第3話 血統×才能×知識

 魔力を見つけてからさらに数日たった。

 未だに魔法へ変換できていない。


 血管を血が巡るイメージで魔力を全身に巡らせようとしたり、瞑想して魔力の解像度を上げようとしたり試みたが結果はどれもかんばしくない。


 妙だな。

 主人公と同じ容姿、同じ能力のキャラは天才っていうのが創作のお約束のはず。

 何かを根本から間違えてるんだろうか。


 例えば魔力を移動させる器官が体の成長とともに発達していくものだとすれば?


 この体はまだ首もすわっていない赤ちゃんボディ。

 成長具合的に魔力操作が不可能という可能性もある。


 だとすればなんとも骨折り損な話であるが、魔力と向き合った時間が無駄になることはないだろう。

 この瞑想がいつか大きな財産になると信じてイメージトレーニングをひたすら継続して行こうと思う。


 そんな決意を新たにして、さらに数日。

 未だに成果は出ていない。


 いくら幼いからと言っても焦る。

 なにせここはスラム街で、いつ安寧が奪われるかわからないのだ。


「クロウー? 爪切りするけどおとなしくしていてね?」


 母はおむつ替えで俺の肌を傷つけて以来、爪に気を付けるようになった。

 自分の爪も短くしているし、俺の爪もかなり短いスパンで短く切っている。


「はい。よく頑張れました! えらいえらい。クロウは手がかからなくていい子ね」


 おとなしくしているだけで褒められてしまった。

 工場勤務していた時は手を抜かずに作業をしても誰も褒めてくれなかったのに。

 なんて素晴らしい生き物なんでしょう赤ちゃんというのは。

 転生バンザイ!


 ……と気を抜いている場合ではない。

 血統も才能もあるのに能力が発現しないなら、問題は間違いなく努力にあるのだから。

 早く魔力を操作する方法を見つけないと。


「あー」


 俺は母へと手を伸ばした。


「はいはい。ご褒美ですよー。【キュア】」


 爪切りやら授乳やらげっぷやら。

 俺は何かにつけて母に魔法をねだった。

 魔法を見せてもらうまで粘る生活を続けていると、母も俺が魔法の光を見たがっているとわかってくれたみたいで、育児と魔法の披露が我が家ではセットになっている。


「きゃっきゃ」

「クロウは本当に魔法が好きね。そうだ、ちょっと待っててね?」


 ちゃんと構ってくれるし、いい母親なんだよな。

 ゲーム内のクロウくんが非行少年になってしまった理由が謎めいていく。

 やっぱり不幸なことがあったんじゃないだろうか。


 確信は無いが、対策はしておくに越したことがない。

 この世界での母親をなんとしても守りたい。

 自分の身を守るだけでなく、そんなことも思うようになってきた。


「えーと、確かこの辺に……あったあった!」


 母は少し遠くへ行くと、がさごそと物を漁り、何かを片手に引っ提げて帰ってきた。

 細長い棒状の何かだ。


「クロウ、ちょっとくすぐったいかもしれないけど静かにしててね?」

「あぃ?」


 母は俺の服を脱がせると、心臓へと棒状の何かを突きつけた。


(何事!?)


 前世で童貞だった一人っ子の俺に子育ての知識は無いけれど、こんな文化現代日本にはないでしょ!?

 この土地固有の文化か何かか!?


「ここを、こうして、と」


 母は俺の心臓に突き付けた棒状の物質を胸、鎖骨、肩口、上腕、肘、前腕、手首、手の平、人差し指へと這わせていく。

 棒状の何かが這った跡には線が引かれていた。

 あれはペンのようなものだったらしい。


「はい、できた!」

「あーぅ?」

「ふふ、これはね? 魔力回路よ」


 なんだって⁉

 魔力回路!?


「あぅ! あーぅ!」

「ふふ、本当に魔法が好きなのね。いい? クロウ。ここにあるのが魔力の源、魔核よ」


 へー、名前なんてあるのか(驚き)。

 そりゃあるわな(冷静)。


「ここから胸骨きょうこつ鎖骨さこつ肩峰けんぽう上腕骨頭じょうわんこっとう上腕骨じょうわんこつ橈骨とうこつ手根骨しゅこんこつ中手骨ちゅうしゅこつ基節骨きせつこつ中節骨ちゅうせつこつ末節骨まっせつこつ


 母は線をなぞりながら、謎の呪文を唱える。

 たぶん、骨の名前だと思う。

 胸骨とか鎖骨とか聞き覚えあるし。


 他の骨については知らないやつばかりだったけど、右胸から右人差し指までが骨でつながった。


「この順番に魔力を通して見よっか。ふふ、なんて、まだ言葉もわからないよね」


 なるほど……骨だったか! 魔力の通り道ってのは!

 盲点だった!


 まずは胸骨だったか。

 たしか胸の中心にあるネクタイみたいな形の骨だったはず。

 そこに魔力を移す感覚で……いや、魔核のイメージが炎だったんだから、骨をロープに見立てて火を移す感じで……


(おお!? 動いた!?)


 なんだよ!

 コツをつかめば簡単じゃねえか!


 これを肩、肘、指先へと移せばいいんだろ?


「え? ク、クロウ! もう魔力を操作できるようになったの!?」

「あーぅ! あ!」


 俺の指先には、青白い光が灯っていた。

 んだよ、ちゃんと血統も才能もあるじゃねえか。

 無かったのは知識だったってことね。


 ふぅ、これでようやく次の段階へと修行を移行できる。


「すごいわ……やっぱりクロウは、あの人の子どもなのね」


 あの人、というのは俺の父親だろうか。

 俺の頭を撫でる母の顔は慈愛に満ちていた。


「クロウ、あなたはきっと、すごい冒険者になれるよ」


 冒険者、か。


 ゲームのシリーズ一作目にあたる【ルーンファンタジー】では、主人公が冒険者の父親に憧れて冒険者試験に挑戦するところから物語が始まる。

 俺もそれに挑戦するのだろうか。


(……待てよ?)


 原作に引っ張られてクロウくんの出番は四作目から、と考えていたけれど、別にそんな必要は無いのでは?


 シリーズ三作を通してシロウは世界を三度救っている。

 そんな英雄として心身ともに成熟したキャラ相手にぶつけるから精神的葛藤の描写が弱くなるのだ。


 だけど言い換えれば、まだまだ未熟なうちから圧倒的強者として立ちはだかることができれば?


(例えば主人公と同じタイミングで試験を受けて「いまのはルーン魔法! まさか、シロウ!? ……違う、あなたはいったい誰なの⁉」って展開も熱いのでは!?)


 決めた。

 俺、原作主人公と同じタイミングで冒険者試験を受ける!

 そして「突如現れたシロウと同じ姿を持つ謎の冒険者。彼の正体は一体……!」って感じで目立つんだ。


 そのためにもまずは魔力操作を極めるぞー!

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