第41話 自信に満ち溢れている犯人

「おまえ、名前も年齢も答えるとか、怖くないのか?」


 爆破事件の犯人であるリックに自分の情報を答えることに恐怖は感じないのか聞いてみた。

 リックはニヤリと再び笑みを浮かべて、俺の問いに答える。


「怖い? なんで? 個人情報がバレたところで誰かが俺を倒せなければ意味ないんだし、怖がる必要なんてないじゃん」

「まるで、俺たちじゃお前に勝てないって言ってるように聞こえるな」

「あははっ! そう言ってるんだよ! でも、少しくらいは楽しませてほしいけどね」


 こいつはどこまで俺たちを嘲笑っているつもりだ。

 どんだけ自分の力に自信があるんだ。


 名前も年齢も答えたのは、やはり誰にも自分を止めることができないと確信しているからだったな。

 だが、その油断を後悔させる。それが、ここにいる俺たちの役目だ。


 それにしても、本当によく笑うやつだな。


「さあ、牢屋に入る準備はできたか?」

「何言ってんの? さっきも言ったでしょ。誰も俺を倒せないって」

「倒すさ」

「誰が?」

「俺たちが」


 よし、集中しろ。

 ここからは一瞬でも油断したら殺されると思って戦うんだ。


「ジョン! サリナ! いくぞ!」


 俺たちは武器を構えて三人同時に走り出す。

 走りながら俺は自分とジョンとサリナに魔法をかける。


 通常の反応速度じゃ恐らく、攻撃を避けることすら難しいからな。


「【反応速度上昇】」


 俺たちは同時にリックに攻撃を仕掛ける。


「「「な……ッ!?」」」


 だが、俺たちが攻撃を放った時にはもう、リックは目の前にはいなかった。

 ちゃんと狙ったはずなのに。


「一体、どこを狙ってるの? 俺はここだよ」


 いつの間に移動したのか分からないが、目の前にいたはずのリックは俺たちの後ろまで移動していた。

 そういうことだ。


 俺は【反応速度上昇】の魔法をかけたはずだ。

 それでも気づかないほどの速さで移動したって言うのか?


 これは中々厳しい戦いになりそうな気がする。

 だが、リックが規格外の速さ、もしくは瞬間移動を使えるということが分かったのはだいぶ大きい。


 俺は他の二人がパニックにならないように、あえて余裕の表情を見せた。


「まあ、そのくらいの速さはあると思っていたよ」

「本当かい?」

「当り前だ。自信に満ち溢れているようなやつがそれくらいできないとむしろ恥ずかしいだろ」

「あははっ、確かにそうかもね! それじゃあ、次はもっと本気出しちゃおっかな?」

「出せるなら出してみろ」


 俺は余裕の表情を見せ続けていたが、心の中では鼓動が異常に早くなっている。

 それでも、俺は余裕の表情を崩さない。俺がパニックに陥ってしまえば、他の二人にもそれが伝わってしまい、状況は悪い方向へと向かってしまうからな。


 大丈夫だ、と心の中で自分に言い聞かせる。


 だが、不安が残っているのも事実。

 リックはあの速さを見せても、まだ本気を出していないようだ。より一層集中して相手の動きを見極めるんだ。場合によっては、予測も必要になってくるかもしれない。


「それじゃあ、いっくよー!」


 リックはそう言うと、再び姿を消した。

 いや、消したんじゃない。またあり得ない速度を出しながら移動しているんだ。


 全く見えない。

 でも、風を感じる。もの凄い速さで移動しているから風が発生しているのだろう。


「なんだ!?」


 ジョンが急に何かに驚いた声を出した。

 急に木の枝が大きな音を立てて折れたのだ。


「そこか」


 俺は理解した。

 リックが今、その木の枝を足場にして移動したのだ。

 そろそろ、攻撃してくるだろう。


 リックの速度を目で追えているわけではないが、俺は木の枝が折れた木の方を向き、大剣を振り下ろした。

 ドーンと砂埃と共に大きな音を立てた。


「あっぶね」


 俺の予測は当たった。

 振り下ろすタイミングでリックはちょうど俺に突っ込んできていたらしく、間一髪で避けることに成功はしたみたいだが、服の一部が少し破れていた。俺の振り下ろした大剣にかすったのだろう。


 リックの顔に先ほどまでの笑みはなく、俺の攻撃に驚いているようだった。


「おまえ……見えていたのか……」

「当り前だ」


 俺は一つ、嘘をついた。

 リックは自分の動きが俺には見えていたと勘違いしているようだったが、本当は全く見えていない。ただの予測に過ぎない。


 勘違いしてくれているのなら好都合だ。

 そのまま勘違いしていてくれた方が俺たちとしては戦いやすい。


「本当に見えてたの?」


 サリナが俺の傍に寄ってきて小さな声でそう聞いてきた。

 俺は首を横に振った。


 この場でサリナだけが俺がリックに嘘を言っているということに気が付いていたみたいだ。

 サリナにはどんな嘘でも見破られてしまいそうだ。


「お前の速さくらいなら見える。さあ、次はどうするんだ?」

「ふっ、俺が速さだけに特化したやつだとは思っていないだろうな?」

「魔法か?」

「ああ! そうだよ! なんなら魔法の方が得意だよ! 速さなんておまけみたいなものさ!」

「そうか」


 リックは自分の速さが通用しなかったことがかなり悔しかったようで、魔法の方が得意だと言い張った。

 まあ、本当は速さも通用しているんだけどな。


 俺としては、魔法よりも速さで押される方が嫌だったので、助かった。


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