第42話 爆破事件を起こした理由
リックは両腕を大きく広げる。
すると、地面から黒い液体のようなものが浮き上がってくる。
「ユウ、サリナ、何か出てくるぞ」
その黒い液体は複数に分かれ、宙に浮かび始める。
見たことのない魔法だ。
そういう攻撃をしてくる魔法なのか分からない以上、こちらから安易に攻撃することはできない。
「ふははっ! いくよー!」
リックはそう言うと、宙に浮かぶ複数の液体は形を変えていく。
数秒後にはその液体はあるものへと変化した。
そのあるものというのは……リックだ。
その複数の液体はリックと全く同じ姿へと変化したのだ。
「どう? これでどれが本物なのか分からないでしょ?」
やっぱりそれが狙いか。
自分の偽物を複数体作り出すことで相手を翻弄するのが狙いだな。
こんな魔法があるなんて知らなかった。これは戦いづらいかもしれない。
「厄介な魔法を使ってきたな……」
「そうだね。でも、私たちならきっと大丈夫だよね」
「あはは、そうだな。俺たちなら勝てるさ」
こんな状況でもサリナはまだ俺たちが勝つということを確信しているようだった。そんなサリナを見て、俺も思わず笑顔になってしまう。
そうだよな。
相手がどんな技を出してきたとしても俺たちなら勝てるよな。
何を心配しているんだ俺は。
「こんな状況でも笑っていられるなんて余裕そうだね」
リックはとても不満そうな表情をしながらそう呟いた。
おそらくこの魔法を出した時に、俺たちがビビると思っていたのだろう。
確かにビビった。でも、サリナのお陰で今の俺はその魔法に対しての恐怖心をあまり感じないでいられている。
「さあ、いつでもかかってこい」
「ふん、そんな余裕そうにしていられるのも今のうちだよ」
リックは偽物の自分たちと一緒にこちらに向かって走り出してきた。
こうなると本当にどれが本当のリックなのか全く見当がつかないな。
「二人ともいくぞ。とりあえずは本物がどれなのか考えるより先に来た敵を倒すぞ」
「「わかった!」」
そうだ。
偽物だろうが本物だろうがこちらに向かってくるのなら倒すだけだ。
向かってきた敵を斬っていけばそのうち本物にもあたるだろう。
早速、数体のリックがこちらに向かって突進してくるが、俺はそれを避けながら大剣を構えた。
先ほどまでのリックと比べるとやはり遅いな。
偽物だとあの速さを出せないのか。
だから、本物もあの速さを出すわけにはいかないんだろうな。偽物たちがいる中であの速さを出したらすぐにどれが本物なのかバレてしまうもんな。
俺は大剣でリックたちを斬撃を与えようとする。
「そう上手くはいかねぇよな」
偽物か本物か分からないが、俺の斬撃は弾かれてしまった。
他のリックを斬ろうとしても結果は同じだった。
「なるほどな」
偽物に速さは無くても、強さ自体は本物とほとんど変わりないのかもしれない。
これはやっぱり厄介だな。
「厄介だな」
「そうだろう! さっきまでの余裕はどうしたんだぁ?」
多くのリックの中から俺を煽ってくるような声が聞こえてくる。
俺が少し苦戦しただけなのに、かなり嬉しそうだなこいつ。
俺は【
「うおりゃぁっ!!!」
全体的に攻撃したつもりだったが、その攻撃を受けたのは一体だけだった。
攻撃を受けた一体は液体に戻ると、一秒もしないうちに再びリックの姿になった。
「はあ?」
「あはは、その反応いいね! これで俺を倒すのがどれだけ大変なことか分かっただろう?」
「めんどくさすぎるだろ」
やはり早く本物に攻撃を当てたいところだが、偽物が多すぎるし全部同じ見た目だから見分けきれない。
何か方法はないか。
周りを見てみると、サリナとジョンも敵からの攻撃は上手く避けているみたいだが、俺と同じように何度斬っても復活する偽物に苦戦しているようだった。
このままだと俺たちの体力がなくなるのと同時に負けてしまう。
というか、なんでこいつは楽しそうなんだよ。
戦いが好きなのもあるだろうが、それ以上に人が大変そうにしていたり、辛そうにしていたり、不幸そうにしているときの方が楽しそうに笑っている気がする。
「おまえ、人が辛そうにしているときによく笑うよな」
「え、そんなん当り前じゃん。罰が当たっているところをみているとスッキリするでしょ」
「……罰?」
どういうことだ?
今、リックはおかしなことを言った。
罰が当たっている人を見ているとスッキリするだと?
罰が当たるべきなのはリックの方だろ。多くの人たちが住んでいる場所でビルを爆破させたのだから。
「人間はみんな罰を受けるべきなんだ! 特にこの地域に住む人たちはね!!」
「どういうことだ……?」
これは新たな情報を知ることのできるチャンスかもしれない。
リックは何故かこの地域に住む人たちに対して憎悪を抱いている。
俺が理由を聞くと、先ほどまで笑っていたはずのリックの顔から笑顔が消え去った。
「……俺には妹がいたんだ」
そう言うと、すべてのリックの目からは涙が流れていた。
リックのこの地域に住む人たちへの憎悪と妹が何か関係しているのは間違いなさそうだ。
俺は構えていた大剣を下ろし、リックの話を聞くことにした。
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