第6話 黄道×十二×星座
「へえ、ヒアモリちゃんっていうんだ。あたしはササリス。こっちが師――」
ササリスに電流走る。
「こっちがあたしの恋人のクロウ」
「嘘を吹き込むな」
「嘘じゃない。未来では」
「現時点で嘘なことに変わりはないし、そんな未来も存在しない」
仲間になったばかりのヒアモリが俺たちの関係性に無知なことにつけ込むな。
ヒアモリが「えっ、えっ」ってオロオロしてるだろ。
やめて差し上げろ、俺の精神衛生的にも。
(ヒアモリを仲間にできた喜びもつかの間。ササリスに汚染されないように気を配らないとダメになったな)
仲間が一人増えた代わりにササリスの管理コストが跳ね上がってしまった。
(まあ悪いことばかりじゃないけど。ササリスがいたおかげで、牛鬼を宿した状態のヒアモリが仲間になったしな。戦力的には大幅の上昇だ)
俺の予定だと、ヒアモリは牛鬼から解放された状態でのパーティ加入だった。
牛鬼の器である限り、彼女は人と関わらないだろうと踏んでいたからだ。
(スナイパーとしての力量だけでも十分すぎる戦力ではあるけれど、牛鬼の電磁パルス解析が加われば金棒に鬼だ)
近接も遠距離もどっちもできる万能キャラが仲間になった。
これは戦力的な意味で大きい。
あと演出。
演出の面でも大きい。
たとえばこんな感じ。
◇ ◇ ◇
ついに宿敵の本拠地に乗り込んだシロウたち。
しかしそこで待ち構えていたのは、かつて道中で出会った少女、ヒアモリだった。
「ヒアモリが、黄道十二星座の一人? そんなはずない!」
「事実よ」
「嘘だ! だって、俺の知ってる君は!」
シロウが言い切るより早く、音より速い何かが、彼の頬を切り裂いた。
その軌跡をたどれば、毛先にかけて階調的に青みがかった銀髪を揺らす少女が、彼に銃口を向けている。
立ち上る硝煙とともに。
「幼い頃におぞましい化け物に取り憑かれた父が私の前で自殺して以来、私は史上最悪の妖怪、牛鬼の継承者。数えきれない人を殺してきた」
無感情な瞳で、ヒアモリはシロウに銃口を向けている。
彼女の半生を垣間見たようで、腹の奥から底冷えする。
「そんな私を、あの人は受け入れてくれた」
ヒアモリの口角が不気味な弧を描く。
「死ぬ理由の代わりに、生きる理由を与えてくれた」
「違う、あいつは、君を利用しているだけだ!」
「あっはは、いいよ、それでも。あの人がいてくれれば、私は孤独じゃない」
シロウはなんだか泣き出したくなって、だけどきっとヒアモリは自分よりずっと苦しい思いをしてきていて、気持ちに折り合いがつかない。
「このっ、わからず屋!」
だからとっさに、ルーン魔法を放った。
もう戦いたくない。
そんな意味を込めた、
しかし、彼の願いは、成就しなかった。
「言ったよね、牛鬼は史上最悪の妖怪だって。この程度の魔法、私には通用しない」
牛鬼の力を制御できるようになったヒアモリは、相手の思考すら読み取る。
戦略も戦術も、すべてが筒抜け。
「立ちなよ、シロウ。宿敵との決着がこの程度ではあっけないでしょう?」
鬼の力を解放さた彼女は、シロウが知るよりはるかに手強い。
「私が相手をしてあげる、あの人の代わりにね」
◇ ◇ ◇
敵対組織の中でも良心と思われた少女が実は取扱い注意の超危険物ってのはお約束だ。
ダークヒーローソムリエの俺に言わせればアリ寄りの藤原
(ただ、黄道十二星座は多すぎるな……そんなに仲間の心当たり無いよ)
ヒアモリは牛鬼だからおうし座。
俺はシロウの異母兄弟だからふたご座として、ササリスはどうすっかな。
おとめ座かさそり座あたりか?
さそりす。キメラかよ。
ヒアモリは射手座もいけるな。
牛鬼をおうし座でヒアモリを射手座枠にすれば一人で二役こなしてくれるな。
それでもどうあがいても仲間の数が足りねえ。
あ、
もしくはみずがめ座。
よければ考えておいてください。
くそ、ダメだ。
まだまだ完成形が見えねえ。
諦めるか?
いや捨てがたい。
(絆以外の理由で結束した悪役チームが、個々の戦力では劣る主人公連合軍に敗れる。この展開は熱い。しっかりした組織を結成して迎え撃ちたい)
昔は孤高こそ至高って主義だったけど、ササリスが加入したあたりから破綻したからな。
こうなると友情×努力のアンチテーゼを表現するためにも上下関係のしっかりした組織を狙っていくのはありだと思う。
(まあ焦る必要もないか。親父殿との再会をメイン目標にしつつ、サブクエスト感覚で友だち11人を目指せばいい)
そうと決まれば第一目標に話を戻そう。
そもそも彼女に会いに来た目的は、勧誘のほかにもう一つ。
親父殿が残した手がかりを追いかけるためである。
「ヒアモリ」
俺が呼びかけると体ごとこっちを向く少女。
髪がふわりと踊る。
あ、キョトンとした顔かわいい。
「アルカナス・アビスを知っているか?」
当代牛鬼であるヒアモリには、歴代の器たちの記憶が受け継がれている。
その中には名の知れた冒険者もいたはずだ。
秘境、アルカナス・アビスの知識を有している可能性も十分あり得る話だ。
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