追放されたグルメ聖女は、死ぬほど【うまい】料理で殺すッッ!! ~うまみの薄い世界で、【調理スキル】爆盛りの料理を食べさせると、みんなの服がはじけ飛ぶようです☆~

川乃こはく@【新ジャンル】開拓者

第一章 グルメ聖女の異世界グルメ・ぶらり旅

第1話 グルメ聖女、追放される


 その日。

 顔を真っ赤にした王様が『私』に向かって、絶縁状を叩きつけた。


「聖女アリシュナ。貴様を我が国から追放するっ!」


 異世界に召喚されて、はや半年。

 今まで異世界を救う聖女としての教育を終えた私は、この度、この異世界ワグル・メドールに召喚されて、二度目となる謁見の間で裁判にかけられていた。


 罪状は、私が聖女としての職務を放棄した罪、らしい。


 そっと周囲の様子を盗み見れば。ついこの間まで「期待しているぞアリシュナ殿」と目を輝かせていた人当たりのいい好々じじい面が、みんな怒り心頭って感じだ。


 まぁそれもこれも、聖女召喚のお披露目会で、私がみんなの望んだ【スキル】を取得できなかったからなんだろうけど、そんなことより――


「おなか減ったなぁ」


 淡々と続く退屈な言葉を聞き流し、きゅるるるとなるおなかをそっと抑える。


 異世界から召喚された聖女だか何だか知らないけど、十六歳の小娘にいったい何を期待してんだか。

 ちらりと謁見の間を見渡せば、親しかった第一王子までご立腹のようだ。

 一人だけ優雅に、果物をかじってはニヤニヤとこちらを見下ろしている。


(あーやだやだ。向こうから結婚しようとか言ってきたくせに、使えないとわかったらすぐポイとか)


 まったく。これだからイケメンは。 


 やっぱりこの世で信頼できるのはご飯のおいしさだけね。

 まぁ、それもこの世界に召喚されてからまったく味わえてないわけだけど――


 そんなことを考えていると、玉座からわたしを見下ろす王様からあふれんばかりの怒号が飛んできた。


「聞いているのかアリシュナ!」

「はいはい。聞いていますよ。たしか、お昼ご飯はお肉料理だったって話でしたっけ?」

「スキル継承の話だ! 貴様はこの聖王国グランニールにはびこる穢れを浄化させるために召喚されたはずだ。浄化スキルを待たない聖女など役立たずではないか!」


 あーでたよ。中年特有のすべき理論。


 世界にあふれた魔王の呪い。【魔王の泥】だっけ? 

 それを浄化するのが、異世界から召喚された聖女の役割らしいけどさ。


「それってこの世界の王様の事情ですよね? はっきり言って私には関係ないんだけど?」

「なっ!? 貴様、それは本気で言っておるのか」

「いーや本気も何も、なんで私が頑張らなきゃならないわけ?」


 王国の存亡とか私知らないし。聖王国の不始末か何か知らないけど、ぶっちゃけこんな小娘の力を頼って尻ぬぐいさせようってほうがおかしいと思うんだけど。


「アリシュナ! そなた。いくらその身が聖女で、処分される心配がないからといって、グランニールの国王である、父上に対して無礼であるぞ!!」


 あーはいはい。おとなしくしますよーだ。

 それよりまだ終わんないのー? 私、おなかすいちゃったんだけど。


 すると、私の態度が気に食わないのか。

 今までぎりぎりと歯を食いしばり、金色の髪をかきむしる王様がドンと力強く玉座を叩いて見せた。


「クソ、やはり小娘を自由にすべきではなかったのだ。召喚者はスキル習得は一度しかできないというのに、たかだか食事がまずいという理由でだけでスキルポイントを使いつくすとは」

「父上。ですから、こんなことにならぬようあの小娘を召喚してから洗脳しておけばよかったといったのです」


 イケメン王子の口からこぼれた怖い言葉に、思わずドン引く私。

 え、なに洗脳? それ本気で言ってる?


「当たり前だ! 異世界からの召喚者は、我々には及びもつかないスキルを授かれる機会が与えられるのだ。それをよりにもよって調理スキルなどというザコスキルに費やしよって! 貴様のスキルポイントをためるのにどれだけの金がかかっていると思っている!!」

 

 あーいや、うん。それについては私だって悪いと思ってるよ?

 だからこうして、おとなしく裁判に出て、何とかできないか話し合おうとしているわけだし。


「それに調理スキルだって何も悪いことばかりじゃないんだよ? みんなもこの素晴らしさが分かってくれたら、ぜったい喜ぶ――」

「ふん。料理などという下らぬも妄執にとりつかれよって。調理スキルなどゴミにも劣るカススキルであろう。そのようなものに何を期待せよというのだ」

「調理スキルが、カススキルですって?」


 戯言のように顔をしかめせせら笑う王様の言葉に。頭の奥がプッツン来る。

 それはちょっと聞き捨てならないんだけど。


 ご飯。


 それはいってみれば、命の糧だ。

 おいしいご飯は、それだけど人生を豊かにする大事なものだ。

 それを調理する技術がゴミにも劣るカススキルですってぇ!?


「ふ、ざ、け、る、なあああああああああああああ!!」


 あらん限りの力で階段を駆け上がり、虚空から取り出した作り置きのお手製のサンドイッチを、王様の顔面めがけて振り上げる。


「なっ、正気か貴様」

「ご飯の、すばらしさを舐めるなーーー!!」


 皿ごと押し付けるように押しつぶされるサンドイッチ。

 もぐもぐと咀嚼する王様。

 そして、衝撃とともにバタンとひっくり返ると、


「う、うみゅあああああああああああああああい!!」


 六十代とは思えない情けない男の声が、謁見の間に響き渡った。


「こ、国王。どうされました!?」

「国王! お気を確かに!!」

「聖女が乱心なされた!」


 びくんびくんとワタシの料理の【うまさ】に打ち震えて白目をむく王様。

 どうやら料理のすばらしさを思い知ったらしい。

 この味を知ったらもう、元の生活には戻れないだろう

 あとは――


「イグナス様?」


 にっこち笑顔で、ひぃぃっと情けない声を上げて尻もちをつくイケメン王子。

 その顔はなぜか恐怖の色に染まっていて、


「あ、アリシュナ。これはいったいどういうつもりだ。王族を害して何の得がある」

「いえ、これまでお礼をしようと思って」 

「お、お礼だと!?」


 そう。

 これはお礼なのだ。

 あなた達が私に毎日、どんなつらい拷問を与えていたか。

 それを知ってもらうお礼。


「そうすれば調理スキルがカスだなんて言えなくなるものね」

「しょ、食事がまずいからなんだというのだ。料理など、世界の命を懸けるほどの価値があるはずもない些末なものではないか。だからこの僕を殺しても何も――」

「偉大なごはんを馬鹿にする奴なんて死ねばいいのよ」  


 というわけで。慌てふためくイケメン王子の顔面に、とどめのサンドイッチをお見舞いしてやる。


 阿鼻叫喚の王城。

 その混乱に乗じて、謁見の間から抜け出すと、王家御用達の馬車をかっぱらい、夜逃げよろしく、聖王国グランニールを後にする。


 すべてはこの異世界のグルメを堪能するため。


「そのためには、死んでなんかいられないのよ」


 そう。

 すべては三か月前におこった、あの悲劇を繰り返さないために!!


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本作は、

グルメ女子高生が、聖女として召喚され、料理のおいしさを広めるべく魔物や貴族を次々とその【うまさ】で殺していく物語です。


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