第9話 グルメ聖女、罪滅ぼし


 お守りの効果は、ちょっとドン引きだったけど、とりあえず助かった? ってことでいいんだよね?

 正当防衛と言い張るにはちょーっといろいろ壊しすぎた気もするけど、まぁ命が救われたから良しとしよう。


 問題は家主と思われるちっこい少女を容赦なく吹っ飛ばしちゃった件で、


「さてどうしようっか、この子」


 このまましても放置しても面倒ごとになるのは目に見えてる。

 かといって私にも人並みの罪悪感があるわけで、


「このまま放置ってのはなーんか気分が悪いんだよねぇ」


 というか、元をただせば私の食欲が暴走しちゃったことが原因なんだし、このまま関係悪化させてあの野菜を食べさせてもらえなくなるのは痛すぎる。

 とはいえ、金なし家無しの私にどんな罪滅ぼしできるかといえば、わかんないし、


「あ、そうだ。ご飯作ろう」


 そうだ。そうだよ! 

 この世界のご飯って基本的にマズイから、おいしい料理を作れば絶対許してくれるはず。

 おいしい料理を食べたら怒りが引っ込むのは世界共通だし、案外いいアイディアかもしれない。


 となればやっぱり、この瓦礫とか邪魔だよね。

 料理を作るんだったらそれなりに綺麗じゃないといけないし。


「いっちょ全力を出してやりますか」


 そうして服の袖をまくって、ステータス欄を開くことしばらく。

 ゴソゴソとスキル【錬成】を使って、レンガを積み立てていると背後から身じろぎする音が聞こえてきた。


 後ろを振り返れば、けだるげなうめき声をあげるステラが、ゆっくりと体を起こそうとしている最中で、


「む、ここはいったい。わしはいったいなにをしていたんだったか」

「あ、起きた? ちょーっとお家借りてるよ」

「――そなた。アリシュナか。ワシを縛り上げるといい度胸じゃのう――ってな、なんじゃこれはああああああ!!」


 ボロボロの部屋を見て、声を上げるステラの叫びがハロスの樹海に響き渡った。

 ごうごうと燃え上がる小さな家。

 いやースキル【解体】で使った木を適度に使ったおかげか燃える燃える。


 夜の森でキャンプファイヤーってやっぱり風情があっていいよね。


 だけど、当の住人であるステラにそれどころではないらしく。

 怒りの形相を浮かべるなり、縄で縛られているにも器用に詰め寄ってきた。


「そなたがやったのか」

「いーや、ちょうどいいスキルがあるから、できるかなーと思ってスキル使ったら、その、勝手にこうなっちゃって」

「勝手にこうなるわけなかろう! そなた、ワシの家を燃やしていったい何の恨みがある」


 だんだんと地団太を踏み、今にも射殺さんばかりに私を睨み上げるステラ。

 いや、怒るのも仕方ないけど、違うんだって。


「ほーう。殺されそうになった報復にワシが丹精込めて作った恵みを荒らし、住処である家まで燃やしておいて、何が違うんじゃ」

「だーかーら。落ち着きなって。中の荷物はみんな無事。燃やしてないよ」

「は? どういうことじゃ」

「うーん。説明するより見せたほうが早いか。もうすぐ出来上がるからちょっと待って」


 そういって生活魔法で派手に燃やしていた火を指で吹き消せば、そこには出来立てほやほやなレンガの家が鎮座していた。


「なん、じゃと!?」


 目を剝いて、驚きの表情を浮かべるステラ。

 だけど、私にしてみれば予想通りの仕上がりで


「うん。予想通り完璧な仕上がりね」

「どういうことじゃ。説明しろ」


 ううっ、追及の視線が怖いけど、やっぱり誤解はとかなきゃだよね。 


「えーっとですね。不可抗力とはいえ、シロネのお守りでアンタのお家壊しちゃったじゃん? だから野菜を取ろうとしたお詫びに晩ご飯を作ろうとしまして……」

「それでは何のためにワシの家を焼いたんじゃ」

「だっておいしそうに実ってた野菜たちが台無しになっていたんだもん」


 そう。いざ罪滅ぼしするぞー、と張り切ったはいいが、なんとこの家には台所がなかったのだ。

 それどころか。

 いやな予感がして外に出てみれば、お守りの影響なのか。ぽかりと穴が開いた壁からのぞく野菜畑は、屋敷の残骸で荒れ果ているし、トマトみたいな野菜が瓦礫につぶされ、苗は茎の半ばでぽっきり折れているわの大惨事になっていたのだ。


 この私が不可抗力だったとはいえ、食材をダメにしちゃうなんて、一生の不覚。

 

「となれば責任をもっておいしく食べてあげるのが、美食家としての務めってもんじゃん?」


 でもただ料理するだけじゃ、野菜をダメにした罪滅ぼしにならないしー。

 どうせ作るなら、最高の環境で料理したいじゃん?


「なのでついでにスキルフル活用してリフォームしてみましたー」


 なんということでしょう。

 穴の開いた壁は、レンガ積みのキッチンに早変わり。

 頼りなく思えた柱もスキル【錬成】でレンガを積み上げ、【生活魔法】でしっかりと焼き固められたオーブンや、かまどは会心の出来だ。


 いやーほんと、異世界特典さまさまだね。


 【収納魔法】で錬成したレンガを収納。その後【分析】を使って特定の場所にレンガを積み上げ、【生活魔法】と【調理短縮】を使って、焼きの工程をまるごと短縮できたから建築に詳しくない私でも楽ショーだった。

 【生活魔法】で作った火は、私が認識したものしか燃やせないってわかったってのは大きな収穫だったし、新築もプレゼントできて清々しい。


 そんなわけで――


「これで気持ちよくご飯作れるね」

「んなわけあるかい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る