる、あいつを使って愚者の禁門を破壊しろ」
「や、やつにですか? シロウの魔法はクロウに劣ります! 破壊が叶うとは、とても思いません!」
「シロウのルーン魔法では、だろう?」
アルバスがフェルトンに向けてかざした手のひらの先に、小さな炎が灯る。
その灯火がフェルトンに向けて放たれるものだから、彼は慌てて頭を下げて回避した。
彼の後ろに立っていた柱に、小さな焦げ跡が残る。
「こ、これは?」
「クロウのルーン魔法だ」
厳密に言えば、それはルーン文字ではない。
漢字と呼ばれる文字である。
かつてアルバスに刻まれた、忌々しい傷跡。
「これを使わせろ、愚者の禁門に向かってな」
柱にできた火傷痕が示す、二文字の漢字は、【
◇ ◇ ◇
※この幕間はあと3話続く予定です
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