第2話 スナイプ×近接〇×鬼
ササリスが真剣な顔をして数秒、銃弾の雨と魔力糸の防壁による攻防が繰り広げられていた。
(やっぱあれえぐいよなぁ)
スナイパーから逃げるときはジグザクに逃げる。
スコープ越しにターゲットを見ているから、そうやって逃げられるとスコープから標的を見失うのだ。
だが、その常識は、ヒアモリには通用しない。
(ヒアモリは狙撃にスコープを使わない。肉眼でターゲットを捉えている。だから見失わない)
一度ターゲティングされれば逃げ切れない。
なんか身近にそういうやついた気がするな。
いったい何リスなんだ。
「ええい、うっとうしいね!」
俺たちが近づこうとするたびに迫りくる銃弾が、進行を邪魔する。
ササリスが直前で糸を張り、目の前で着弾させて、縛り上げる。
ラーミアがいてくれたらなぁ。
守ってもらいながら行軍できるんだけど、いないものは仕方ない。
「ササリス、その弾丸くれ。糸を絡めた状態で」
「ん? わかった」
こんなこともあろうかと用意してあるんですよ。
羽ペン。
この先を指に突き刺してですね、受け取った弾頭に【返品】、それから【基準点】と書いて準備完了。
「くらえ、クーリングオフショット」
まず発動するのは【返品】の文字魔法。
それからササリスの弾頭に括り付けられたササリスの糸を辿るように、さらに文字魔法を重ねる。
その文字は、【±0】。
弾頭に書いた【基準点】の文字を基準に、俺たちと弾丸の相対距離をゼロにする。
真っ白い霧のカーテンが青みを帯びたと感じたのは一瞬の出来事。
次の瞬間、俺とササリスは敵陣深くへと乗り込んでいた。
「見つけた」
ササリスの指先から魔力糸が伸びる。
ダイヤモンドさえ切り裂く斬鋼線が、後衛タイプのヒアモリ向かって多重に襲い掛かる。
数キロ先に視線を向けていた彼女は反応に遅れている。
俺たちの存在を目視して、それから回避行動をとっていたのでは間に合わない。
回避不可能の攻撃。
では、ない。
「は?」
驚愕に目を見開いたのはササリスだった。
彼女の糸がヒアモリを八つ裂きにする、その寸前、超反応を見せて回避して見せた。
(やっぱ、ずるいよなぁ)
ヒアモリのメインウェポンはライフルだ。
後方からの射撃を得意としている。
だが、それはあくまで彼女の特異性。
牛鬼の持つ特性は、近距離でこそ発揮される。
(電磁パルスによる、空間把握能力)
牛鬼の正体は害意を持った電磁波だ。
人の頭部に取り憑き、脳へと電気信号を送り、感情すら意のままに操る。
その副産物として、彼女は空間の把握に五感を必要としない。
牛鬼が知覚する電磁波を受け取ることで、視認するより早く、世界を正確に把握できる。
だから彼女に不意打ちは通用しない。
「ごめんなさい」
(あ、声かわいい)
「私たちは、面と向かい合ってしまった。あなたたちを生かしておくわけにはいかない」
うんうん、わかるわかる。
俺たちの間に縁ができたから、ヒアモリが生きてる間に俺たちを殺さないと牛鬼を葬り去れないって話だよね。
(牛鬼の呪いで殺人衝動に駆られて、憎悪に塗れた声なのに、もとのかわいい声を隠しきれてない感じ、たまらないよな!)
「威嚇射撃は停止。これより、救済を開始する」
本当に、俺たちを殺すことが救済だと思ってるんだよな。
牛鬼の器に選ばれて、破滅の道を歩むより、よっぽど幸運だと思ってるに違いない。
そうして、ヒアモリはサブマシンガンを取り出した。
(この距離まで詰め寄れた時点で、俺の勝ちは確定だよ)
ここからならあの文字を発動後、ヒアモリを無力化するところまで十分の時間がある。
「
霧の一粒一粒が停止して、世界に暗闇が落ちた。
その間に【探知】でヒアモリの位置を探り、サブマシンガンを没収。
無力化に成功する。
「え?」
「探し物はこれか?」
「っ! 返せ」
「ほらよ」
俺はサブマシンガンを空高くへと放り投げた。
愛銃を失ったヒアモリはそれを取り戻すべく、視線を宙へと向けた。
隙だらけだ。
「
彼女の背後へと回り込み、停止のルーン文字を刻み込む。
彼女の首筋へと。
「かはっ⁉」
「脳から送られる電気信号を延髄付近で遮断させてもらった。指一本、自分の意志では動かせないだろ? それに、牛鬼の意志でも」
俺の口から牛鬼の言葉が出た瞬間、彼女の目が張り裂けんばかりに見開かれた。
「どうしてそれを」
電気信号を停止したのは首から下だけなので、喋ることは可能だ。
「見ればわかる」
「っ、だったら! どうして! 牛鬼のことを知っているならわかるでしょう⁉ 私と関わったら、次はあなたが呪われる! 牛鬼を殺す、そのために私は孤独を選んだのに、どうしてそれを無意味にするのよ!」
どうしてって、そんなの決まってる。
「君を助けに――」
「ねー、師匠。牛鬼って何?」
ササリスッ!
お前、台詞かぶせてくるなよ!
いま俺がいいこと言おうとしてたでしょうが!
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