第13話 まるで弾丸

 俺たちの走り出す音に反応したクイックバードたちは一斉に振り返り、目を赤く光らせながら突っ込んでくる。

 早いのは知っていたがここまでの速さだとはな。

 これ、【反応速度上昇】の魔法をかけていなかったら今頃体中穴だらけにされていたかもしれない。


「これは予想以上だな。サリナ、大丈夫か!」

「うん、大丈夫だけど攻撃が早すぎてどうしても防戦一方になっちゃう」


 そうなんだよな。

 早いうえに数が多い。


 攻撃を防ぐので手一杯の状態になってしまうんだよな。

 サリナだけではなく、俺も攻撃するタイミングを見つけられずにいた。


 どこかで手を打たなければ、俺たちの体力が切れた瞬間に終わってしまう。


「早すぎるだろ。まるで弾丸じゃねえか」

「そうなんだよね。目の前でマシンガンを打たれている気分」


 その場には剣とクイックバードが衝突する金属音が何度も何度も鳴り響く。


(何かないか……)


 魔法は発動に時間が掛かるから使えない。

 ……ん?


 発動に時間が掛かるから使えない……?

 いや、待て。それは違う。

 発動にほとんど時間のかからない魔法も存在する。ただ、その多くは防御に使う魔法だ。


 相手の動きを止められる魔法を使うことができれば、勝機を見出せるかもしれない。


「サリナ! 一度俺の後ろに下がってくれ!」

「うん、わかった!」

「上手くいくか分からないけど、試したいことがある」

「何か思いついたんだね」

「ああ」


 サリナが俺の後ろまで攻撃を防ぎながら下がってくると、俺は地面に手をついてクイックバードたちを見ながら魔法を発動するタイミングを見計らう。

 俺が何かしようとしているのを感じ取ったのかクイックバードたちは先ほどよりもさらに速度を上げて加速しながら俺めがけて突っ込んでくる。


(よし、今!)


「くらえ、【鉄の壁アイアン・ウォール】」


 俺がそう唱えると、目の前に鉄でできた銀色の壁が地面から生えてきた。

 クイックバードたちは自分たちのその速さを急には落とすことができずに次々に壁に突き刺さる。


「凄いよ! ユウくん!」

「上手くいったみたいだ」

「あとはとどめを刺すだけ?」

「そうだけど、念のためにこれだけはしておこう」

「ん?」


 俺はクイックバードたちが突き刺さり抜け出そうともがいている鉄の壁に触れ、魔法を唱える。


「【溶解メルト】」


 鉄の壁は溶けてクイックバードたちを動きを完全に止める。

 これはもう放っておいても大丈夫だろうが、忘れてはいけないのがこいつらは深層の魔物だ。

 こんな状況からでも時間をかければ抜け出す可能性がある。


 だから、俺たちは必ずとどめを刺さないといけない。


「それじゃあ、やるね」

「ああ、頼む」

「【サンダー】」


 サリナは魔法でクイックバードたちにとどめを刺した。


「さすがサリナだ。ちゃんととどめを刺せてるよ」

「よかった。鉄の壁が溶けたやつがクイックバードたちを固めてたから電気が通りやすかったのも良かったのかもね」

「よし、それじゃあ今日はここまでにして魔石だけ拾って帰るか。それに深層で何が起こっているのか情報屋に聞きに行きたい」

「そうだね。私もそのことは気になる」


 どの国でもダンジョンの近くには必ず情報屋というダンジョンに関する気になることなどをお金さえ払えば教えてくれたり、その時は分からなくても調査に行ってくれたりする人たちが店を構えている。


 俺たちはそこに行き、深層で何が起きているのかを聞くことにした。


「配信はここまでにしておく?」

「そうだね。初配信にしてはだいぶ濃い内容だったんじゃない?」

「濃すぎるくらいだよね」


 俺とサリナは配信を見てくれている視聴者に感謝を伝えてから、配信を切った。



【ライブチャット】


:二人ともお疲れさま!


:サンドイッチ食べてるときは尊い雰囲気だったのに、戦いになった瞬間に真剣な表情になる二人めっちゃカッコよかった!


:深層の魔物まで倒しちゃうってマジで凄すぎ!


:最強のコンビ爆誕!


:次の配信も来ます!



 視聴者の人たちも楽しんでくれたようで、褒めてくれるコメントがほとんどで、次も来ると言ってくれる人もいた。

 こういうコメントを見ると頑張って良かったと思える。


*****


「失礼しま~す。誰かいますか~?」


 情報屋の店内に入り、サリナが呼びかけると奥の方から店員と思われる男性が小走りで出てきた。


「どんな情報をお求めかな?」

「今、ダンジョンに行ってきた帰りなんですけど……」

「ダンジョンの中で何かあったのかい?」

「はい。そこまで深く潜ってないのにクイックバードに遭遇したんです。しかも大量の」

「何だって!?」


 俺たちがダンジョン内で起きた出来事をそのまま男性に伝えたのだが、この情報をまだ知らなかったようで、かなり驚いているように見えた。


「まだ情報はない感じですかね?」

「そうだねぇ、一応調査をしてみるよ。あんたたちの言う話が本当ならかなり危険かもしれないね。とりあえず、来週もう一度ここに来なさい。それまでには情報を集めとくよ。調査の危険度によっても値段は変わるが、良いかい?」

「はい、大丈夫です」


 情報屋の男性は来週までに情報を集めてくれるという。

 深層の調査をするのだからかなり危険なはずだから、値段は高くなるだろうがこればかりは仕方がない。


 店を出ると、俺たちは今週の予定について話ながら帰路につく。


「ユウくん、どうしよっか?」

「今週はダンジョンに行くべきじゃないと思う。情報が出るまで待とう」

「そうなると、明日から暇になるね」

「そうだな。何しようかな」

「あっ、そうだ! ユウくん明日私の家に来てよ! 話したいこともあるし!」

「えっ!? サリナの家に? でも俺、サリナの家の場所知らないよ」

「それなら後で住所送っとくよ」

「それなら……わかった」


 実はサリナが初めて俺の家に来た時に連絡先を交換していたのだ。


 それに話したいことって何だろう。

 明日から暇になると決まってから急に思いついたようだから、多分ダンジョンとは関係のない話だとは思うが。


 明日の約束をした俺たちは、それぞれの家に帰るのだった。


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