第15話 逃走×逃走×闘争
「うわぁ! 来るなっ、来るなぁ!」
暗闇と静寂が広がる洞窟に、喧騒を散らしながら走る男がいる。
命からがら逃亡を図る彼の名前はフェルトン。
シリーズ第一作でラスボスを復活させた挙句に用済みだとあっけなく殺されるかませ犬である。
そんな彼を追いかける俺が考えていることは、いたってシンプル。
(うわぁ! 来るなっ、来るなぁ!)
ササリスに近づかれるとマズい!
せっかくいい感じに強敵ムーブできてたのに、あいつが交わればシリアス崩壊待ったなし!
すべてがお釈迦になっていく!
「チクショウ、なんなんだよ、なんなんだよお前! 俺に何の恨みがあるんだよ!」
ごめん恨みは無いんだ!
ササリスから離れたいだけなんだ!
運悪く進行方向にフェルトンくんが走ってるのはご愁傷様としか言いようがない。
かと言って俺もここでフェルトンくんを追い越すと訳が分からんくなるだろ?
だから頼む!
振り切ってくれ!
俺の理想をかなえるために、ササリスを振り切る速度で走ってくれぇぇ!
「くそぉぉぉ!」
フェルトンくんが振り返りざまにナイフを振り抜いた。
そんな立ち止まるような反撃をしたらササリスとの距離が詰まるでしょうが!
「この、愚か者がぁぁぁぁ!」
怒りに身を任せて振り抜いた拳がフェルトンくんを勢いよく弾き飛ばした。
(おお! 飛んだ! やるなフェルトンくん! まさかこれを見越して、加速するために足を止めてくれたのか⁉)
絶対違うんだろうけど。
(とにかく、この速度ならササリスを振り切れる……!)
発動する文字は
俺という災厄と出会ってしまうアクシデントに、フェルトンくんには何度も何度もかかってもらう。
(ふぅ、ここまで離れればまけただろ)
よし、仕切り直しだ。
「が、ふぐぅ、た、たす、け」
仕切り直し、できるかなぁ、これ。
骨とか折れたのが肉からはみ出てるんだけど。
(わぁ、思った以上にボロボロ。鍛錬が足りてないぞ。カルシウムとれよ)
しかしどうしたものか。
これじゃ逃げ回ってくれそうにない。
くそ、途中までは計画通りだったはずなのに。
いったいどこで脱線してしまったんだ?
もしかしなくても10年前だと思います。
悲しみ。
うーん、どうしたものか。
(ん?)
ほとばしる俺のオカルトシックスセンスが訴えている。
(この気配、来たか!)
シロウだ。
あいつがすぐそこまで来ている。
なぜわかるかはわからない。
だが感じ取れる。
やつはすぐそこにいる。
ならば、俺がここで取るべき行動は、決まったぜ、ハードボイルドに。
「ぐっ、ああぁぁぁあぁぁぁ⁉」
肉から飛び出したフェルトンくんの骨を踏みにじった。
フェルトンくんがいい声で鳴いてくれる。
さあ来い、シロウ!
お前のルーン魔法を見せてみろ!
「やめろおぉぉぉぉぉおぉぉぉ!」
耳をつんざく怒声が洞窟内に反響した、その刹那。
「
紫電が弾けた。
だから俺はそれを視認して、それから飛びのいた。
身をひるがえした中空から地面を見下ろせば、眼下に、幾条もの閃光の激流がのたうち回っている。
光のもとをたどれば、そこに、俺と同い年くらいの少年が立っている。
黒い髪のボサボサ頭に、生意気なツリ目。
その瞳に秘められた強い光を見たとき、胸がカッと熱くなった。
「その人から手を引け!」
やっ、ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!
ついに、ついに念願かなったぞ!
これ以上ない完璧な初邂逅!
この瞬間、シロウの頭には俺が理不尽な悪だとインプットされた!
待っていた、この時を、ずっとずっと!
ふふふ、シロウ、お前の言動はすべて予測済み。
この展開は俺の手のひらの上だとお前は知るまいて。
せいぜい踊れ、俺の手の上でピエロのように!
「いまの魔法……ふ、ははっ、あーっははは! そうか、お前が!」
フードに目が隠れる絶妙な角度で天を仰ぎ、歓喜に身を震わせる。
演技だけのつもりだったが、もうそんなことは言ってられない。
本当に、この瞬間を楽しみにしていたんだ。
「手を引け、か。断ると言ったら?」
来い、シロウ。
お前ならできる。
勇気の一歩を踏み出せる!
「全力で邪魔をさせてもらう!」
口角が上がるのを、抑えきれなかった。
背筋がぞわぞわと粟立つ。
脳の芯から震えるような刺激が全身を駆け抜けていく。
指先がしびれる。
唇が渇く、ひどく。
心臓の鼓動が耳にうるさい。
「フッ」
「何がおかしい!」
俺は指先を折って挑発した。
かかってこいのハンドサイン。
「少し遊んでやる。死ぬ気でかかってこい」
シロウの胸が膨らんだ。
大きく息を吸い込んだ。
ふわりと髪が逆立つ怒気が弾けている。
心地いい気迫だ。
世界を三度救う英雄の資質を垣間見た気がする。
「うおぉぉぉ!
眩い光が、視界を埋め尽くしていく。
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