第23話 インフラ整備×神算×鬼謀
「はあ⁉ なにそれ⁉」
ササリスが叫んだ。
家に帰ってすぐのことだ。
ちょうど母さまからのしごきの休憩中だったみたいなので、俺はついさっき試した血文字魔法の成果を話してみた。
「木の葉っぱの模様を文字に作り変えて、年輪の形を文字に変えて、根っこの形を文字に変えて、半永久的に稼働する浄化装置を作った⁉ 何考えてんの⁉」
そしたらめっちゃ怒られた。
「なんか問題あったのか?」
「大ありだよ」
ササリスは横柄にうなずいた。
俺が知らないだけで、スラムにはもっとこまかいルールがあるのかもしれない。
もしそうだとするなら面倒……ってこともないな。
俺には母さまがいた。
ルールは作り変えるものとか言ってる母さまならどうにかしてくれるに違いない。
「作るなら源泉とか原油を生産する樹木でしょ!」
「そう来たかぁ」
安心した。
ササリスが脳みそまで金のことでいっぱいで安心した。
今日から脳金を名乗ることを許可しよう。
誇っていいよ。
俺なら恥だと感じるけど。
「でもちょっと待ってほしいササリス」
「なに」
「原油とか源泉があったとして、それを活用できる人間がスラム街にいるのか?」
「師匠の家とかがまさにそうじゃん」
「や、俺の家は既にライフラインが整ってるから、わざわざ新しく引く必要ない」
収入も別に困ってないしな。
そう付け加えればササリスがぐむむと悔しそうに唸った。
「じゃあ、水が出るようにしようよ、きれいなやつ」
「いいけど、有料なら結局誰も使わないんじゃね?」
スラムだし。
金払えるやつって少数そう。
普通に盗み呑むやつが出てくるようになる気しかしない。
「ちっちっちー、売り方次第だよ。任せてって! 大船に乗ったつもりでさ! こういう仕掛けにしたいんだけどさ……」
で、ササリスが提示してきたのが、なんというかなぁ。
「鬼か」
「うーん、あたしは金棒より金の延べ棒が好きかな」
聞いてないからそんな話。
◇ ◇ ◇
つまりササリスの作戦はこうだ。
「にしし! 繁盛繁盛」
第一段階として、各所に水の出る装置を作る。
この時点ではただのおいしい水だ。
何の変哲もない、文字通り無料の水。
俺たちが水の出る木をスラム街に植樹して回っても、スラム街の住人は誰一人として文句を言ってこない。
「にしても、すごい食いつきだな……」
俺たちが離れたとみるや否や、水が出る木の周りにはどこからともなく人が寄って集まってくる。
「スラムできれいな水なんて貴重だからね、当然さ」
「鬼だな」
「なんでさ、ただの慈善事業だろう」
「タダも、慈善も広告に偽り有りじゃねえか」
「いまはタダだから本当なのさ」
そう、ササリスの狙いは、スラム街の住人がきれいな水を飲むことに慣れた段階で有料化するという、あまりにも非人道的な所業だった。
鬼! 悪魔!
(現代風に言えば洗濯機やら冷蔵庫やらレンジが導入されて利便性を享受するようになってから電気代っていう概念を導入するようなものだからな)
考えるだけでぞっとする。
家電に頼って得た生活水準を手放すなんて選択、いったい誰が取れるというのだろう。
(しかも、これできちんとスラムの住民でも支払える程度の金銭設定を考えてるのが汚いなさすがササリス汚い)
ササリスから聞いて知ったことだけど、いわゆるホームレスにも収入はあるらしい。
収入源は主に廃品回収なんだとか。
で、その廃品回収を物心ついたころからやっているベテランのササリスが、きれいな水を飲めるなら払ってもいいと思えるギリギリの金額設定で提示するってわけ。
汚い金だぜ。
(有料化に際し、水の飲水資格を有形の物質で授与するんじゃなく、人の魔力で判断するってのがミソだよなぁ)
例えば免許証みたいなカードを持ってる人だけ飲めますみたいな形にしてしまうと、まず間違いなくスラム街が血の海になる。
だけど殺しても資格は得られないとなれば話は逆。
血の雨が降ることはない、はず。
(俺たちを脅迫しようって人間が現れるのも織り込み済みなのが怖いよな)
なんだよ、「その時は飲み水を死守するためにあたしたちの護衛を交代制で志願する組織が結成されると思うから」って。
どこまで未来まで読んでんだよ。怖い。
(んでもってその人たちを子飼いにして組織を結成してなんか事業始める計画まで立ててるみたいだし)
なんていうかササリスすごいな。
金に対する執念が尋常じゃない。
設備だけ投資したら勝手に資産運用して莫大な資金を作ってくれてそう。
ササリスには中立ポジでいてほしかったけど、金策要員としてはこの上なく優秀なんだよな。
いまのうちに囲ってしまおうか。
(うーん、でもなぁ、金にものを言わせた何かをしでかしたいことがあるわけでも……いや待てよ?)
金そのものに興味はないけど、秘密結社的な組織の運営にはちょっとした憧れがある。
金があればつまり、こういうこともできるわけだろ?
◇ ◇ ◇
その日、ある一つの町が焦土と化した。
「CQCQ! こちらアルファー砦防衛部隊! 謎の人物による襲撃を受け交戦中! 至急応援を求む!」
『こちらベーテ砦! 同じく侵略者と交戦中!』
『ガモフ砦だ! このままでは砦が陥落する! 迎撃完了次第応援を、ぐあぁぁぁぁ⁉』
「な、なにがどうなってるんだ」
防災無線室にて当惑する、一人の係員のすぐ真後ろには一人の女性が立っていた。
「この国で何が起きているかなんて、これから死ぬやつには無用の心配だよ」
「お、おまえは――ッ⁉」
言いかけた口が、見えない力でふさがれた。
そう、例えるならまるで、とてつもなく強じんな糸で脳天から耳の前を通って下あごまで縛り付けられてしまったかのように。
「クロウからの伝言だよ。俺の襲撃を予想し防衛を強化した手腕は見事だが、その程度の増員で防げると思っているなら大間違いだ。俺がこの国を統治する様を地獄から指をくわえて見ていろ、だってさ」
それが、アルファー砦の司令官の最期だった。
「クロウ? こっちは終わったよ」
そう口にする配下に、俺は答える。
「勘違いするな。これは終わりではない。天下布武の、始まりだ」
◇ ◇ ◇
アリ寄りのアリ!
同時多発テロは個人じゃ起こせないからな。
組織を運営する魅力がそこにある。
ササリスがこのまま味方にいつくならこういう路線も視野に入れていこう!
あー、夢がひろがりんぐ。
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