第27話 溶ける
「よし、うまくいったな」
「ちょっと待って! 何かしようとしてる!」
地面に落ちたバケモノは俺たちの【重力】によって身動きが取れなくなっているが、口を大きく開き俺たちの方を向いている。
段々と口元に炎の球体が作り出されていく。
「魔法だな。一旦避けて【重力】をかけ続けたまま背後に回るぞ」
「わかった」
俺たちは背後に回る。
バケモノは炎の球体を放つがもう目の前に俺たちはいない。そのため、炎の球体は壁に衝突するだけだった。
壁に当たった炎の球体はドゴン! と、大きな音を立てた。
周りに落ちていた木の枝は燃えているようだった。やはり、かなりの威力があるな。
身動きが取れなくても威力の高い攻撃をつかえるんだな。
どんな状況でも安心できなさそうだ。
「いくぞ」
「うん!」
俺とサリナは身動きが取れないバケモノに攻撃を仕掛ける準備を開始する。
バケモノはずっとジタバタしていて、俺たちの【重力】もどこまで続くか分からない状態だ。もし、【重力】がきれた時に再び飛ばれたら面倒だ。
翼を切り落としておいた方が良いかもしれないな。
「翼を切り落とすぞ!」
「飛べなくさせるんだね! 分かった!」
サリナと俺は魔力を武器に流し込み、魔法を唱える。
「【
「【
俺はこの魔物は風の魔法を使った方が効果があると思い、使用したがサリナも同じ考えだったようで、風系の魔法を使用した。
俺の放った銃弾は周りに強風を発生させながらバケモノに直撃する。
この銃弾はただ撃つのとは違い、銃弾の周りの風は触れれば切れる仕組みになっている。人間が受けたなら確実に腕などが切り落とされるレベルだ。
そして、サリナの放った斬撃も風を纏いながらバケモノに直撃する。
俺とサリナ二人の攻撃が当たった瞬間、バケモノの翼から大量の血が噴き出し、翼が切り落とされる。が、同時にバケモノが先ほど以上に暴れだしたので【重力】を使い続けられなくなり、【重力】の魔法は解けてしまう。
『グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!』
痛みのせいでバケモノは叫び、飛ぼうとするが片翼を切り落とされているので飛ぶことができないでいた。【重力】は解けてしまったが飛ばないようにするという俺たちの作戦は上手くいったようだ。
「上手くいってる」
「そうだね。でも、油断は禁物だよ」
「ああ、でも空に飛べなくなったから俺たちの攻撃の幅は広がりそうだな」
「そうだね! もう少しだから頑張ろうね!」
「ああ!」
俺たちの勝利が確実に近づいてきている。
だが、サリナの言う通り油断は禁物だ。こいつが何をしてくるか分からない。
予想外の攻撃を仕掛けてくる可能性だって少なくない。
「ん……?」
先ほどまで叫んでいたバケモノが突然、辺りを見回し始めた。
何かを探しているのか?
『グォォオ……』
バケモノが笑った……ようにみえた。
気のせいだと信じたかったが、バケモノは何か攻撃を仕掛けようとしているようだ。実際に笑っていたのかもしれない。
辺りを見回したのは、俺たちが他に魔法を仕掛けていないか確認していたのだろう。
それで、ないことを確信したということだろうな。
バケモノは二度、ドン、ドン、と地面を足で叩いた。
「何だ……?」
「何をしようとしているんだろう?」
「攻撃を仕掛けてこようとしているのは間違いない」
「気を付けないとね」
俺たちは攻撃が来ると予想して武器を構えながら敵から視線を逸らさないようにしていたが、次の瞬間驚くべき光景を目にすることとなった。
俺たちが切り落とした刃でできた翼がどういう原理か分からないが突然溶け始めたのだ。まるで水銀のように。
恐らく二度地面を叩いたことで魔法を発動させたのだろう。
溶けた後は何が起こるんだ?
俺たちは困惑していた。
「少し下がろう」
「うん、どんな攻撃をするか分からないもんね」
「ああ、翼が溶けるなんて思いもしなかった」
一度、バケモノから距離をとる。
溶けた翼がモゾモゾと動き出す。
「「!?!?!?」」
その翼は巨大な棘のような形に変形し、俺たちに向かって飛んでくる。
俺は慌てて左手で短剣を取り出し、その棘を弾き返す。
今、短剣を取り出せていなかったら、どうなっていた……?
考えたくもないな。
この溶けた翼は棘に変形するのか。
それとも、どんな形にも変形できるのか。ここにきて、こんな攻撃手段まで隠し持っているとはな。
『グゥァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
棘は再びモゾモゾと動き、次は無数の小さな鳥の形に変形した。
この鳥の形、見覚えがある。
「危なっ!」
「ユウくんこれって……」
「この鳥の形、クイックバードをモデルにしたものだろう」
「だから早いんだね。でも、今の私たちなら大丈夫だよね」
「もちろんだ」
俺たちは翼を切り落とす前のバケモノの速さにも対応できていたのだ。
つまり、今はクイックバードの速さくらいなら軽々と反撃することができるはずだ。
俺とサリナはどの方向から攻撃が来ても大丈夫なようにお互いの背中をくっ付けた。
これぞ相棒という感じがする。
「それじゃあ、いくぞ!」
「うんっ!」
俺たちは武器を構えた。
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