第10話 物見塔×機関銃×無限残弾

「あたしたちが、あんたの言うこの集落の有志を知っている理由。それは簡単さ。あたしたちが、あんたらの有志の救援信号を聞いて駆け付けた応援部隊だからさ」

「ほ、本当か⁉ だったら、外に連絡を取りに行った有志のみんなも近くにいるのか⁉」

「いや、彼らは険しい山を越えて疲労していたからね。少し街で休んでもらってるよ」

「そ、そうだったのか。よかった」


 おお、ササリスが穏便に事を済ませてる。

 感動だな。そんなことできたのか。


 愚者の禁門を調べるのに、集落の人の目は邪魔だったからな。

 ここの人たちが俺たちを怪しまずにいてくれるなら調査がはかどる。

 その点で身元を明るくしたのはいいムーブだと言わざるを得ない。


「彼らからは簡単な話しか聞けてないから、一度詳しい話を教えてくれるかい?」

「うん! わかった!」


 ……なんていうかさ、思うんだけどさ。


(ササリスって人心掌握術に長けてるよな)


 スラム街のイレギュラーズを取りまとめてるのもササリスだし、ヒアモリを牛鬼付きで味方に引き込んだのもササリスだし、いまも生意気だった少年をあっさり丸め込んでる。


(それなのになぜこの優等生モードが持続しないのか)


 ちょっとはシリアスと仲良くするよう歩み寄ってくれてもいいんだぞ。

 ササリスにはちょっと難しいかな。


「あ! 大変だよ! もう日が暮れちゃう! 急いで教会に行かないと」


 教会?

 この期に及んで神様がどうにかしてくれると信じているのだろうか。


「やつらが来る!」


 栗毛の少年が言い切って、集落を取り囲うようにそびえる岩山を仰ぎ見た。

 何かあるのかと彼の視線の先を追いかけるが、何も見当たらない。


「急げって!」


 それで、彼に手を引かれて、教会へと向かった。

 日はじりじりと暮れていき、西の空には夕焼けと夜空のグラデーションが掛かっている。

 ちょうど、光が弱まる速度に目が慣れない時間帯だ。

 岩山の細部はぼやけている。


「【暗順応】」


 というわけで目を闇に慣らします。

 よしよし、これで岩山の詳細がわかるってもんよ。


 何が起きてるのかな?


(あれは、スケルトンライダーか? そうか、本隊は日が昇ってる時間に岩山で骨を休め、夜になる頃に集落へ降りてくるのか)


 栗毛の少年が言っていた「日が落ちる」、「教会に行かなきゃ」ってのはつまり、スケルトンライダーが活性化する夜を教会でしのぐって話か。


 数は、多いな。

 一匹一匹倒していると面倒だ。


 だが、籠城は性に合わねえな。


「先に行け」


 手を引き教会へと駆け込む栗毛の少年の手を振り払った。


「クロウさん、私も戦います」


 見えてるのか?

 ヒアモリならあり得るな。

 濃霧の荒野でも俺たちを視認していたし、ほんのわずかでも光が届く環境なら問題無いのかもしれない。


「あたしもやろっか?」

「いやいい。お前はその子を教会につれて行ってやれ」


 ヒアモリがスケルトンライダーたちを目視できているなら、話は早い。


「ここは俺たちだけで十分だ」


 まず作るのは【物見塔】。

 この集落は周囲を木の柵で防壁を築いているから、それより高い位置に射撃ポイントを構える必要があるのだ。


 そして次に【機関銃】。

 大量の連続射撃が可能な自動銃器で、高速かつ高火力が売りだ。


「ヒアモリ、狙え」

「主命を承諾。これより殲滅を開始します」


 宵闇を、機関銃の銃口から放たれる閃光が引き裂いていく。

 けたたましい銃声が岩山にこだますたびに、スケルトンライダーたちが木っ端みじんに砕け散っていく。


 すがすがしい勢いで残存兵力を失っていく骸骨集団だが、比例して機関銃の残弾も恐ろしい速度で消費されていく。

 このままではスケルトンライダーたちを殲滅し終える前に、先に残弾が底をつくだろう。

 そう、このままならね。


「【弾薬】、【補充】」


 わははー、スケルトンライダーどもよ。

 貴様らが相手にしている銃器の残弾は、幼児のころから魔力トレーニングを重ねて魔力タンクとなった俺の魔力がある限り無限だと知れ。


(相手、というよりスケルトンライダーたちのリビングデッドという性質がヒアモリと相性悪かったな)


 問題は、ヒアモリが一撃必殺至上主義なことだな。

 銃弾一発無駄にしてはならないと教えられて育ったヒアモリは、基本的にこの手の連射型の銃器を嫌う。

 今回すんなりと狙撃手を買って出てくれたのは、相手がスケルトンライダーで、すでに死体だからだ。

 生ある生き物が相手だったら、ヒアモリは猟銃で一匹一匹倒していただろう。


「殲滅、完了」


 ヒアモリが制約を解き放つとどうなるか、非常にわかりやすい結末だったな。


「す、っげぇぇぇぇ! 兄ちゃんたち、めちゃくちゃ強いんだな!」


 物見塔の下から、栗毛の少年の声がする。

 ササリスの奴、教会につれて行かなかったのか。

 無邪気にぴょんぴょん跳ねまわって喜んじまって。

 転んでも知らないぞ。


「いでっ」


 あ、転んだ。

 しかも俺がケナズで雪を焼き払った、むき出しの地面だ。

 これは痛い。


「ったく、おっちょこちょいだね」

「ち、ちがわい! いま、地面が揺れたんだ!」

「はいはい」

「嘘じゃないぞ! 本当なんだぞ!」


 地面が、揺れた?


(ラーミアがいてくれたら本当かどうか一発でわかったんだが)


 具体的に何が揺れるとは言わないけれど、あいにくササリスもヒアモリも豊かではない。

 何がとは言わないけれど。

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