第36話 戦いに備える

 犯人は明日、ダンジョンの最下層で待っていると言っていた。

 つまり、準備出来る時間は今日一日しかないということになる。


 俺とサリナは日本から武器を持ってきていない、というか持ち込めないので今日中に武器を用意する必要がある。


「今日のうちに武器を用意しないとな」

「そうだね。最下層に辿り着くまでにたくさんの魔物とも戦うことになるかもしれないから出来るだけ強度の高い武器を用意しておきたいね」

「そうだな。俺たちのほかにもあの犯人を倒しに行く人がいるかもしれないから、武器屋が開店したらすぐに買いに行こう」

「そうだね。今日は準備で大忙しになりそうだね」

「ああ、頑張ろう」


 俺たちは武器屋で武器を準備して、明日の戦いに備えることに決めた。

 時間は短いが万全の準備をしてあの犯人との戦いに臨まなくてはならない。


 そんなことを考えているうちに、朝日が昇り始めていた。

 朝日の光に照らされる皆の顔は涙で濡れているようだった。


 皆のその顔を見た俺は、やはりあの犯人は何が何でも倒さなくてはならないと改めて思った。


「とりあえず、朝食でも食べながらどうするか色々と決めようか」

「うん、空腹のままだと何も思いつかなかったりするもんね」


 ホテルに戻ってから、ホテルの朝食を食べようかと思ったが、近くの爆発の影響でまだホテル側は朝食が用意できるような状況である可能性が高いと思い、とりあえず近くの店で食べることにした。


 サリナの言う通り、何も食べずに空腹のまま話し合っても良い考えは生まれないだろう。

 俺たちは爆発現場とは逆方向へと足を進めていった。

 爆発現場はまだ慌ただしくしていて開いている店も少ないだろうからな。


「あ、あっちの店開いてるよ」

「本当だ。それじゃあ、あの店にする?」

「うん!」


 少し歩くと、開いている店を見つけたのでそこで朝食を食べることにする。

 普段ならこの時間は人が少ないのだろうが、皆、爆発事件のせいで外に出てきていたのか店内はすでに多くの人が入っていた。


 だけど、やはり皆の顔に笑顔はなかった。


 店自体は明るい雰囲気のデザインの店なんだけどな。


「サリナはどれ食べたい?」

「うーん、色々あって悩ましいけど、朝だし軽めのが良いよね」

「そうだな。俺も朝食は軽めにしたいな」

「それなら、やっぱりサンドイッチ?」

「そうしようか」


 俺たちは朝食にサンドイッチを数個注文した。

 もちろん、この店のサンドイッチがどんな味なのかという興味はあるが、今日は朝食の味よりも優先しなくてはならないことがあるのだ。


 用意するものや、戦う時の作戦などを練る必要がある。


 作戦を練るとは言っても、相手についての情報があまりにも少ない。

 だから、俺たちはお互いを支え合いながら戦う方法を考えることしかできないが、何も考えないよりはマシだろう。


 それと、最下層に辿り着くまでに魔物とも戦うことになると思うがそこではあまり体力を削られないようにしたいところだ。


「やっぱり、みんな少し暗いね」


 サリナが小さい声でそう囁いた。

 まあ、こればかりは仕方のないことだと思う。自分たちの命が脅かされている状況なのだから。


 それに、戦う術を持たない人も多いはずだ。

 その人たちは自分の命を守ってくれる存在が必要なのだ。


「俺たちが明るくしような」

「そうだよね。私たちがあの犯人をやっつければみんな笑顔になるよね!」

「そのために俺たちは頑張らないとな」

「うん!」


 サリナもやはり店の中にいる人たちに元気がなく、暗い雰囲気になってしまっていることに気が付いていたようだ。サリナも皆にまた笑顔になってもらうために自分たちが頑張らないといけないと思っているようだった。


 その後、サンドイッチが届き、俺たちはそれらを食べながら用意しなくてはならないことや、どのようにして戦うかについて話し合った。

 明日、ダンジョンの最下層に向かうのは俺たちだけではないかもしれない。


 もし、俺たち以外にもダンジョンの最下層に向かう人たちがいれば、その人たちとも協力していきたい。


「私たち以外にも行く人いるかな?」

「どうだろうな。もしかしたら、いるかもしれない」

「そうだよね。その時はみんなで協力できたらいいね」

「ああ、皆の目的は同じはずだからきっと協力し合えると思うよ」


 サンドイッチを食べ終えると、俺たちは店を出て武器屋を探すことにした。

 さすがに朝食を食べ終わった後も店に長時間居座り続けるわけにはいかないからな。


「あの武器屋に入ってみよう」

「そうだな」


 武器屋は予想よりも早く見つけることができた。

 スマホで調べてみると、ニューヨークには武器屋が多いらしく、コンビニと同じくらいの数あるようだ。

 つまり、それくらい武器屋の需要が高いということだろう。


 それに、普段は午後にしか開かない武器屋も今日は急遽朝から開けることにしたところも多いようだった。

 武器屋の人たちもあの犯人を倒してほしいから、普段は開けていない時間でも開けることにしたのだろう。


 俺たちのような戦える者は、その期待に応えなくてはならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る