第28話 決着

 元はバケモノの翼だったはずのそれはクイックバードの形をして俺たちの周りをグルグルと飛んでいる。

 一瞬でも気を緩めてしまえば、それは俺たちの体を貫くだろう。だから、俺とサリナは倒しきるまでは絶対に気を緩めない。


「サリナ、気を緩めないようにな」

「うん、もちろん」


 バケモノが再び二度地面を叩く。

 すると、クイックバードの形をしたそれは一斉に俺たちに向かって勢いよく飛んでくる。


(大丈夫だ、見える)


 短剣で何度も弾き返す。

 そのたびにカキンッ、カキンッ、と金属音が鳴り響く。


 約三十秒もの間、俺とサリナは攻撃を弾き返し続け、クイックバードの形をしたそれを倒しきることに成功したが、弾き返したそれらのうちの一つが俺の足首にくっ付く。


「うわっ、なんだ!?」

「ユウくん、足首!」

「【防御力上昇】」


 俺は急いで足首にのみ【防御力上昇】の魔法をかけた。

 その直後だった。


 それは、急に爆弾のように爆発したのだ。


「くっ……痛ぇ……」

「ユウくん大丈夫!?」

「ああ、問題ない。だけど、【防御力上昇】の魔法をかけてなかったら危なかったかもしれないな」


 俺の足首は【防御力上昇】をかけていたお陰で少し痛みは感じたがほぼ無傷だった。

 だが、少しでも魔法をかけるのが遅れていたら、俺の足は吹き飛んでしまっていたかもしれない。


「でもこれで残るは本体であるあのバケモノだけってことだよね?」

「そうだ。あいつを倒せば俺たちの勝ちだ」

「さあ、ラストスパートだ! いくぞ!」

「うんっ!」


 俺たちはバケモノに向かって武器を構えながら走り出す。


『グゥォォォァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 バケモノは睨みつけながら地面が揺れるほどの大声で叫び始めた。

 自分がピンチなことに気づき、怒り狂っているのだろう。人間もそうだが、魔物も自分が窮地に立たされると何をするか予想できない。


 完全に予想外な行動を起こすやつだっている。


 だから、俺たちはどんなに優勢でも本気でこいつを倒しに行く。


「サリナは左から行ってくれ。俺は右から行く」

「わかった。挟み込むってことね」


 サリナは俺の指示通りに左側に走った。

 俺は右に走り、二人でバケモノを挟み込むことに成功した。


 飛べない状態のこいつにとっては、挟み込まれることが一番嫌に感じるだろう。

 戦いは、敵の嫌がることをすることで勝ちにつながる。


 バケモノは俺の方を向き、その鋭い歯で噛みつこうとしてくるが、かなり弱ってきているのかその動きは最初と比べると遅く感じる。

 力が残っている状態のこいつの攻撃は避けることすら大変だったのに、今は軽々と避けることができている。


「雷系魔法でいくか!」

「わかった!」


 俺たちは最後の攻撃を雷系魔法で決めることにした。


 何度も噛みつこうとしてくるが、俺たちは避けながら魔力をこめて魔法を発動させる準備をする。

 変形武器も良いけど、最後はやっぱり短剣で決めたいよな。


 チラッとサリナの方を見てみると、サリナは変形武器ではなく刀を手にしていた。


 自然と笑みがこぼれる。

 サリナも俺と同じようなことを考えていたんだな。やっぱり俺とサリナの相性は最高に良いような気がする。


「準備はいい?」

「いつでもいける!」

「それじゃあ、いくぞ!」

「うんっ!」


 短剣の周りに雷を纏わせる。


 短剣を大きく振りかぶり、魔法を唱える。

 同じタイミングでサリナも魔法を唱える。


「「【雷撃らいげき】」」


 俺とサリナが剣を振り下ろすと、斬撃とともに雷が放たれる。

 その雷はバケモノに直撃し、バケモノは再び叫びだす。


『グゥォォォォァァァァアアアアアアアアア!!!!!』


 あまりの痛みに暴れだし、巨大な尻尾を振り回し、俺に当てようとしてくるが俺は短剣で弾き返した。

 俺の短剣はまだ雷を纏った状態だったので余計に苦しみ、約一分間、苦痛に耐えていたが最後は体が限界を迎えたようで口から煙を出しながら倒れた。


「……やった……のか……?」

「う、うん……倒したんだよ……」

「「やったぁぁああああああああああ!!!」」


 俺とサリナはついにバケモノを倒すことができたのだ!


 俺たちは嬉しさのあまり無意識に嬉し涙を流していた。


 バケモノが俺とサリナによって倒されたことに気づいた周りの人たちも俺と一緒に喜んでくれた。


「ユウさん、サリナさん本当にありがとう。僕たちは恐怖で何もできなかったのに、二人は本当に凄いな……」


 一人の男は何度も何度も泣きながら感謝を伝えてきた。

 この人は俺たちが凄いと言うが、俺もサリナがいなかったら同じように恐怖に震えて何も行動を起こすことができていなかったと思う。


「この魔石デカすぎる……。こんなデケェ魔石を持っている魔物なんて見たことねぇぞ。それほどヤバい魔物だったってことだよな……。俺らの命がまだあることすら奇跡だ」


 他の人たちはバケモノが消えて落としていった魔石を見ているようだった。

 その魔石は通常の魔物が落とす魔石とは比べ物にならないほどの大きさをしていた。


「ユウさん、サリナさん、この魔石は二人がもらってください」

「「えっ!?」」

「僕たちは二人がいなければ確実に死んでいた。二人がもらうのは当然のことだ」


 皆、魔石を俺たちにくれると言う。

 この人たちも命をかけて戦っていたことは間違いないのだ。だから、すべてをもらうというのは申し訳なく感じてしまう。


 サリナに相談すると、サリナも同じように感じていたようで俺たちはせめて半分にしてくれと頼んだ。

 それでも不満そうにしていたが、彼らは渋々許可してくれた。


 魔石の分け方を決めたところで、俺たちは運悪くバケモノによって命を奪われてしまった男の墓を皆で作った。


 あの男は、とても勇敢だったな。


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