第6話 一次予選×女騎士×セルフ試験

 冒険と言う字は危険を冒すと書く。


 だから冒険者たちは、しばしば徒党を組む。


 例えば一人で冒険に出るとする。

 すると、森を抜けるときには植物学や、森にすむ動物への知識が必要になる。

 ダンジョンを攻略するときには罠を見つける能力や、罠を解除する能力が必要になる。

 夜はいつ魔物が強襲してきても対応できるように常に気を張り詰めていなければならないし、町についたときの物資の補給や、さまざまな交渉も行わなければならない。


 それらをすべて一人でこなせる人間はまれだ。

 だから多くの場合、それぞれに専門知識やノウハウを持つ者たちが身を寄せ合い、リスクを分散するのが一般的だ。


 何が言いたいかというと、冒険者は複数人で行動したほうが賢いということだ。


「受験票を重ねたときに目印になってるのが一次試験会場だ」


 ササリスが、受付で奪ったモブ三人衆の受験票を重ね合わせてつぶやいた。

 半透明の受験票は3枚重ねると、線傷が重なり合い、一つの図形を映し出される。


 図形とはすなわち、この港町付近の地図だ。

 その地図の中に、一点、ひときわ輝くポイントがある。


「へえ。だから、受験票を3枚集めるのが一次予選ってわけなのかい」


 日本には三人寄れば文殊の知恵ということわざがあるが、この予選の本質はまさにそれだ。

 一人では困難な試練だって、人と協力すれば乗り越えられるってことは往々にあり得る。


「模範解答は受験票を共有できる仲間を2人作ることなんだけどな」


 俺たちみたいに他の受験生を倒して受験票を拝借した場合でも、他の受験生を出し抜ける程度に実力のあるパーティであるという判断になるので一次予選通過の資格は得られる。


 そんな会話を、街の屋外カフェで話していたら、声を掛けられた。


「すまない、少し話に混ぜてもらえないだろうか」


 どこか聞き覚えのある声だな。

 なんて思いながら、横目に、ちらりと声の主の方を見る。

 そこにいたのは一目でわかる女騎士だった。


「何」


 ササリスが少し不機嫌そうに答えた。

 答える前に、少しの間があったことに俺は気づいた。

 その間に、ササリスの視線が、女騎士のたわわに実った下乳へと注がれていたことも、自身の貧相な胸へと注がれていたことも。


 このおっぱいの形、この声、間違いない。


「私はラーミアという者だ。見ての通り、クルセイダーを生業としている」


 やっぱりな! そうだと思ったよ!


 ラーミア・スケイラビリティ。

 彼女は原作【ルーンファンタジー】において、幼馴染のナッツの次に仲間になるキャラクターだ。

 魔法主体のシロウやナッツにとって貴重な前衛メンバーで、高い防御力と魔法耐性を持つ騎士職である。


 どうしよう。

 なまじ原作知識があるせいで、彼女の次のセリフがありありと目に浮かぶ。


「申し訳ないが先ほどの話を聞かせてもらった。もしよければ、私を仲間に入れてくれないだろうか」


 冒険者試験一次予選、開始早々大事件です。


(なんでこっちに来てんだよ! お前が合流するのはシロウのチームだろうが!)


 どうしてどいつもこいつも原作通りに行動しないかな!

※一番原作からかけ離れた行動をしてる人

 ここでシロウが受験仲間を作れずに冒険者試験に落ちたらお前ら責任とれるのか⁉

※さんざんクロウくんの能力を魔改造した上に、「まあシロウなら俺がどれだけ鍛錬したところで主人公補正で上回るやろ」と楽観視してる人

 わかったらさっさと戻れ! シロウにはお前が必要なんだ!

※しれっとササリスを味方に引き込んでる人


「お断りよ。あたしたちにメリットが無いもの」


 お! いいぞササリス!

 もっと言ってやれ!


「ま、どうしてもっていうなら余ってる受験票を2枚譲ってやってもいいけど?」

「本当か?」


 おいこら待てや。


(ラーミアにはシロウが来るまで孤立しておいてもらわないとだめなの! そうじゃないとシロウのパーティにラーミアを加入させれなくなるだろ!)


 冒険者試験では魔法攻撃が通用しないモンスターが生息する島へと訪れることになる。

 その時にラーミアがいないと、場合によってはシロウが詰む。


(ササリスはまあ、あくまでゲームシナリオ上に登場する準レギュラー的な扱いでシロウパーティに加入すること自体は無いから離脱しても許せたけど、ラーミアはいないとダメ! いろいろと詰む!)


 ということで、ミッションは二つ。


 一つ、ラーミアをこちらのパーティに加入させないこと。

 二つ、ササリスに受験票を譲らせないこと。


 うーん、この二つを解決しつつ、かつ俺と言う存在の怪しさを残すにはどうすればいい。


  ◇  ◇  ◇


 ほんわかとした野外カフェに、突然の魔物襲来イベントが!


「くっ、なんというタイミングだ。私が前に出る! 二人は後方で援護を頼む……」


 ラーミアが言い切るのが早いか。

 街に現れた魔物は、一人残らず葬られていた。


(な、何が起きたんだ)


 ラーミアの思考が、回転を放棄する。

 いや、より正確に言えば、直感が導き出した疑問に対する回答を本能が忌避している。


 さび付いた人形のようにぎこちなく、振り返る。

 そこにいるのはフードを目深に被った青年と、つまらなそうにしている女性の二人。


「お、お前たちはいったい、何者なんだ」


  ◇  ◇  ◇


 そうして不敵に笑って名乗らずに去っていく俺。

 で、後々ラーミアからシロウにこういう会話を切り出してもらうんだ。


  ◇  ◇  ◇


「そうか。シロウはあの男を追っているのか」


 とある平原で、シロウたち一行が火を取り囲んで野営を行っている。


「知ってるのかラーミア」

「ああ、とは言っても、直接言葉を交わしたわけではない。だが、やつの魔法ならこの目で見た……いや、肌で体感したという方が正しいか」


 少し自虐的に語るラーミアに、シロウは息を呑む。


「……見えなかったのか」

「ああ」


 わかってはいたが、ラーミアの答えは絶望へとシロウを突き飛ばす。


「あの日の光景を思い返すだけで、いまも鳥肌が止まない。シロウ、私から忠告しておこう。あの男には手を出すな」


 シロウは少し悩んで、だが力強く答えた。


「ごめんラーミア。その忠告は聞けないや」


  ◇  ◇  ◇


 よっしゃー、やったるでー。


(右手に【魔物】、左手に【召喚】! 現れろ! 無数のゴブリンたち!)


 文字魔法がさく裂し、周囲に無数の魔物が現れる。


「馬鹿なッ⁉ ゴブリンの群れだと⁉ 町中に⁉ マズい、全員直ちに避難するんだ!」


 それをいち早く察知したラーミアが、得物であるランスを取り出して前線へと躍り出る。


「私が前に出る! 二人は後方で援護を頼む!」


 ああ!

 なにひとつ思った通りに動いてくれないササリスと違って、俺が想定した通りの模範解答!


 ラーミア、お前は、いいヤツだなァ……‼




※彼女はクロウの仲間になりません

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