第2話 グルメJK、異世界召喚される


 突然だが私、聖女アリシュナこと有信ありしなくるめは、俗にいう料理をこよなく愛するグルメJKというやつだった。


 小学生から高校まで、お小遣いをためては西へ東へ、ご当地と呼ばれるグルメを求める毎日。

 yo! tubeのショート動画で未知なるグルメを求めすぎて宿題を忘れるなんて当たり前。

 期間限定のスイーツが北海道にあるとわかれば、小学生さながら、その日のうちに飛行機のチケットを取り、東京から飛行機に乗って、捜索願いが出されたこともあるくらい食べることが大好きだった。


「はぁ、世界中のおいしいものだけ食べて暮らせる仕事があったらどれだけ幸せだろう」


 ゆくゆくはミシュランガイドに載っている名店の数々の全制覇。


 その壮大な野望を胸に、粛々とバイト生活に明け暮れるていたある日。

 商店街の福引で、神は私に類まれなる幸運を与えてくれた。


「おおあたりーっ! おめでとうございます。特賞は、星三つの高級料理店。料亭ふるみやのペアチケットでーす」

「……まじ?」


 カランカランと甲高く鳴るベルの音。

 ふと視線を落とせば、金色の玉が転がっていた。


 料亭ふるみやといえば、予約は三年先まで埋まっているという、超有名店だ。


 連日、各国の大富豪がやってくるほど評判のいい店で、私も当たれば儲けものかなーと思って、引換券100枚使ってガラガラを回したんだけど、


「え、ほんと。夢じゃない、よね」


 特賞ってことは私、ついに夢にまで見た三ツ星グルメを味わえるってことっ!?

 ヤバい、めっちゃテンション上がるんだけど!!


 そんなわけで、次の休日。

 毎日欠かさず通っていた親戚のバイトをバックレた私は、軽い足取りで料亭ふるみやへ向かっていた。


 ふふっ、ついにこの時が来た。

 ヤンスタの準備もOK。おなかもしっかり減らしてきている。

 あとはこの素晴らしき機会を与えてくれた美食の神に感謝をささげるだけ。


「よし、それじゃあ。世界の至宝、堪能させてもらおうじゃない」


 そうしてルンルン気分で『料亭ふるみや』と書かれた扉を潜れば、見慣れない光が足元から私を包み込んだのだ。


 はじめはやけに派手な歓迎をしてくれるんだなーと思った。

 だけど恐る恐る目を開けたら、そこは日本家屋とは思えない見知らぬ豪華な広間が広がっていて、


「よし、聖女を召喚したぞ」

「これで世界は救われる」

「聖王国グランニールに祝福あれっ!」


 やけに豊かな口ひげを生やしたおっさんたちが狂喜乱舞。

 置いてけぼりの私は、呆然と周りを見渡し、


「わたしの高級料亭は?」


 私の疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。



 そんなわけで、どうやら私は、漫画なんかでよくある異世界召喚というのに巻き込まれたらしい。


 詳しく話を聞いたところ。

 この世界には魔族と呼ばれる恐るべき存在がおり、五百年くらい前にその王様たる魔王が異世界の勇者によって討伐されたらしい。

 だけどそのはた迷惑な魔王が、死ぬ寸前にこの世界に呪いを振りまいたらしく、いまだにその呪いが解けていないらしい。


「そこで、聖女たる資格を持つあなた様をこの世界にお呼びした次第です」


 とやたら偉そうな爺さんがにこやかに説明してくれたけど、


「そんなんで納得できるかーーっ!!」


 当然、私は暴れた。

 それはもう取り押さえる屈強な兵士を何人もぶっ飛ばすくらい、暴れに暴れた。


 だって料亭ふるみや、だよ?

 だって夢にまで見た料理を食べられずに、この世界に呼ばれて、世界を救ってくれなんて言われて、ぶちギレない方がどうかしている。


 だからこれは正当ギレで、私は絶対に悪くない。


 だけど、一度召喚されれば元の世界に帰るすべはないと聞かされ、異世界のごちそうを毎日、用意すると懇切丁寧に約束され、しぶしぶ了承したんだけど、


「その異世界のご飯がまずいってどういうことっ!」


 それもただマズイんじゃない。粘土みたいな味がするのだ。

 なんで見た目が豪華なのに、こんなにマズイのよ。

 どうせ召喚されるんだったら、ご飯のおいしい異世界に呼ばれたかった!


「せっかく、料亭ふるみやのタダ券だったのになぁ」


 普段出されるごちそうがこんなんじゃあ、王様に約束させた至高の料理ってのも、どんなものか怪しいもんだよ。


「これでその至高の料理がまずかったらただじゃおかないんだから」


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