第14話 ᚺ×ᛈ×ᛇ

 フェルトンくんに魔物をけしかけ続けてはや7日。


「ふっ、ふぅぅぅ、ふざけるな。俺は選ばれし人間なんだ。こんな、この程度の試験でやられるわけがないんだ」


 目に見えて憔悴していって片腹大激痛。

 笑いすぎておなか捻じ切れそう。

 てか自分に相性悪い魔物ばかり襲い掛かってくることに不審を抱かないのホント爆笑。


(あ、そうだ。ここはダークヒーロー演出ポイントだ)


 あのセリフだけは言っておかないと。


「もっと骨のあるやつだと思ったんだがな」


 我ながらひどい言い分ではあるけれど。

 普通に考えて、俺は好きな時に魔物をけしかければいいけれど向こうはいつ襲撃を受けるかわからないで常に気を張り続けないといけないもんな。


 そんな疲労困憊のフェルトンくんに悪い知らせが二つと、いい知らせが一つ。

 悪い知らせ一つ目はいい知らせがあるのは嘘ってことなんだぜ。

 悪い知らせ二つ目は、その程度の常在戦場意識、スラムの人間なら標準技能だ。

 これができないならお前はしょせんその程度の小物ってことだ。


 まあ、退屈しのぎにはなったよ。

 だがこのごっこ遊びにもそろそろ飽きた。


(シロウはまだスリサズを習得してないんだろうか)


 スリサズを習得するときはイベント戦で、かなり激しい光が弾けるはずなんだ。

 そろそろ二次試験も折り返しだし、そろそろ新技習得イベントが発生していてもおかしくないと思うんだけど、どうだろう。


(おっ?)


 このダンジョンは洞窟と言う構造上、明かりが担保されていない。

 夜が明ければ陰が落ちる暗闇の世界を、眩い紫電が切り裂いて駆け抜けていく。


(来た来た来た! この輝きは間違いなくシロウのスリサズだ!)


 おっしゃー! やるどー!

 フェルトンくんをいたぶっているところをシロウに目撃させて俺と対立する理由をメイキング作戦実行だ。


「はぁ、はぁ。クソ、俺がくたばってたまるかよ」


 ちょうどいいタイミング。

 シロウが放ったスリサズの光を利用して魔物の意識の外に回り込んだフェルトンくんが不意打ちで魔物を倒してた。


 いまだ!

 うぉぉぉぉぉ!

 乗り込めー!


「ッ⁉」


 俺は【日本刀】の文字魔法を発動すると、【飛】の文字を付与して斬撃を弾き飛ばした。

 威力は強く、狙いはフェルトンくんが避けようとしなければ首を真っ二つ、ただし予測可能回避可能の速度。

 この7日間でフェルトンくんの技量は見切った。

 こんな芸当もいまの俺なら可能なわけだ。


(あー、この洞窟の暗さ、ダークヒーローの初登場には持ってこいだわ)


 ひたひたと、しかし重量を感じさせる足取りで、ゆっくり、フェルトンに向かって歩を向ける。

 これは背景に重厚なBGM流れてますわ。

 俺にはわかる。


「何だぁテメーは!」

「フッ」


 ギラつく視線で威嚇の姿勢を見せるフェルトンくんに、俺は嘲笑で返す。


(かー! この話が通じない感じ、これはダークヒーローですわ!)


 高揚で吊り上がる口角を隠しもせずに、俺は嬉々として再びフェルトンくんへと襲い掛かった。

 シロウと鉢合わせるまでは殺す気がない俺の斬撃が、やつの頬を切り裂き鮮血を巻き上げさせた。


「この、調子に乗るなよド三下がぁ!」


 言いながら大きく後ろに飛びのいたフェルトンくん。

 彼の右こぶしが蜃気楼に揺らめいた。

 この初動は風魔法による切り裂く刃。


「ウィンドカッター!」


 その所作は何度となく見た。


 だから風の刃の通り道に切っ先を置いて、ウィンドカッターそのものを切り裂いた。


「なにっ⁉ 斬っただと⁉ 俺の不可視のウィンドカッターを⁉」


 俺は多くを語らず、じわじわと、彼との距離を詰めていく。


 言葉を放つのは自分の意志を伝えるため。

 裏を返せば沈黙は相手から見れば理解の余地が無いことを意味する。


 そして人は、理解できないものに根源的な恐怖を抱く。


「うわぁぁぁ! なんなんだよ、お前はぁぁ!」


 フェルトンくんが恐怖に駆られるように走り出した。

 洞窟の奥、俺から離れる方向へと、彼の姿が闇へと紛れていく。


 よしよし! いい子だ!

 お前も比較的俺の想定通りに動いてくれる子だな!

 えらいぞー。

 ラーミアの名演技っぷりには一枚も二枚も劣るけどな!


 これで俺の計画は第二段階へと移行できる。


ハガル


 ハガルが意味するのはひょう、転じてアクシデントや試練。


 ふはは、逃げられると思うな!

 地の底まで追い回してやる!

 覚悟しろよ、この虫野郎!


「くっそぉぉぉ! ついてくんじゃねえよ!」


 だが断る。


(さて、シロウの居場所は……探るまでもないか。さりげなく誘導して運命的なめぐりあわせにしてやろう)


 逃げ回るフェルトンくんの姿が見えなくなったので安心してルーン魔法を発動する。


ペオース


 これはダイスカップ(丁半ばくちとかで使うサイコロを振る壺)の形から生まれたルーン文字。

 そこから転じて運命を意味している。


 ふはは、逃げ惑えフェルトン。

 貴様の足取りが俺をシロウに導く。


「はぁ、はぁ。なんなんだよ、なんなんだよお前は!」


 必死の形相でフェルトンくんが俺に問いかけてくるが言葉は交わしてやらない。


 さあ、ペオースよ、俺を導け。


「……」


 なんか、視界に映ったな。


 いや、気のせいか?

 違うよな。

 俺の見間違いだよな。


(いや見間違いじゃねえな。遠くに見える縦穴からこっちをのぞき込んでるやつササリスじゃねえか!)


 そっちじゃねえよ!

 俺が探してる運命の相手は!


ユル


 方向転換!

 チェンジで!

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