聯綿伝承

第1話 牛鬼×弾丸×ヒロイン

 ルーン魔法で世界中を冒険するRPG、はーじまーるよー。


 今回は冒険者試験で原作主人公に圧倒的な格の違いを見せつけて、彼の精神的成長に貢献したところから。

 今後も彼には「くっ、俺だって成長してるはずなのに、どうして差が一向に縮まらないんだ……ッ」と葛藤してもらいたいですね。

 そのために俺にできることは?


 そう。

 さらに強くなることですね。


「ねえ、師匠、どこに行くの?」

「砂霧の荒野」

「えー? なんでそんな何もないところに行くの」

「そこにあるかもしれないからだよ、親父殿につながる手掛かりが」


 生後10か月のころに親父殿から託された【アルカナス・アビスの秘鍵】。

 世界で最も恐ろしい秘境の一つに繋がるというこのアイテムだけが、現状親父殿の唯一の手掛かりだ。


 昔、とある老人から、世界中を冒険していればいずれアルカナス・アビスについても知ることになると言われたけれど、そんなちんたらしていられない。

 俺には時間がない。


(親父の奥義を受け継いで、主人公の前に立ちはだかる俺。くぅ、演出してえ!)


 それで、考えて見たわけですよ。

 どうするのが一番手っ取り早いかって。


 その結果が、知ってそうなやつに聞くでした。


 ヒアモリ。


 それが俺の尋ね人の名だ。


(当代牛鬼の彼女なら、歴代の器の記憶を引き継いでいる。アルカナス・アビスを知っているかもしれない)


 彼女は遠い北国で生まれた。

 牛鬼とは人に取り憑き殺人衝動を抱かせる妖怪で、憑依した人間が死ぬときに一番因縁の深い相手へ乗り移る不死の鬼だ。

 歴代牛鬼の記憶を引き継ぐヒアモリなら、優れた冒険者しか知らない秘境の情報だって持っていてもおかしくない。


(あとヒアモリはかわいい)


 目の保養になる。

 いまはがんに効かなくても、いずれ効くようになる。


(ラーミアとシロウのタッグよかったよなぁ。俺も背中預けられる相手が欲しいよ)


 ササリス相手だといつ刺されるかわからないからな。

 その点ヒアモリって優秀だよな。

 後方支援射撃組だもん。

 こういう展開できるかもしれないじゃん。


  ◇  ◇  ◇


 名も無き大地で繰り広げられているのは、血のつながったルーン使い同士の死闘だ。


「まだ立つのか。力の差は明白なのに、どうして立ち上がる。何が貴様にそうさせる」

「はぁ、はぁ……ははっ、わかんねえか、わかんねえよな、クロウ、いつだって独り舞台のお前には」


 刀身の折れた双剣を見て、シロウは鞘に納めた。

 そして鞘を握り、クロウへと力強いまなざしを向けた。


「俺を励みにしてくれる仲間がいるんだ、負けらんねえんだよ!」

「そうよ! わたしたちの絆は、あんたなんかに壊せない!」

「二人の言う通りだ。大切な人を守りたいという意志は、何よりも、強い!」


 シロウの言葉に、体力が底をつき、倒れ伏していた彼の仲間がつぎつぎと立ち上がる。

 この場に居合わせた誰一人、ここを己が墓場と考えてなどいない。


 無論、クロウもまた、絆の力で敗北するなど考えていない。


 それを証明するように、シロウの仲間から、鮮血が弾けた。


「ぐぁぁっ」

「きゃぁあぁっ⁉」


 二射、三射。

 天高くから血の雨を降らせる存在がいる。


「絆の力、ね。とても素敵。ところで――」


 毛先にかけて淡青色に階調がかった銀の髪。

 差し色に黄色を入れた白と青のサイバー装束。

 天使のような悪魔の笑みを浮かべる女性が、戦場へと舞い降りる。


「――私も混ざっていいのよね。だって、私はクロウの仲間だから」


  ◇  ◇  ◇


 勝利の方程式のうち、唯一勝ると思っていた友情パワー。

 それすら偽りの勝利だったと知り膝をつくシロウ。

 かー、ありっすわ。

 これはありっすわ。


(やっぱヒアモリ仲間になってほしいなー)


 なぜかポンコツになってしまったササリスと違って、彼女ならクールに展開をまとめてくれる。

 そんな予感がひしひしとするぜ。


 悪縁切りと良縁結びのパワースポットを巡った俺に抜かりはない。


 これはヒアモリ仲間になる。間違いない。

 いくぞー。


 ――鈍色の閃光が白霧を引き裂いて飛来した。


 足元に、小さな穴が開いていた。

 湿気った土を乾燥させるように、炎熱がうなりを上げている。


(弾痕? ということは、もしかして)


 弾丸の、地面に刺さった角度から、狙撃手の位置を予測する。

 そちらへ視線を向ける。

 白い濃霧が壁になって、相手の姿は見えない。

 だからこそ断言できる。

 目視できないはずの相手をライフルで狙い撃てるのは、世界広しといえど彼女しかいない。


(ヒアモリだ! 間違いない!)


 いまの射撃は警告だ。


 これ以上近づけば、本当に撃つ。

 この一発に込められた意味は威嚇だった。


(そんなに、人と縁を持つのが怖いか? そうだよな。孤独は、お前が見つけた、牛鬼を倒す唯一の手段だもんな)


 牛鬼は今際の際に死の因果を辿り、次の憑依先を決める。

 やつをこの世から葬り去ることはできない。

 ただ一人、牛鬼の器である本人を除けば。


(誰ともつながりを持たない状態で死ねば、牛鬼は次の宿主を見つけられない)


 牛鬼をこの世から葬り去るために、これ以上悲しむ人を作らないために、彼女は自らの人生と幸福を投げ捨てた。

 連綿と続く呪いの連鎖を断ち切る。

 そのために生涯を捧げると決めたのだ。


 健気な、女性なのである。


(でもな、その願いは叶わない)


 誰かの笑顔を守るために、お前が笑顔を失ってどうする。

 お前も、幸せになるべき誰かの一人なんだよ。

 孤独死なんてさせてやらない。

 絶対にだ。


「なんか、生意気なのがいるね、師匠」


 再び銀色の弾丸が、白い霧を切り裂いた。

 ような気がしたんだけど、予想に反して弾丸は空中で縫い付けられていた。


(ん?)


 ちょっと待て。


「わからせようか、生殺与奪を握っているのは、果たしてどっちなのかを」


 ササリスがシリアスしてるだと?

 これは明日は槍が上から降るぞ!

 気を付けろ!

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