第12話 何かおかしい
あと一戦だけ戦うために俺はサリナと共にダンジョンの中を進んでいく。
もちろん、注意や警戒は怠らない。ダンジョンは深くなればなるほど、地上から離れるほど魔物の強さは上がる。
配信のコメント欄もそれを知っている人が多いのか、心配する声などが多くなってきている。
有難いことに配信を見に来てくれている人たちは、俺たちが強いと思ってくれているようだが、どんなに強い人でもダンジョンでは何が起こるのか分からないということも知っているため、心配しているようだ。
「ここからはさっきよりも慎重に行くよ」
「うん、強い魔物が出るかもしれないよね」
「ああ、気づいたことがあったらすぐに言ってくれ」
「わかった」
ダンジョンの中を進むにあたって、報告はとても重要だ。
少しでも何かを感じたりしたら、すぐに仲間に報告するのがダンジョン内を進むうえでの基本である。もし、報告を疎かにしてしまうと危険に気づいた者は良くてもそれに気づいていない仲間は危険な状況に陥ってしまうこともある。
なので、俺はサリナなら知っているとは思ったが、念のために何かに気づいたりしたら言うように伝えた。
ダンジョンに潜っていると身体的にも大変だが、それ以上に周囲の警戒を常にしていなければならないので精神的の疲労の方が大きくなる。
「ユウくん、ちょっと待って」
サリナが早速何かに気づいたようで、足を止めるように言ってきた。
目を閉じて耳を澄ませているようだった。
「何かに気づいたのか?」
「うん、よく耳を澄ますと分かるんだけど、奥の方から何かの鳴き声みたいなの聞こえない?」
「……たしかに」
俺も耳を澄ませると、かすかにだけど奥の方から何かの鳴き声が聞こえてくる。恐らく魔物の鳴き声だろう。
だが、鳴き声がいくつか聞こえる。
複数いるのだろう。
「多分一体じゃないよねこれ」
「ああ、鳴き声がいくつか聞こえる。複数いるな」
「隠れながら進もう」
「そうだな。できるだけ気づかれないように」
「うん」
歩き進めていくと、鳴き声が近くなってくる。
壁から顔を出して覗くと、そこには小さな鳥の魔物が飛んでいる。
それに数がかなり多い。
十体……いや、二十はいるかもしれない。
それにあの魔物は――
「ユウくん、気づいた?」
「ああ、あの魔物ってクイックバードだよな」
「そうなんだよね。クイックバードが何でこんなところにいるんだろう」
クイックバードというのは強力な魔物の一種で、敵と認識した相手に対しては目で追うのも難しいほどの速さで突っ込んでくる強力な魔物だ。
それに普段は群れで行動するような魔物じゃないうえに、ダンジョンの深い場所、深層にしか現れないとされている。
ダンジョンで一体、何が起きているんだ。
よく考えてみればこの間のミノタウロスだって深層に生息しているはずの魔物だ。
何かおかしい……。
「何かおかしくないか?」
「だよね。ここ深層じゃないのに……」
「そうなんだよな。しかも群れで行動しているのも気になる。もしかすると、深層で何か起きてるのかもしれないな」
「それでクイックバードたちは逃げて群れを作ってここまで来たってこと?」
「あくまでも予想だけど」
普段は深層に生息しているはずの魔物が逃げてきているのだとしたら、それ以上の魔物が現在の深層には存在しているということになる。
これは俺の予想に過ぎないので、クイックバードやミノタウロスは偶然深層を離れただけであれば良いのだが。
「ここで戦う? このまま見逃して地上近くに行っちゃったらヤバいよね」
「だいぶヤバいな」
「それじゃあここで食い止める?」
「サリナはどうしたい?」
「地上の近くは新人の冒険者とかダンジョン配信者が多いからここで食い止めたい」
「わかった。それじゃあ、二人で頑張るか」
サリナは他の人のことも考えてくれているんだな。
まあ、俺も新人ではあるんだけどな。
きっと、俺のことは信頼してくれているんだろう。
そんなサリナの気持ちに俺も応えたい。俺は一度深呼吸をしてから覚悟を決めた。
「ユウくん、準備はいい?」
「ちょっと待って。サリナ、こっち向いて」
「ん?」
俺はサリナの頬に手を当て、魔法をかける。
「【反応速度上昇】」
「!?」
サリナは急に頬に手を当てられて驚いたようだが、これは許してほしい。
クイックバードの速度は速すぎるため、戦闘中に魔法を使う時間がないと思う。そのため、今のうちにサリナに反応速度上昇の魔法をかけておくことでクイックバードの速さにも対応できるようにしておきたかったのだ。
サリナに魔法をかけ終えた俺は自分にも同じ魔法をかけた。
「これでクイックバードの速さにも対応できるはずだよ」
「……ありがとう」
サリナは顔を赤らめて恥ずかしそうにしていたが、感謝を述べてすぐに敵の方へと目線を向け覚悟を決めた表情になっていた。
何故だか分からないが不思議とこの二人でなら深層の魔物相手にも戦える……いや、勝てるような謎の自信が沸き上がってきた。
この自信は決して油断などではない。
俺たちなら勝てる!
「いくぞ」
「うん!」
俺たちは飛び出し、敵の方へと走り出した。
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