第4話 和解×洗脳×懐柔

 海神わだつみの攻撃をかいくぐり、放たれた俺の文字魔法。

 降り注ぐ淡青色の光が、体長50メートルを超える翼竜を包み込んでいく。


 混じり合っていく。

 俺と海神わだつみの境界があいまいに溶けていく。


 だからわかった。


(やっぱり、海神わだつみはアルバスと敵対関係にあったんだ。そしていま、やつを封印する数少ない神として、深い海からこの世界を見守っている)


 俺を襲った原因は、他の誰のせいでもなく俺のせいだった。

 俺がガキのころに作った聖なる樹木。

 あれによってアルバスたち古代文明の封印が弱まったことに、海神わだつみは気づいていた。

 だから俺を、アルバスの使徒と勘違いしたらしい。


(なあ、わかっただろ? 俺はアルバスを倒すためにいる。あんたの敵じゃない)


 俺が海神わだつみの内情を読み取るのと同じように、海神わだつみもまた俺の内情を読み取っている。

 俺が放った【感覚共有】の文字にはそんな効果がある。


「ぐるるるるぅ……」


 船を取り囲むように噴き上げていた水柱が、海へと還っていく。

 海神わだつみから放たれる敵意が、目に見えて霧散する。


 そして、宙空で姿勢を崩した俺はゆっくりと海面に向かって降下していた。

 それを見たササリスが、間髪入れずに、俺に括り付けていた命綱代わりの魔力糸を引き、俺を船へと連れ戻す。


「おおおおおぉぉ! あんちゃん何者だ⁉」

「すげぇぇぇ! あのデカブツを御するとかどんな魔法だよ!」

「キミ! ぜひわが社で雇われないか⁉ 100人……いや500人分の給料を出す!」


 ふむ。


(力を見せつける意味では上々だな。問題はこの後、このギャラリーの熱をどうするかだが)


 なんも考えてなかったな、そこまでは。


(1、全員を昏睡させる。2、記憶を消し去る。3、俺の魔法を見たやつを生かしておくわけにはいかない)


 うーん。

 2と3は無しかな。


 ササリスがなあ、多分、俺について回るからシロウに俺の情報を引き渡してくれる役回りに期待できないんだよな。


(俺の実力を客観的に証言してくれる証人は必要だ。そうなると残る選択肢は1か)


 乗客を対象に忘却の文字魔法を唱えようとしたところに、黒い影が割り込む。


「ぎゃあぁぁぁ⁉ あの化け物、怒りを鎮めたんじゃなかったのかよ!」

「まさか! あんちゃんは俺たちを救ってくれたんじゃなく、この怪物を手懐けただけなのか⁉」

「終わりよ! こんな相手にかないっこない!」

「ひぃぃぃ! 頼む、命だけは見逃してくれ! 金ならいくらでも払う!」


 おお?

 協力してくれるのか? 海神わだつみさんよ。

 あんた、わか・・ってるな?


(そうか……! 【感覚共有】によって、俺のダークヒーロー観が海神わだつみに感染したんだ!)


 それなんていう洗脳。

 だがいいぞ!

 ふはは、このまま民衆をいたずらに扇動しろ!

 言葉を発することなくモブをモブらしく駆り立ててこそ、悪のカリスマだ!


(乗れって言ってるのか?)


 俺が視線で海神わだつみへと問いかけると、翼竜が静かにうなずいた。


「金ならいくらでも払う、ね。なら決めな、あんたの命の値段を。金額次第では彼に取り合ってあげてもいいわ」

「ひぃぃ! い、一億出します!」

「桁が二つ足りないんじゃないかい?」

「そ、そんな……! わかった! 待ってくれ! わが社の株の51パーセント、我輩が保有する分すべて譲渡する! だから、なにとぞ……!」


 おいこらササリス、どさくさに紛れて金もってそうなモブから金巻き上げてんじゃねえよ。


「にひひー、見て見て師匠。あの人、魔道具商会の中でも有数の企業の社長さんだったんだって。その経営権貰っちゃった」


 しれっと大企業っぽいところの乗っ取り完了してんじゃねえよ。

 今度から火事場泥棒って呼ぶぞ。


「行くぞ」

「はーい」


 首を下げてくれた翼竜にまたがり、俺とササリスは船を後にする。

 よーし、目指すは冒険者試験開催会場。

 全速前進だ!

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