第35話 爆発を起こした犯人

 犯人は近くにいるかもしれない。

 そう考えるだけでここにいる人たちに不安が押し寄せてくる。


「早く犯人捕まってほしいね」

「そうだな。犯人が捕まらないとここにいる人たちも安心できないだろうしな」


 そんなことを話していた時だった。


 少し遠くから再び爆発音が鳴り響く。


 周りの人たちは怯えてパニック状態に陥っていた。


「まただ!」

「爆発音が……」

「ああ……近づいてきてるな……」


 爆発音は何度も響く。

 それに、爆発音は次第に近づいてきているような気がする。

 段々、と。


 少しずつ爆発音が大きくなっていく。


 周りの人たちは混乱していて、多くの人たちが泣き叫んでいる。

 俺も平静を装っているが、内心ではどうしたらいいのか分からず焦っていた。


「くる……ッ!」


 ドゴーン! と、大きな爆発音が響き、俺たちの目の前にあるビルの最上階付近が爆発した。

 窓ガラスも割れ、割れた破片が降ってくる。


『みんな危ないぞ! ここから離れろ! 死にたいのか!!!』


 身長の高い、体格の良い男性が皆にここを離れるように伝える。

 少し荒々しい伝え方ではあるが、その方が皆、危機感をもてるだろう。


 周りにいた人たちはその人に言われた通りに離れる。


 だが、周りには多くのビルがたっている。

 正直に言うと、ほとんど逃げ場所はない。


『ヒーッヒャッハッハァアアアアアアアアア!!!』


 爆発したビルの屋上から狂気的な笑い声が聞こえてくる。

 ここにいる全員がその声の聞こえる方を見る。


 そこには、恐らくビルを爆発させた張本人である人物が立っている。

 しかし、月明かりの逆光でよく顔が見えない。


『この爆発の犯人はお前か!!!』


 先ほどの体格の良い男性がビルの屋上に立つ人物に対してそう言い放った。

 この男性はかなり正義感の強い人なのだろう。普通であれば何をされるか分からない状況で皆の前に立ち、犯人にそんなことを言い放つ勇気をもっている。


 本当にかっこいいな。


 屋上に立つ犯人は全く怯んでいる様子はない。

 むしろ、先ほどよりも声を大きくして笑っている。


『ヒーヒーヒャッヒャッヒャァアアアアアア!!! 爆発したビルの屋上にいるのは俺だけ。それで、俺以外の誰の仕業って言うんだよォ! そんな当たり前のこと聞くんじゃねぇよ!』


 この犯人はよほど自分の力に自信を持っているのだろう。

 監視カメラは気にしないし、平然と俺たちの前に出て大声で笑いながら喋ってるし。本当になんなんだこいつ……。


 顔が見えるわけではないが、さっきから時々ちらちら俺の方を何度か見ているような気がする。

 ……気のせいだといいのだけれど。


『おい! ここに戦闘好きはいねぇか?』


 犯人は突然そんなことを言い始めた。

 本当にただの狂人なんじゃないか?


『別に俺は大勢の人を殺したいってわけじゃねぇんだ。ただ、命を懸けた戦い――殺し合いがしてぇだけなんだよォ!!!』


 は……?

 こいつ、マジで言ってるのか?


 強い人と殺し合いがしたいから多くのビルを爆発させて注目を集めたってことか?


『色んな建物を爆発させれば強いやつが止めに来てくれると思ったんだけどなぁ。やっぱり、人を殺さないと止めに来ないのかなぁ?』


 こいつ、マジでヤバいやつだ。

 簡単に人を殺すことを考えてる。

 早くこいつを止めないと手遅れになってしまう。でも、どうすればいいんだ?


『今日はそろそろ行くよ。明日、近くのダンジョンの最下層にいるから。ここの住人を守りたいっていう正義感の塊みたいなやつらは来るといいよ』


 犯人はそういうと、どこかに消えていってしまった。

 ひとまずは助かったのか。


 だけど、明日までに何とかしなければまたここに住む人たちは危険な状況に陥ることになる。俺は、ダンジョンに行くべきなのか?

 ダンジョンに行ってあいつを倒してここの人たちを守りたいと思っている。でも、俺がニューヨークに来たのはサリナと旅行を楽しむためだ。ここにきてまで、ダンジョンに行くなんて……。


 俺はふと隣のサリナの方を見ると、サリナは笑顔でこくり、と頷いた。


 もしかして、俺の考えが分かっているのか?


「ユウくん、本当は明日、あの犯人が言ってたダンジョンの最下層に行ってあの犯人を倒したいんでしょ?」

「やっぱり、気づいてたのか」

「でも、私に申し訳ないって思ってるんだよね?」

「そこまでお見通しなのか」

「ユウくんのことならなんでもお見通しだよ! でも、私のことは気にしなくていいよ。そもそも、あの犯人を倒さないと楽しく旅行を楽しめないでしょ?」

「まあ、たしかに」

「それなら、私も一緒に行くから明日さっさと倒して旅行を満喫しよっ?」

「本当に良いのか?」

「もちろんっ!」


 サリナは一緒にあの犯人を倒しに行ってくれると言った。

 明日、俺とサリナはダンジョンの最下層に向かうことになるだろう。


 絶対にサリナに怪我を負わせないようにしなければ。

 以前、日本のダンジョンの最下層でバケモノと戦った時のように俺自身が大怪我を負ってサリナの迷惑にならないようにもしよう。


 俺たちは二人なら絶対に誰にも負けない。


「サリナ、それじゃあ明日は絶対に勝って、旅行を楽しもうな!」

「うんっ、絶対に勝つよ! ユウくんと最高の時間を過ごすために!」


 今、この場で笑顔なのは俺とサリナだけだと思うが、明日あの犯人を倒せばきっとここにいる皆にも笑顔が戻るはずだ。



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