第7話 ルーン魔法×漢字知識×上位互換
親父殿は結局夕飯を食べていった。
まだ1才にも満たない俺だけど、母さまの役に立てたのだと思えば誇らしい。
さて、子どもの役目を全うした後は子どもの本分に取り掛かるターンだ。
子どもの本分とはすなわち、知的好奇心の探求。
親父殿が残していってくれた謎の小箱。
見るからに魔法の掛けられたこれを解いてみろということはつまり、魔法で魔法を打ち破れということに違いない。
「ᚲ」が意味するのは鍵や鍵穴、「ᚨ」は力やエネルギー、「ᛉ」は変化や移動を表す。
つまるところ解錠を意味するルーン魔法を親父殿から受け取った小箱に使ってみた。
魔法が成立した感触は確かにあるのに木箱の封印は解かれない。
うーんこ。
スラム街のクソガキがやってきたときからうすうす勘づいてはいたけれど、俺の魔法の威力は決して高くない。
親父殿がしっかり魔法で施錠したなら、いまのままでは解錠できないんだろう。
つまり、この小箱に込められたメッセージは「ルーン魔法の威力を高めてみろ」ということだ。
(文字数が増えると制御に意識を回すから、威力を高めることに専念できなくなるって言ってたな)
逆説的に、一つの仮定が立てられる。
(1文字なら威力だけに集中できるってことか?)
盲点だった。
強くなるために文字数を増やそうとは考えたけれど、不要な部分をそぎ落とすことで洗練するって考えは無かった。
親父殿に会えてよかった。
これで俺は、一段階先へと到達できる。
この文字が表すのは軍神、転じて困難を打ち破る勝利の力。
この一撃に――いや、この一文字に死力を尽くす!
(勝負だ、親父殿の施したプロテクトと俺の解錠魔法、強いのがどっちか白黒つけようぜ! おおおおおおおおおおお!)
おおおおおおお!
おおおお!
お、おお……。
(は、はぁ!? こなくそ……っ! んごごごごご!)
一文字に力を集約させたルーン魔法は、よくよく探れば小箱の施錠を破っていた。
それも一度ではなく、何度となく。
そう。
(くそが! 開きかけるたびに新しく施錠の魔法が上書きされやがる!)
親父殿の施した魔法は俺の一歩先を行っていた。
(くそ、これでも威力不足なのか。そう簡単にクリアできる課題を残していくわけがないかぁ)
両手で二文字使えばいけるか?
いや、それだと結局威力が落ちて本末転倒か。
なにより親父殿とスタイルがだだかぶりだ。
それはどうなんだろう。
……悪くないんじゃないかな?
例えばだ。
こんなシーンはどうだろうか。
◇ ◇ ◇
「どうだ! これがルーン魔法の本当の力だ! 魔力総量で劣ったとしても、ルーン魔法の技量では負けない!」と原作主人公。
「そうよ! シロウのルーン魔法はあんたなんかよりずっとすごいんだから!」とヒロインが主人公を持ち上げる。
そこですかさず俺が、
「ルーン魔法の本当の力? 笑わせるな!」
と両手でルーン魔法を展開する。
「そ、そんな! 右手と左手で同時にルーン魔法を!?」
「何も特別なことじゃない。お前の親父も当然のようにできるぞ」
「なにっ!? 親父を知っているのか⁉」
「さあな、知りたければ力ずくで聞き出してみろ」
◇ ◇ ◇
アリだ。
よし。
じゃあさっそく右手で
(……待てよ?
例えば
だが俺は、そこに解釈の拡大を用いて解錠の魔法として使おうとしている。
本来の意味以外の用途で用いてるから、本領を発揮できていない。
あり得る可能性だ。
だが、ルーン文字はすべて合わせてもたったの25種類。
それこそ、厳密な話をしてしまえば25通りしかルーン魔法を使えないことになる。
考えてみてほしいのだが、ある日突然、25種類の単語しか使えなくなったとしていままで通りのコミュニケーションが取れるだろうか。
よほどパントマイムがうまい人以外は難しいはずだ。
クソガキの襲撃時に氷のつぶてを使っていたのも、ルーン文字に石を意味する単語が無いからだ。
石を意味する文字があったなら、素直に投石のルーン魔法を使っていた。
(ふむ……、だったら、より種類が豊富な文字を使えばいいのではないだろうか?)
石を表すルーン文字が無い?
だったら何故、「石」の文字を使わない。
(俺は転生者だ! ルーン文字にこだわる必要なんてない! 漢字というチート文字があるんだからな!)
がはは、勝ったな!
行くぜ親父殿。
これが異世界の知識を持った転生者の特権。
ルーン魔法を超えた上位互換魔法!
(【解錠】!)
文字魔法だッ!
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