第16話 練習してみよう
翌日も俺は起きてから準備を済ませるとすぐにサリナの家へと向かった。
予想以上に受けたモデルの仕事の日程が早かったためにサリナから色々と学ぶ必要があったのだ。
何でも教えてくれるらしいので安心しているが、モデルの仕事という初めての経験。今日中で可能な限り覚え込んで、サリナに迷惑をかけず、サリナのモデルとしての最後の仕事を素晴らしいものにするために俺も一生懸命頑張らないとな。
サリナの家に着くと、俺はインターホンを鳴らす。
「は~い」
「少し早かったかな」
「いや、全然大丈夫! 私がユウくんを最高のモデルにしてみせるよ!」
「ありがとう。サリナが教えてくれるなら安心だな」
「私も頑張っちゃう!」
やる気いっぱいのサリナを見て、俺もやる気になる。
教えてくれる人がこんなにやる気に満ち溢れているのだから、教えを受ける側の俺もやる気を出さないわけにはいかないからな。
部屋の中に入ると、サリナが一冊のノートを俺に見せてくる。
「これは?」
「これはね、ユウくんが楽に覚えられるようにモデルの撮影でよくやるポーズとかをまとめたノートだよ。昨日作ったばっかりだからもしかしたら書き忘れとかもあるかもしれないけど、そこは許してね」
「え!? 昨日、俺が帰った後にこのノートを書いてくれたの?」
「そうだよ! これならユウくんも覚えやすいでしょ?」
「本当に良いの? 明日の撮影のメインはサリナなのに」
「いいんだよ。ユウくんと一緒に完璧な撮影にしたいからね」
「ありがとう。俺も頑張るよ!」
そのノートには今までサリナが撮影で経験してきたモデルの知識などが書かれていた。自分の準備もあるはずなのに俺のためにこのノートを作ってくれるとは思ってもいなかった。
サリナって本当に良い人過ぎる気がする。
ここまでしてもらっているのだから、俺も俺の最善を尽くす。
「どう? 分からない部分ある?」
「サリナのまとめ方が上手くて理解しやすいよ。でも、モデルってこんなに多くの種類のポーズを撮影でやるんだね」
「そうだね。だから、大変だけど撮影が終わって雑誌が発売されたときに完璧な仕上がりだったときは最高に嬉しいんだよね」
モデルの撮影は大変な仕事だと思ってはいたが、実際にこのノートの中身をみると、今までサリナが経験してきたであろうモデルの大変な部分や、それを乗り越えた後の達成感なども記されていた。
俺も今日で自分の限界まで覚え込んで明日の撮影で上手くいったらその達成感などを感じられるんだろう。そのために俺はサリナと一緒にがんばろう。
ノートを見ながら早速、簡単そうなものから真似してみる。
「こう……かな……」
見よう見まねで練習していると、隣のサリナは「うんうん」と頷き、目をキラキラと輝かせながら俺がモデルのポーズの練習をしている姿を楽しそうに眺めている。
見てもらわないと指導してもらえないのは分かっているのだが、こうも楽しそうに見られるとどうしても恥ずかしく感じてしまう。
「あっ、その状態で一回止まって」
「このまま? わかった」
サリナが急に止まるように言ってきたので、俺は言われた通りにそのまま静止する。
「そのポーズのときはもう少し右腕を上げてみて」
「こう?」
「そうそう! 良い感じ! ユウくんはやっぱり物覚えがいいね」
「そうかな。ありがとう」
楽しそうに俺の練習風景を見つつ、ちゃんと教えてくれるあたり流石だな。
しかも、サリナは俺に教えながら自分の練習も同時に行っている。
指摘されたところを直しただけで、サリナは笑顔で褒めてくれる。
褒めて伸ばすタイプなのだろうか。俺としてはとても気分が良いので楽しい。
そもそも褒められて気分が悪くなる人は存在しないと思うが。
*****
約数時間後、俺はノートに書かれているほとんどのポーズは覚えることができた。
だが、まだ完璧とは言えないので寝る前とかにもう一度復習しよう。
「お疲れ様」
「ありがとう。サリナのお陰で結構覚えることができたと思う」
「いや、それはユウくんが頑張ったからだよ。だって、あのノートの内容を半分覚えられたらいいなくらいに思ってたんだよ」
「えっ! そうだったの?」
「そうだよ。だから、ユウくんは自分に自信持ってね。ユウくんは自分が考えてる以上に凄いんだからね」
「ありがとう。そう言われると、明日の撮影が上手くいくような気がしてきたよ」
「そうだね。明日は二人で最高な撮影にしようね」
「うん、頑張るよ」
明日の撮影は絶対に成功させて見せよう、と俺は心の中で強く思った。
俺自身の頑張りと、サリナの上手い教え方かみ合ったことで俺はノートの内容を覚えることができたのかもしれない。
練習を終え、帰ろうとするとサリナは俺を引き止めて両手で俺の手を握る。
「どうしたの?」
「ユウくんにはこれを伝えておかないといけないと思って」
「ん?」
「モデルの撮影で一番大切なのはメンタル、自分に自信を持つことだからね!」
「そうだよな。教えてくれてありがとう」
「うんっ! 明日がんばろうね」
サリナのアドバイスを聞いた瞬間に完全に不安は消えて、自分に自信を持てるようになったような気がした。
そのアドバイスを心の中で何度も繰り返し呟きながら、俺は帰路についた。
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