第20話 信念×実現×手段

 悲報、ヒアモリ感覚派の天才肌だった。


 まあ彼女もフェンリルスケルトン同様、牛鬼に取りつかれたことによる転成の属性空だからな。

 感覚でとらえてるのは仕方がないとも言える。


 なんてことを、教会の交流スペースで暖を取りながら、ぼんやりと考える。


(でも文字魔法が回復したら教えてもらおう。【言語化】とか【伝授】とか使えば技術継承できるんじゃないかな?)


 あれ?

 これって疑似的な模倣スキルなのでは?

 というか直接的に【模倣】を発動すれば、ササリスの糸魔法すらコピーできるのでは?


 と思ったけど、万が一にでも制御をミスってササリスの精神に汚染されるとまずいからやめておこう。

 シリアスブレイカーの性質までコピーしてしまったらそれこそ取り返しがつかない。


「なんかいま、すごくひどい罵倒を受けた気がする」

「気のせいじゃないかな」

「そんなことないって、ね? ヒアモリちゃん」


 ササリスが人当たりのいい笑顔でヒアモリの純粋さにつけ込んでいる。


 2対1はマズい。

 ヒアモリが丸め込まれる前に味方につけないと。


「ヒアモリ、ドリアードは何の精霊だと思う?」

せいじゃないですかね?」

「ほら、ヒアモリものせいって言ってる」


 わかったかササリス。

 搦め手ってのはこうやるんだよ。


「なるほど、そんな言質の取り方が……」


 あ。

 覚えさせちゃいけないやつに覚えさせちゃいけないこと教えてしまった気がする。


 当たることを祈りながら【忘却】を使うか?

 いやだから文字魔法がいまは使えないんだって。

 これは ウィルドモードくんはしばらくお休みだな。


 さて、冷えた体も温まった。

 フェンリルスケルトンがいなくなって、外の冷気も収まってきている。


「師匠? どこ行くの?」

「修行」


 親父殿と出会って、 ウィルドモードの反動を体験したのもいい経験になった。

 おかげでやりたい演出が増えた。


 たとえばこんな感じ。


  ◇  ◇  ◇


 シロウたちの前に再び現れた、フードをかぶった謎の男。

 彼の圧倒的なルーン魔法を前にシロウは倒れてしまった!


「ぐぁ」

「どうしたシロウ、この程度か」

「ま、負けられねえ。ルーン魔法を、人を守るための魔法を破壊のために使うお前は、俺が倒す。それが、いまを生きるルーン使いの俺の使命だ!」

「人を守る? くっはは、あーはっはは!」


 ボロボロになりながらも、歯を食いしばり、闘志に満ちたまなざしを向けるシロウを謎の男が嘲笑で返す。


「何がおかしい!」

「おかしいさ。お前は、ルーン魔法があったから人を守りたいと思ったのか? 自分が特別だとでも思いあがったか?」

「そ、それは」

「ルーン魔法が無かったら、人を見捨てていいとでも思ってるのか? だとしたら、偽善もいいところだな」


 なにも、言い返せなかった。


(そうだ、誰かを守りたいって思いに、ルーン魔法のあるなしは関係ない。俺が、みんなの笑顔を守りたいと願って、それを叶える手段にルーン魔法があっただけだ)


「ルーン魔法ごとき、信念を貫くための道具の一つに過ぎん」

「ならお前は、お前はなんのために戦うんだ」

「天下を獲る。この手に必ず」


 順序が逆だったのだ、シロウは。

 いつの間にか、目的と手段が逆転してしまっていた。

 それに気付けたのは、宿敵のおかげだ。


(あいつの、言うとおりだ)


 悔しいが。


 それでも、それでも!


「それでも、俺はお前を認めねえ!」


 ルーン魔法の使い手かどうかなんて、もうどうでもいい!


「俺はお前を倒す! 俺の信念を貫くために!」

「もうわかっただろう。お前は俺に勝てない。そのまま膝をついた方が楽だと」

「うるせえ! 俺はバカなんだ」


 四の五の考えるのはやめた。


「バカだから、そう簡単に納得してたまるか!」


 あいつを倒す。

 いまはそれだけ考えられれば十分だ。


「うおぉぉぉっ、ケナズ!」


 虚空に描いた淡青色の軌跡が、爆炎となって怨敵へと襲い掛かる。


「無駄だ」

「なっ」


 シロウは自分の目を疑った。


(炎を、切り裂いた!? ルーン魔法!? いや、文字を書く様子も、発動する様子も無かった!)


 まさか、素の身体能力だけで、炎を切り裂いたのか。

 そんなはずがない。

 だが、それしか考えられない。


「感情で納得できないなら、実力で教えてやる」


 火の粉すら彼を避けて通る。

 圧倒的強者を前に、この世のすべての事象は立ち向かうことすら拒絶する。

 シロウだって例外ではない。

 面と向き合っているだけで、体が芯から震えて仕方がない。


「死に物狂いでかかってこい。そして知るがいい。貴様の半端な信念が生み出すルーン魔法では、ルーン魔法を使わない俺にすら敵わないことを」


  ◇  ◇  ◇


 そして俺が属性空の身体強化だけで、ルーン魔法を使うシロウを圧倒するのだ!

 それで最後には膝をついたシロウがこう言う。


 ――ちくしょう、チクショウッ! 負けちゃダメなのに、人を守りたいって思いで、敗れちゃダメなのに!


 がはは、これは英雄に至るのための一歩。

 間違いない。


 そしてシロウは自分の内側――どうして人を守りたいと思ったのか、どうすれば人を守れるのか――と向き合うことになるのだ。

 そして、最後には答えを出す。


 ――最初からひとつだったんだ、俺にできることなんて。俺の信念をルーンに宿し、みんなの笑顔を守る! クロウ、これ以上お前に、俺の仲間の笑顔は奪わせないッ!


 かーっ、カッケェですわ!

 さすが世界を三度救った主人公ですわ!


(見たい! シロウくんのちょっとイイとこ見てみたい!)


 よーし、やるぞ!

 極めてやる、属性空の魔法だって!


 それが理想の悪役に繋がるのなら!



 三章 聯綿伝承編 終了

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