第26話 決して絶望しない

 俺もサリナも、一人なら恐怖で震えていたと思う。

 でも、不思議と二人でなら何とかなるんじゃないかと思っている自分がいる。


 今、恐怖の象徴のような魔物が目の前にいるのに、俺たちは絶望せずに勝てると信じ切っている。


 本当は他の人たちとも一緒に戦いたいのだが、皆絶望してすべてを諦めた表情をしている。恐らく、彼らはもう戦えないだろう。

 だから、俺たちが二人でこのバケモノを倒さなくてはならない。


「さあ、サリナどうしようか」

「そうだね。負ける気はしないけど、かと言って勝てる算段があるわけでもないんだよね」

「まあ、俺たち二人で力を合わせる。やるのはそれだけだな」

「そうだねっ、私たちならやれるよ!」


 サリナの元気さには本当に勇気づけられる。


(よし、戦闘開始するか)


 とりあえず、あの速度に反応できないといけないよな。

 俺は自分とサリナに【反応速度上昇】の魔法をかける。


 これで、最初よりは反応できるだろう。


 バケモノの足がピクリと動く。


「来る!!!」


 俺とサリナは咄嗟とっさに横に飛ぶ。

 バケモノは俺たちが元居た場所にを恐ろしい速度で突進した。咄嗟の判断で横に飛んでいなかったら危なかった。

 だが、【反応速度上昇】のお陰もあるだろうが、避けることができた。あとは攻撃手段を見出すことができれば何とかなるかもしれない。


 俺は変形武器のボタンを押し、弓からハンドガンへと変形させる。

 ここからは近距離戦闘になるだろうからな。


「サリナも斧に変形させておいた方がいいぞ」

「わかった!」


 サリナもボタンを押し、狙撃銃を斧に変形させる。


 バケモノは避けられるとは思っていなかったようで、激怒しているように見える。

 目を赤く光らせながら唸ったり、叫び声を上げて尻尾を振り回してそこらへんに落ちている岩などを飛ばしてくる。

 一体どんな力で当てたらそのデカい岩を飛ばせるんだよ。


 速さと力の両方を兼ね備えた魔物か。

 厄介だが、必ず倒す。


『キキギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 再び俺たちに向かって突進してくる。

 俺たちはまた避ける。


「今!」


 そのバケモノはその突進の勢いを自分で止めることができずに壁に衝突した。

 でも、すぐにまた何かしら攻撃をしようと試みてくるだろう。その前に足止めができれば、俺たちも攻撃を与えることができるかもしれない。


 俺はバケモノの頭上の天井に銃口を向ける。

 急いで、魔力を右手にこめ、ハンドガンに流し込む。


 ハンドガンの周りが薄い緑色に光を放ち始め、俺は魔法を唱える。


「【竜巻の一撃ハリケーン・ショット】」


 銃弾が高速で回転し、竜巻を発生させながら天井へと撃ちだされる。

 その竜巻は周りの木の枝や石なども巻き上げる。


 天井に当たると、ズドーン! と大きな衝突音と共に地面を揺らし、天井がひび割れ、大量の岩や石がバケモノの上に落ちてくる。


「グイギギィィィィィイイイイイイイイイイイイン!!!!!」


 バケモノは叫び声を上げながらジタバタしている。


「サリナ、今のうちだ! 攻撃を仕掛けるぞ!」


 俺とサリナは同時に走り出し、バケモノの横まで行く。

 サリナは魔法を唱えながら斧をおおきく振りかぶる。


「見ててねユウくん」

「え、ああ、もちろんだ」

「【重力グラビティ】」

「!?」


 サリナは斧をバケモノの首に振り下ろしながら魔法を使用した。

 その魔法は俺が以前、サリナの前で使ったものだった。もしかして、サリナは一人で鍛錬して使えるようになったのか?!


 重力で振り下ろしている最中に重くなった斧は勢いよくバケモノの首に直撃し、バケモノは血を流して暴れる。

 上に乗っていた岩なども関係なしに空中に飛んだ。


 さすがに長くは足止めできなかったか。

 それにしても、今のサリナの攻撃は普通の魔物なら頭が落とされているレベルの攻撃だったはずなんだけど、このバケモノ頑丈過ぎだろ。

 もちろん血は流しているし、痛そうにしているから効いてはいるはずだけど、予想以上に頑丈だ。


「サリナ、今の魔法って……」

「うん、気づいた? 前にユウくんが使ってるのを見てから私も使えるようになりたいと思って、毎日帰った後一人で練習してたの!」

「サリナはやっぱりすごいな! これは、俺たちが勝つ確率が跳ねあがったな!」

「本当?」

「ああ、あいつは頑丈だけど確実に今の攻撃が効いていた」


 そうだ、忘れてはいけない。

 このバケモノは人間を一瞬で真っ二つにできるような魔物だ。そんな相手に傷を負わせることができたのだ。


 さっきまで突進してきていたこいつが急に飛んだのは、俺たちの攻撃を警戒している証拠だ。地面にいたらやられるかもしれない、と感じたのだろう。


 こいつをもう一度、地面におろさないとな。

 一人なら無理でも、二人なら。


「サリナ、あいつを地面におろすぞ」

「うん、もう一度あの魔法を使えばいいんだよね?」

「そういうことだ」


 俺とサリナは右手を地面につき、バケモノに視線を向け、笑みを浮かべる。

 バケモノは笑みを浮かべる俺たちにひるんだのか、少し後ろに下がろうとする。だが、もう遅い。


 魔法を放つ用意は完了している。


「「【重力グラビティ】」」


 バケモノは重力により、安定して飛行することができず、バランスを崩して地面に落ちた。



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