第5話 受験申請×こわもて×チュートリアル(笑)

 冒険者試験会場近くの森へと下ろしてもらい、海神わだつみとは別れることにした。

 だってやりたいじゃん、こういう演出。


  ◇  ◇  ◇


「いまの俺には新しい仲間がいる! 来てくれ! ロア・ドラゴン!」


 シロウが空へと手を掲げて叫ぶ。

 すると風を切り裂いて、緋色の鱗を持つ巨大なドラゴンが現れた。


「くらえよクロウ! これが俺とロア・ドラゴンの必殺技! ケナズ・ファイナル・ブラストぉぉぉ!」


 目もくらむような爆熱が、俺を攻めた。


「はぁ、はぁ……やったか⁉」


 燃え盛る爆炎が、俺とシロウの間に壁として立ちはだかった。お互いの姿を俺たちは視認できていない。

 いや、その表現は適切ではない。


「なん、だよ、こいつ」


 俺とシロウ。

 二人の間に立ちはだかっていたのは巨大な翼竜。

 海をつかさどる神、海神わだつみだ。


「終わりか? フッ」

「ちく、しょう……! ロア・ドラゴンの力を借りても、倒せねえのかよ! こんな相手に、どうやって戦えばいいんだ!」


  ◇  ◇  ◇


 うむ。

 やはり怪獣は怪獣同士でバトルさせてこそなんぼのものだ。


(登場シーンから強力なモンスターを従えてるって割れてると、シロウに「強力な人外の力を借りた今度こそ勝てる!」と思ったのに俺にも協力者がいて、しかも助っ人の格でも敗北するって絶望感を与えられないからな!)


 人対人の集団戦では旗頭の人脈が戦力の差につながるのに対し、モンスター同士の戦いで浮かび上がるのは使役者の純粋な戦闘力。

 主人公の志に共感し、力を貸してくれた強力なモンスターに対し、ダークヒーローの戦闘力に魅入られたモンスターが実力差を見せつける。

 主人公の戦力を底上げする心強い味方をさらに上回る戦力を有するモンスターが、相対する敵キャラの実力を認めて従っている。


 この構図が、敵対する悪役の純粋なる戦闘力を浮き彫りにし、見るものに絶望感を突き付けるのだ。


(ということで、また頼むぜ海神わだつみ! いい感じのところで再登場してくれよな!)


 俺がサムズアップを繰り出すと、海神わだつみは不敵に笑った気がした。

 うむ、こいつはいい悪友である。

 布教成功!


  ◇  ◇  ◇


 その町は大陸南部の海に面した港町で、その日は海鳥がよく飛ぶ快晴だった。

 これが冒険者試験の開催される街だ。


 その港湾の一部に特設されたのが冒険者試験の受付だ。

 俺はフードで髪型と髪色を隠しながら、ササリスは特に身なりに変化を持たせること無く自然体で受付に向かった。


「ようこそお越しくださいました! 冒険者試験の受援希望の方ですね? こちらにご記名をお願いします」

「ああ」


 受付をしていたのは、日に焼けたギャルみたいな受付嬢だった。

 今生の俺も肌の色が褐色だからちょっとだけ親近感。

 この人はいい人だ。間違いない。


「おいおい、どこの道楽貴族だぁ? 冒険者試験はなぁ、遊びじゃねえんだよ!」

「そうだそうだ、悪いことは言わねえ。ガキは帰ってクソして寝な!」

「ぎゃはは! それがいい! それとも、ここで俺らがいっちょ指導してやろうか! 冒険者試験合格最有力候補の、スキンヘッヅ三兄弟がな!」


 あー、いたわ、こいつら。

 わかりやすいくらいのかませ犬。


「スカしてんじゃねえぞガキ! ――あ?」

「アニキ? 急に固まってどうしたんで……」

「な、なんだこれ!? 体が、動かせねえ」


 俺が何かをするまでもなく、スキンヘッヅ三兄弟はササリスの魔力糸に捕縛された。


「殺すなよ?」

「わかってるさ。合格までは問題を起こさないよ」


 できれば冒険者試験期間に関わらず無駄な殺生はしないでもらいたいけど、言ってどうにかなるほどスラム街で育った倫理観でどうにかなる話じゃないから諦めてる。


「へえ、すごいのねあなたたち。お姉さん感心しちゃった」

「そう。クロウはすごい。あんたはよくわかってる」


 変なところで意気投合するな。


「はい。これで受験申請は受領よ。こっちが受験票になるからなくさないようにね」


 受付のお姉さんが発行してくれたのは半透明の、5センチ×10センチ程度のカードだった。

 ガラスのような材質の受験票には細い線傷のようなものが刻まれているが、その傷に規則性はない。

 受験票だと知らない人が見れば、ただのガラス板にしか見えないだろう。


「なくしたら?」

「来年まで再発行できないわ」

「へえ?」


 ササリスが視線を向けた先にいるのは、先ほど俺たちに食いついてきた負け犬三人衆。


「こいつは授業料だよ。次からは挑発する相手は選ぶんだね」


 どんな手を使ったのかは知らないが、ササリスは一見で三人兄弟がそれぞれどこに受験票を仕込んでいるかを見抜き、鮮やかな手口で受験票を抜き取った。


「あ! テメエ!」

「か、返せ! それは俺たちのだぞ!」

「泥棒! 窃盗罪で訴えるぞ⁉」


 口うるさく喚く三人衆の口周りへとササリスの魔力糸が伸びて、強制的に閉口させた。


「わかってないね、あんたら。受験票を守るのも試験の一環。人に盗られた時点で失ってんのさ、あんたらの受験資格はね」


 おお、詳しいな。

 俺は原作知識があるから知ってるけど、なんでササリスも知ってんだ?


(あ、いや待てよ? そういえば昔、ササリスの母親にコッペパンを届けに来てた冒険者崩れの爺さんがいたな。あの爺さんから聞いたのかな?)


 あのかわいかった頃のササリスはあの爺さんに懐いていたし、その時に聞いていたとしてもおかしくない。

 やっぱ嘘。ササリスにかわいかった時期なんて無かったわ。謹んでお詫びと訂正申し上げます。

 最初期からクソ生意気で粘着質な女だったわ。


「へくちっ」


 ちくしょう、かわいいくしゃみしやがる。

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