第7話 グルメ聖女、先住民と出会う


 そんなわけで。

 次に目を覚ますと、私は奇妙な匂いが充満する部屋に寝かされていた。


 異世界に召喚されてから王城を飛び出すまで、私はずっと洞窟暮らしの居候暮らしで、こんな文化的な建物に入ったのは久しぶりのような気がする。


 だけど寝起きで頭がぼーっとした私の頭は、目の前にある魅力的なフォルムに釘付けになっていて、


「――なんておいしそうなお野菜なの!!」


 あちらこちらにまとめられた野菜の数々を前に、勢いよく起き上がれば、ようやく完全覚醒をはたしていた。

 薄暗くて、よく見えないけど、この私が食材の形を見間違うはずがない。

 このフォルム。このみずみずしさ。絶対おいしいやつだ。

 ということは――


「やっぱりこの状況は夢じゃないんだよね」


 野菜が置かれてるってことは、たぶん食糧庫か何かなのだろう。

 一瞬、親戚のばあちゃん家で、向こうの記憶が全部夢だったのかと思ったけど、どうやら私は本格的に、どこかに閉じ込められているらしい。

 というか――


「やけに気持ち悪いというか、調子が悪い気がするんだけど」


 ううぅ、間違って日本酒を飲んだ時みたいに、頭がズキズキする。

 それになんか臭いし、なんでこんな二日酔いみたいになってるの?


 ええっと、たしかシロネの縄張りを飛び出して、新たな食材を探す旅に出たんだよね? それで念願の野菜畑を見つけて、ちょっとお野菜を拝借しようとしたら首がチクッとして、目が覚めたら見知らぬ物置に閉じ込められて――


「ってあれ? もしかしなくても私、けっこうヤバくない!?」


 冷静に考えたらよくパニックにならなかったな私!

 両手両足は太い縄で縛られてるし、目が覚めたら見知らぬ部屋に監禁とか普通に事案じゃん!

 野菜に見とれて我を忘れてる場合じゃねぇ。

 とにかく変な面倒ごとに巻き込まれる前にここから脱出しなきゃ!


 そうして、どさくさに紛れて床にまとめられた野菜たちをアイテムボックスに収納しようとしたところで、


「ふん。目覚めたか。不届き者よ」


 扉の奥から幼い子供の声に、びくっと肩が震える。

 え、誰かいるの? 見張りか何か?

 なんかかなり幼く、年より臭い口調だったけど。


 慌てて身構えれば、ガラッと勢いよく扉が開かれ、月明りの光に目がくらむ。

 そしてようやく目が慣れたと思ったら、鋭い槍をこちらに構える小学校一年生くらいの少女が立っていて、


「ワシの畑を荒らすだけでは飽き足らず、残りの備蓄まで奪おうとはずいぶんと食い意地の張った愚か者のようじゃな」


 ピクピクと額を震わせ、なんだかお怒りのようだけど。


「ええっと、アンタは――」

「ワシの名はステラ。この聖域の森番をしている狩人と呼ばれていた番人じゃよ」


 それが私と、この森の原住民――ステラとのファーストコンタクトだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る