第15話 サリナの頼み
「ねぇ、ユウくん」
「ん?」
サリナが突然、緊張した表情で俺を見つめる。
先ほどまでは二人で笑いながら喋っていたのに急にどうしたのだろうか。
「覚えてる? 私がユウくんに話したいことがあるって言ったこと」
「あ、そういえば……」
「それについて今から話そうと思うんだけどいいかな?」
「う、うん、いいよ」
サリナと喋るのが楽しくてそのことをすっかり忘れていた。
ダンジョンに関係のない話だとは思うが、何故か緊張してしまう。悪い話でなければ良いのだが。
「実はね、今度私のモデルとしての最後の仕事があるの」
「そっか、モデルは辞めるって言ってたね」
「そうなんだけど、それが雑誌の撮影でテーマが『カップルのデート』なんだよね」
「ん、うん」
サリナと知り合ってから俺もモデルがどんな仕事をするのか調べたりして、モデルは雑誌の撮影などの仕事もあることは知っている。そして、その中にはカップルを演じた撮影もあるのは分かるのだが、それを何故俺に伝えてくれたのだろう?
俺が困惑した表情をしていることに気が付いたのかサリナはハッとした表情になり、深呼吸をしてから何かを伝えようとする。
「それでね、ユウくんにはお願いがあるの」
「お願い?」
「ユウくんにはその撮影で私の彼氏役として一緒にモデルの仕事をやってほしい」
「……!? えっ!? 俺が?!」
「うん、ダメかな?」
ちょっと待ってくれ。
予想外過ぎるんだけど。
俺がモデルの仕事?
モデルの仕事って結構大変そうなイメージがあるんだけど、俺なんかに務まる自信がないよ。でも、サリナの頼みなのに断るのも申し訳ない気がする。
どうしたものか。
そもそも俺のような一般人がそんな仕事をして本当に良いのか?
「本当に俺なんかでいいの? 俺、モデルの仕事とか今までやったことないんだけど」
「ユウくんが良いの! 私だってテーマがカップル関係の撮影はやったことないんだよ。でも、彼氏役は知名度がある人ならモデルじゃなくてもいいし、最後の仕事だから私が選んでいいって言われたんだよね」
「でも、知名度ある人なら俺はダメなんじゃない?」
「ユウくん忘れたの? ユウくんはもう一般人じゃないんだよ。もうネットでは有名なダンジョン配信者なんだよ」
「あ……そっか……」
「それで、ユウくんの返事を聞かせてもらえる?」
これは了承してもいいのか?
たしかに俺は忘れていたけど、一応ネットではそれなりに知名度があるらしいし、配信でも俺に対して悪い意見は少なく、俺のことを良く言ってくれる人が多かった。それなら、サリナのお願いを受けてもサリナに迷惑は掛からないのかな。
迷惑が掛からないのなら、俺はこの願いを受けるべきだな。
俺は長考し、サリナが神に祈るかのように手を合わせていたのを見て答えを決めた。
「わかった。その仕事、受けるよ」
「本当に!? やった!!! ありがとう!!!」
「でも、本当に俺でいいんだよね?」
「うんっ! ユウくんがいいの!」
「それなら俺も頑張るよ。サリナにとっての最後のモデルの仕事だしね。だけど、俺は初めての経験になるから色々教えてね」
「それはもちろん。全部教えてあげるよ。分からないことがあったら、遠慮しないで何でも聞いてね」
俺がいい……か。
サリナは何かを意識して放った言葉ではないと思うが言われた側の俺としては、ドキッとしてしまった。
それに、サリナは有名モデルだからこういうカップルがテーマの撮影は何度もしてきたものだとばかり思っていた。そういう撮影の仕事を受けたことがないと聞いて何故かホッとしている自分がいる。
というか、その仕事はいつあるんだろう。
今週暇だと決まってから伝えてきたということは今週か? それとも、まだまだ時間があって、早めに伝えておいたとか?
うーん、どちらにせよサリナには色々とモデルの撮影について教えてもらわないといけなさそうな気がする。
「早速聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「なんだいユウくん。先生が何でも答えてあげよう!」
サリナは嬉しそうに先生のような答え方をする。
俺がこの仕事を受けると決めたのが嬉しかったのかいつも以上に機嫌が良さそうだ。まあ、サリナの機嫌が悪いことなんてほとんどないんだけどな。
俺はサリナが先生を演じていたので生徒を演じながらサリナに質問してみることにした。
「サリナ先生! その撮影はいつあるのでしょうか?」
「それはね、明後日です!」
「なるほど、ありがとうございます! ……って、明後日!?」
「そうだよ。明後日」
「早くない?」
「たしかに日程を伝えてなかったね。この仕事自体、突然決まった仕事だからね。あ、もしかして明後日は用事があったりした?」
「いや、別に用事はないんだけど、ここまで早いと思ってなくて」
「そうだよね。ごめんね。でも、安心して! 私が全部教えるから!」
「よろしく頼むよ」
明後日と聞いて驚きはしたけど、サリナが全部教えてくれるらしいの安心できる。
有名モデルから撮影の指導を受けることができる人なんて、ほとんどいないだろうからな。今の俺は、モデルを目指す人たちからは羨まれる状況だろう。
俺はそんなことを考えながら「がんばろう」と、心の中で呟いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます