第4話 魔力消費×総量増加

 魔力操作を覚えてからのクロウくんの成長具合がハンパ無い。


 まず一つ。


 ルーン魔法を使えるようになった。

 例えば平仮名のくのような文字、ケナズを空中に指先でなぞれば指先が明るく光った。

 この文字には松明たいまつの意味があるのだ。


 ルーン魔法が使える確認ができればやることは決まっている。


 ᛏᛋᛈタズピス

 これは物質を柔らかくするルーン魔法。

 ベビィベッドに使用することで寝心地をよくする!


 さらに、ᛋᛏᛞソトド発動!

 通気性を上げて汗による蒸れ感を発散!

 ベビィベッドと衣服に使用して寝心地をよくする!


 最初はそれだけで魔力がつきた。


 え、俺の魔力総量ってこんだけ?


 と落ち込んだのだが、そうではなかった。

 一度睡魔に襲われて、次に目を覚ますと増えていたのだ、魔力総量が!


 確信は無いけれど、魔力を消費することで総量が増えたんじゃないかな。

 筋肉と同じだ。

 負荷をかけて、回復させることで、強じんな肉体へと昇華する。

 そんな感じで魔力も使えば使うほど成長していくんだと思う。


(これに乳児段階から気付けたのってすごくね? 史上最強の赤ちゃんになっちゃうんじゃね?)


 ということで魔力がある限り俺は自分自身にᛊᚢᛖスエの文字を埋め込み続けた。

 このルーン魔法は成長を促進させるものだ。

 は太陽を表し、成長を象徴する文字。

 は生命力とエネルギーを表す文字。

 は繁栄と豊穣を表す文字。

 これにより、さらに成長倍率に補正を掛け続けた。


 それからというもの成長が早い早い。

 魔力総量は指数関数的に伸びている。


「クロウー? また魔法の練習をしていたの?」


 いつも優しい母が、少し険しい顔をしていた。

 どうして、と考えてみれば心当たりはすぐに見つかった。


 まだ言葉も満足に操れない子供が、教えてもいないルーン文字を駆使した固有魔法を使う。

 それははたから見ればなんとも不気味な光景だろう。


「クロウ、あなた、もしかして……ううん、もしかしなくても」


 母が、確信めいた瞳で顔をぐいと近づけるものだから、俺は思わず身を強張らせた。

 待って!

 いい子にするから!

 放逐しないで!

 10才! いや5才まででいいから!

 もう少しこの場所に置いて……


「やっぱり! 天才なのね! キャー! さすが彼の子どもよー!」


 え?

 喜んでる?


(いやおかしいとか思わないのかよ)


 これでこの母、魔法に関する知識量が(骨の例といい)スラム街出身とは思えないほど堪能なんだけど、どこか抜けてるところがある。

 とりわけ、俺からすれば顔も知らない父親に関する部分の感性が少し変だ。

 恋は盲目というやつだろうか。

 それとも本当に、子どもが生後数ヵ月でルーン文字を操っててもおかしくないくらいぶっ飛んだ父親なんだろうか。

 原作主人公じゃないけど気になってきたな。


(主人公より先に父親を見つけて、主人公について知る。そして因縁を作るってのもアリだな)


 古来から父親を知らない主人公の兄は、主人公が知らない父親の面影を知っている物と相場が決まっている。

 そして往々にして力の証を譲ってくれるよう頼むも、その証は弟の手に渡っていてそれを奪いに行くものだと決まっているのだ。


 この世界でそんな物があるのかは知らないけれど、そういう背景があればクロウくんがシロウに食い下がる動機の厚み付けにもなる。


 採決!

 俺は父親に会いに行く!


「あれ? クロウ、あなたもしかして……」


 俺を高い高いしていた母親が、ぴたりと停止して俺をのぞき込む。

 今度はなんですか。

 もうちょっとやそっとじゃ動揺しませんよっと。


「魔力総量が、増えてる?」


 そりゃあ増えるでしょ、魔力なんだから。


「変ね、魔力の最大量は生まれた時に決まっていて、増えたり減ったりすることはないはずなのに」


 え?

 じゃあなんで俺の魔力は増えてるんだ?


 いや確かに成長のルーン文字を使ってるけど、それを使う前から魔力総量は増えていたけど?


 でも確かに、言われてみればゲーム内でも魔力量はキャラごとに決まってて成長の余地は無かった。

 んん?

 本当になんでなんだ?


「学説が間違っていたのかしら。それとも……」


 母が、ごくりと喉を鳴らした。


「やっぱり……、天才だから!?」


 ダメだこの人。

 あまりに子煩悩すぎる。


 例外ってのはいろいろな分類分けを考えて、それでもどこにも当てはまらない場合に許される特別措置なんだ。

 最初から誰かだけが特別ってのは考えない方がいい。


 それよりも、そうだな。

 例えば9才から12才にかけては運動神経が成長しやすい時期だって聞いたことがある。

 たしかゴールデンエイジと言ったか。


 また小学生くらいのころは「九九」や「いろはうた」のような反復練習による機械的な記憶を得意とするが、ある程度の年齢を過ぎると意味を知らないと記憶が定着しないという学説がある。


 魔力についても、それと同じなのではないだろうか。


 例えば幼児のころは体が未発達だから魔核の発達の余地が十二分に残っている。

 だが身体が成長すると魔核は成長の余地を失い、それ以降魔力総量は増えも減りもしない。


 しかし普通の幼児は魔力を増やそうなどと考えないから、結果として魔力を増やせる時期を逸してしまう。

 そのせいで「魔力量は生まれたときから変わらない」と言われていると考えればどうだ?


(おお、つじつまが合ってる!)


 となれば、やることは決まっている。

 魔力の成長期の間に、できるだけ魔力総量を増やす。

 これを念頭にひたすら特訓だ!


 すべては理想のダークヒーローへと到達するために!

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