第8話 鍵×解×鍵
解錠の二文字の魔法は発動した。
親父殿が施した封印のルーン文字を打ち砕き、小箱の封が切られる。
勝った。
漢字の種類はルーン文字よりよほど多い。
常用漢字ですら2136文字。
単純計算で80倍の精度で魔法を制御できる。
まして表外漢字を含めればなおさらだ。
その分だけ、威力の上昇にリソースを割ける!
(これだよ! この能力こそ劇場版限定のダークヒーローに求められる異能!)
例えばこんなシーンはどうだろう。
◇ ◇ ◇
「どうだ! これがルーン魔法の本当の力! 人を守るために受け継がれてきた力は、お前みたいなやつに使いこなせるわけがない!」と原作主人公。
「そうよ! シロウのルーン魔法はあんたなんかよりずっとすごいんだから!」とヒロインが主人公を持ち上げる。
そこですかさず俺が、
「ルーン魔法の本当の力? 笑わせるな」
と漢字を使った文字魔法を展開する。
圧倒的な力を前に膝をつく原作主人公。
「な⁉ いまのもルーン魔法、なのか!?」
「一緒にするなよ? 俺の文字魔法はルーン魔法を凌駕する」
「俺のルーン魔法が、通じないルーン使い……! こんな相手に、どうやって戦えばいいんだ!」
「来い、お前のすべてを否定してやる」
◇ ◇ ◇
アリだ。
そんな登場の仕方をしてどうやって原作主人公が俺を倒すのか想像もできないが、きっと友情パワーやらいがみ合っていたライバルと力を合わせて発動する必殺技パワーで打ち破ってくれるだろう。
俺は知ってる。
そういうのを、主人公補正って言うんだよね。
信じてるぜ、シロウ。
お前が俺を超えてくれることを。
(さて、箱の中身はなんだろうな、ほい)
ぱかりと箱のふたを開けてみる。
(なんだこれ、カギか?)
箱の中に入っていたのはカギだった。
一辺が5センチ程度の小箱に入っていたカギだ。
大きさは小ぶりだ。
実用性のわからない翼のような装飾がキーヘッドに施されていて、鍵山の部分には細かな歯車が、まるで腕時計のギアのように緻密にはめられている。
カギのかかった箱を開けたらカギが出てきた件。
マトリョーシカかな?
親父殿が「この封印を解けたら俺を探してみろ」って言ってたってことは、親父につながる手掛かりなんだろうけど、いったいどこで使うのやら。
うーん。
あ、そうだ。
これも魔法で調べればいいんだ。
(【鑑定】!)
俺とカギの間に半透明のプレートが浮かんだ。
――――――――――――――――――――
【アルカナス・アビスの秘鍵】
――――――――――――――――――――
世界で最も恐ろしい秘境の一つ、アルカナス
・アビスにつながる扉の鍵。アルカナス・ク
リスタルという水晶で出来ている。
――――――――――――――――――――
(おお! 鑑定能力だ! 異世界三大チートと名高い鑑定様ですよ!)
改めて思う。文字魔法って万能。
それにしてもアルカナス・アビスか。
聞いたことがない地名だな。
シリーズ5作目があれば登場したんだろうか。
改めて、ここが俺の知っている【ルーンファンタジー】というゲームではなく、独立した世界なんだと思い知らされる。
わくわくする。
この世界で俺は、どれだけ理想のダークヒーローを演じられるだろうか。
どこまでも広がるこの世界を、どれだけ魅力的に映し出せるだろうか。
楽しみだ。
そのためには力が必要だ。
圧倒的な力をもって、主人公の前に立ちはだかる強敵として君臨し続けなければいけない。
独立した世界なら、主人公に勝たせないと商品の販促につながらないからとかいう理不尽な理由で敗北し続ける敵キャラみたいなお約束に縛られる理由もない。
この世界で俺はシリーズ最高の悪役になって見せる!
そのためにもまずは文字魔法の練習だ!
漢字はルーン文字より威力が強いが基本的に画数が多い。
その分だけ発動に時間が掛かることになる。
手数が必要な時はルーン文字、威力が必要な時には漢字。
そういった使い分けが必要になってくるだろう。
(俺はまだまだ強くなれる)
待ってろよ原作主人公。
お前の永遠のライバルとして、お前の新たなる一歩を踏み出すために、俺は死力を尽くす!
楽しみにしてろよな!
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