第25話 かませ犬×初代ラスボス×衝突

 これは俺にとっては過去の話なんだけれど、この世界にとっては未来の話。


 伝説の始まりである異世界ファンタジーRPG【ルーンファンタジー】、シリーズ第1作の物語。


 主人公のシロウは冒険者の父親に憧れる少年。

 彼は父親から受け継いだ固有魔法であるルーン魔法を駆使して、広大な世界を冒険することになる。


 その始まりの冒険記に出てくる敵対勢力は、残虐な性質を持つ古代文明人。

 長い年月を経て封印から解き放たれた彼らは現代文明を失敗作と称し、人類を滅ぼそうとする。


 シロウは激闘の末に古代文明との戦いに勝利。

 この世界に平和を取り戻すことになるわけだが、ここで一つだけ、問題がある。


「あはは、そう警戒しないでよ。ボクは君と争いに来たわけじゃない」


 スラム街を牛耳るようになりしばらく経った俺のもとへとやってきた一人の少年。

 浮世離れしたオーラを放つ彼が細い目で、ニコニコとうすら寒い笑みを浮かべて俺を見下ろしている。


「ボクたちの仲間にならないか? クロウくん、君にはその資格がある」


 彼の名前はアルバス。


 俺氏、原作主人公と接触前にシリーズ第1作の悪役と接触してしまった模様。


  ◇  ◇  ◇


(なんでや!)


 ざっと振り返ってみよう。

 いったい何がいけなかったのだろう。


(まず、俺の知る限り、古代文明の復活の兆しは原作開始時点とほぼ同時期)


 ひるがえっていまは原作開始数年前。

 本来ならここにこいつがいるはずないんだ。


(何かきっかけがあったはずだ。こいつらにかけられた封印の解除を早めるような、何かが)


 その何かは、本来の歴史では起こらなかった事象の何かだ。


 だとするなら可能性はおのずと絞られる。

 すなわち、史実と大きく異なる行動をとっている俺だ。


 ここからはあくまで推測だが、俺の関与はあくまで間接的。

 おそらく蝶の羽ばたきが地球の裏側で竜巻を引き起こすように、些細な差配が引き起こした特大の変化。

 俺のどの行動が原因なのかの特定は不可能と考えていい。


「見てきたよ、君が創造した神聖なる樹木。あれは素晴らしいものだよ。おかげでボクたちの封印が急激に弱まった」


 違ったぁ!

 わりと思いっきり直接的に関与してた!


「だけどほら、この体は不完全で、物質的な干渉は何一つかなわない。封印を完全に解くためには、外部協力者が不可欠なんだ」


 原作だと、欲に塗れた冒険者を操って、お前らの封印を解かせるんだよな。

 俺は知ってるぞ。


  ◇  ◇  ◇


「やめろ! その封印を解いちゃいけない!」


 魔物の群れに足止めを食らうシロウが必死に叫んでいる。

 だが、魔性に魅入られた冒険者の耳には届かない。


「おお、ついに、ついにアルバス様が、復活なされる!」


 感涙にむせび泣く冒険者。

 古代文明人にそそのかされ、封印を解いた張本人である彼へと少年アルバスはほほ笑みかける。


「ありがとう、もう君は用済みだ」

「アルバス、様……なにを」


 アルバスの腕が、冒険者の胸を貫いている。


「劣等種がボクの前に立つな、目障りだ」


 それを見たシロウが、吠える。


  ◇  ◇  ◇


 お前は俺を利用するだけ利用して、用が済めば恩を仇で返すやつだ。

 俺がそう指摘すれば、アルバスは楽しそうに笑った。


「あっはは! いいねぇ。よくわかってるじゃないか。ボクが期待した通りの満点回答だよ」


 そうか。

 お気に召したようで何よりだ。


「うん。決めた。やっぱり君以上の適任はいない。だから、改めて聞くよ、クロウくん。ボクたちと手を組む気はないかい?」

「手を組むだと?」

「そうさ。君だって、この世界に生きる人類のことを劣等種としか見ていないだろ? ボクたちに近しい人種なんだよ。だからきっと、ボクたちは友だちになれる」


 アルバスはスラム街の住人を支配している点を指摘してきたが、誠に遺憾である。

 それやってるのはあくまでササリスだからな。

 俺がササリスに支配しろって命令したわけじゃないからな。


「一緒にするな」

「ん?」

「俺はお前たちと違って、目的の無い暴力はさほど好きじゃないんだ」

「へえ、変わってるんだね。でも大丈夫、ボクたちは多様性を重んじる種族だから」


 無駄だよアルバス。

 この交渉に成立の芽ははなからない。


「失せろ、時代の敗北者が。未練と妄執に塗れた亡者ほど見苦しい負け犬はいない」

「……ふーん。そうかそうか、君はそういうやつだったんだな。どうやらボクは、君を高く買いすぎていたらしい」

「笑わせるな、お前に俺が飼えるかよ」


 それから俺たちは、一言ずつ交わした。


「その言葉、後悔するよ」

「させてみろ、かませ犬がよ」


 それを最後の言葉に、アルバスは俺の目の前から消え失せた。

 

 煙のように、蜃気楼のように、俺の目の前から、最初から存在などしていなかったかのように。


  ◇  ◇  ◇


 そんなことが、あった日のことだ。

 イレギュラーズの一人から連絡があった。


「母さまがいなくなった……?」


 俺はひそかに決意した。


 そうか、そうかよアルバス。

 お前がそういう手段を選んでくるなら、俺も加減はしない。


 全面戦争だ。

 お前は俺が滅ぼす。絶対にだ。

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