第7話 Next×Hiamori'S×HINT

「アルカナス・アビス、ですか? いいえ。聞いたことがありませんね」


 ヒアモリの答えはあまりにも淡白だった。

 落胆が無かったと言えば嘘になる。

 直接的な手掛かりはなくても、次につながる何かの糸は見つけられるかもしれないと期待していた部分もある。


(当代牛鬼のヒアモリですら知らないのか。よっぽど機密レベルの高い話なんだな)


 そうなってくると、気になるのはササリス一家にコッペパンを差し入れていた爺さんが何者なのかだ。

 現状、俺視点だと親父殿とあの爺さんだけがアルカナス・アビスを知る人間だ。

 彼もまた、引退する前は凄腕の冒険者だったことが推測できる。


「本当に何も知らないかい? どんな些細なことでもいいんだ」

「ごめんなさい。牛鬼の記憶に該当項目は存在しません。他に手がかりになる情報はありませんか?」


 手がかりになる情報か。

 それが場所の地名であるってこととか、どこかにアルカナス・アビスに繋がる扉があるとかか?


 いや、もっと直接的なアイテムがあったな。


「これだ」


 親父殿から授けられた小箱から現れた、水晶で出来た謎の鍵。


「【アルカナス・アビスの秘鍵】。その名の秘境へとつながる扉の鍵らしい。素材はアルカナス・クリスタル」


 これで俺の持ってるすべての情報は開示したと言って過言では無い。

 さあ、どうなる。


「一致件数、0件。やはりアルカナス・アビスは牛鬼の記憶に存在しません」


 無理、か。

 また振出しだな。


「ただし、類似情報は発見できました」

「え」

「愚者の禁門と呼ばれる場所で、過去に何件か、行方不明者が出ています。彼らの共通点は、特殊な素材でできた鍵を持っていたこと」


 息を呑んだ。

 隣にいたササリスも同じだった。


「師匠! それって!」

「ああ」


 門、鍵、謎の失踪。

 すべてのピースがぴったりはまる。


「きっとそこが、俺のルーツに繋がっている」


 もちろん、偶然の一致の可能性もある。

 足を運んだところで徒労に終わるかもしれない。

 だけど、ようやくつかんだ手がかりだ。

 行動も起こさずに放っておくわけにはいかない。


「ルーツ?」


 ヒアモリが小首をかしげた。かわいい。


「ああ、師匠は父親を捜してるんだ。あたしはそれを手伝ってるのさ」

「手伝って……?」

「なんでそこで疑問形なのさ」


 振り回しての間違いじゃないかなって思っただけだから気にしないでいいよ。


「父親を、捜して、こんなわずかな手掛かりから」


 ヒアモリが改めて【アルカナス・アビスの秘鍵】を見て、それから俺の目をのぞき込んだ。

 それから呼吸を止めるように、緊張した面持ちで、だけど何かを決意するかのように小さくうなずいた。


「わかりました。私も、お手伝いします。どれだけ力になれるかはわかりませんが、全力で!」


 両手でガッツポーズを胸元に寄せるヒアモリ。

 かわいい。


「頼りにしている」

「あれ? なんかあたしのときとリアクションが違うぞ?」

「ササリス」

「なに? あ、金貨だ! わーい」


 これでよしと。


「それでヒアモリ、愚者の禁門の場所はわかっているのか?」

「はい。……ただ」


 ヒアモリがもごもごと口ごもらせた。

 かわいい。小動物かよ。

 ヒマワリの種とか献上したい。

 ほっぺたいっぱいに頬張ってほしい。


「いえ、ちょうどいい機会かもしれませんね」


 あとは滑車。

 滑車を全力で駆け回ってほしい。

 それなんてハムスターなのだ。


「過去を清算するべきなのは、いまなんです。きっと」


 ん?

 あんまりにもヒアモリのしぐさがかわいいから真剣な表情しながら半分聞き流してたけど、過去を清算するとか言ってた?


「過去を清算って、どういうこと?」


 お、ササリスナイスアシスト。

 まさにそこが聞きたかった。


「私の、生まれ故郷なんです。愚者の禁門があるのは」

「えぇぇぇぇ⁉」


 大げさにササリスが驚いた。

 そんな衝撃受けるポイントあったか?

 いやまあ俺も少なからずビックリしたけど、そんな飛行機のプロペラエンジンレベルの騒音で叫ぶほどだったか?


「ダメだよ師匠!? ご両親に挨拶なんてしちゃ! するならまずあたしのお母さんから!」

「お前は何を言っているんだ」


 いまそういう話してなかったよね?

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