6-2:そうだ、限定品の販売日だ!


「スキル全開! 特別スキル覇王、深淵なる者、天空の加護発動!」



 あたしは皆がちまちまと攻撃しているのに見かねて自分のスキルを全開にさせ、更に特別スキルも発動させる。




「みんなを守れ、【絶対防壁】!!」


 

 きんっ!


 ガンっ!!



 見えない壁がみんなの前に張り出されてあの空から降って来る指のでこぴん攻撃がせき止められる。



「うおっ!? なんだこの障壁は!!」


「すげぇ、あの攻撃を防いだぞ!!」


「誰の援助だ!?」



 ボスモンスターの足元で戦っている皆さんは、いきなりの援護に驚いている様だけど、これはこれからのあたしの攻撃がみんなに及ばないようにするためのもの!



「手始めにいっけぇっ! 【爆裂核魔法】!!」



 あたしがかざした手のひらに赤い光が集まる。

 そしてボスモンスターに向けて何重にも魔法陣が現れ照準を定める。

 赤い光はやがて収束して行き白い小さな光の球へとなって行き、やがて豆粒より小さくなって……



 カッ!


 どごがぼがぁあああああああぁぁぁぁああああああぁあぁぁんっッ!!!!


 

 それは臨界点を越えて一気に核分裂を起こす。

 まばゆい光と高熱、爆風が一気にボスモンスターに向かって放たれる。

 そしてその光は一瞬でボスモンスターの上半身を焼き尽くす!!



「どうだ!!」


 

 どがぁああああああああぁぁぁ~んッ!!!!


 ごごごごごごごごごごごごごぉ……




「す、すげえ……」 


 誰かがそう言う。


 爆裂が放たれ、ボスモンスターの上半身が大爆発を起こす。

 まるで火山が爆発したかのような灰色のもうもうとした煙が遮ってどうなったがまだ見えないけど、他のみんなはあたしの【絶対防壁】に守られているから呆然としてその大爆発を見上げている。



 しかし……



「マジかいな、おいっ!」


 煙が晴れ始めるとそこからほとんど無傷の上半身が現れた。

 そしてつぶっていた眼を見開きあたしの方を見る。



 ぎろっ!



「うっわぁ~、目が合っちゃったよ。でもまだまだ行くよ! 喰らえ『ジャッジメント』!!」


 あたしは続けて特別スキル覇王の技、神の裁き「ジャッジメント」を発動させてる。


 ボスモンスターの上空に魔法陣が現れそこから神の裁き、巨大な女性の足が落ちて来る。

 その足には凶器であるハイヒールが穿かれていて、その鋭い踵がボスモンスターに向かって振り下ろされる!



 ごごごごごごぉおおぉぉぉぉ……


 にょきっ!



 ぶぎゅるぅううううぅぅぅっ!!



 「ジャッジメント」はものの見事にボスモンスターに直撃をして大ダメージを与える。

 だって、ダメージ表示がかなりの数字が表示されてるんだもん!


 と、


 ボスモンスターは流石に大技を連発で喰らって片膝をついた! 


 

「よっしゃーっ! 効いてる!!」


 調子に乗ったあたしはここで更に両手をボスモンスターに向けて深淵なる者の「異界の門」を使う。



「いでよ『異界の門』!!」


 それはすぐさまボスモンスターの後ろに現れ大きな扉を開く。

 無数の黒い手が伸び出て来てダメージを与えたボスモンスターを捕らえ、そのまま門の中に引きづり込んで行く。



 ぎぃいいいいぃぃぃぃ……


 ばたんっ!



 どごっ!

 ぼごっ!

 ごがっ!

 がすっ!!



 閉じられた門の向こうでボスモンスターがもの凄い音をたてられてボコられる。

 毎回思うんだけど、あっちで一体何が起こっているのだろうか?

 もの凄く気にはなる。


 しかしそんなあたしの好奇心も扉が再び開かれ吐き出されるあのボスモンスターを見て考えが変わる。



「あまり効いてないか…… これ本当に倒せるの?」



 あまり考えたくはないが、このボスモンスターのHPが実は天井が無いとか、ダメージ喰らった分だけレアアイテムとかですぐ回復するとか無いよね?


 あたしはアイテムボックスからMP回復ポーションを取り出し一気に飲み干す。

 とにかく少しでもMPを増やさないと!



「となると、最後はあれを試すだけか…… 迷ってなんかいられない! もう一回全スキル解放、特別スキル覇者、深淵なる者、天空の加護解放、いっくぞぉっ、必殺技、『カーニバル』っ!!!!」



 さあ、このあたしの最大最強技「カーニバル」だ。

 これで倒せなかったら逃げよう。

 そして他のログアウトする方法を探そう。


 そう心に決めてあたしはHPとMPのほとんどを犠牲に「カーニバル」を発動させる。



 途端にボスモンスターの頭上と足元に大きな魔法陣が現れる。

 それは同時に魔法陣どうしの間が光って光の柱を成型する。


 ボスモンスターはその光の柱に閉じ込められる形で身動きが取れなくなる。

  

 そして光り輝く各職業の姿をした英霊のような者が沢山現れ、光の柱の中をぎゅうぎゅうに満たしてゆく。

 全ての職業が躍るかのようにボスモンスターに群がり攻撃を加える。

 それはまるで洗濯機の渦のように奔流がぐるぐると周り、まるで盆踊りでもしているのではないかと言う感じで光の柱の中でうごめく。


 えーじゃないか、えーじゃないかと歌声さえ聞こえてきそうだ!



「どうだっ!?」



 その盆踊りはさんざんボスモンスターをどつきやがて消えて行く。

 上下の魔法陣も消えてあたしからごっそりとHPとMPを奪い去る。



「くぅっ、流石にきつい!」



 ぺたん。



 この技、あたしのHPとMPを残り一づつにして全てを吸い取るような技。

 おかげで足に力が入らなくなりその場に女の子座りをするあたし。



「回復ポーション……」


 言いながらあたしはアイテムボックスに手を突っ込む。

 そしてちらっとボスモンスターを見る。


 ボコボコにされたボスモンスターはそれでもぼろぼろになって崩れる事は無く、そこに両ひざをついて存在していた。



「まずい、早く回復しなきゃ!」


 慌ててアイテムボックスから一本の回復薬最強のエリクサーを取り出し、それを一気に飲んで回復をする。

 このエリクサーは全てのHPとMPを回復してくれるレア中のレアアイテム。

 苦労していろいろな素材を集めて錬成をしたあたしでも数少ない所持のレアアイテム。


 でもそんなレアアイテムを今は惜しみなく使う。



「くぅ~、回復できたけどまだ倒せないか!?」


 正直これであたしの打つ手は無くなった。

 「カーニバル」まで使って倒せないんじゃぁお手上げだ。



「……だめだ、逃げよう!」


 あたしはそう言ってくるりと踵を返して【空間移動】を使って別の街に逃げようとした。

 だって十分にプレーヤー冒険者には協力したし、あたしも十分すぎるほど戦った。

 でも倒せないんじゃここは逃げるしかないじゃん!!



『この世界にも強者はいたか…… この我にここまでダメージを与えるとはな。無礼を許せ。お前は小さきものにあらず。我と対等に在る者よ!!』



 ボスモンスターはあの声でそう言ってあたしの頭の中に直接話しかけて来る。



「いえいえいえ、ちっちゃくて弱いです! 現実世界のあたしは身長百五十センチ無いですし!! 対等だなんておこがましい!! あ、そうだ今日ほら限定品の発売日だからこれでおいとまします、それじゃ!!」



 思い切りそう言ってから別の街に飛ぼうとしたら【空間移動】が阻害され、飛べなかった。


 マジッ!?

 この魔法が使えないんじゃこの場から逃げられないぃ!!



「影移動!!」



 【空間移動】がダメならせめてこの場から少しでも離れようとして影移動とかも使ってみるけど、やはり発動を阻害される。



「どひぃいいいいぃぃぃっ! ごめんなさい、もうしませんから見逃してぇっ!!」



 やばいやばいやばい!


 あんな化け物どうやったって倒せないよ!

 逃げの一手のはずだけど、やることなす事すべて阻害されこの場から逃げられない。

 膝をついたボスモンスターはその両手をあたしに向けて伸ばして来る。



「ひぃいいいいぃぃぃぃぃっ!!」



 だめだこれ、殺られる。

 このあたしが殺られて昏睡状態になってしまう!!


 ああ、二日目も安心さんは一回使っちゃってるから今のこのお腹の張りには対応しきれないだろう。

 さようなら、現実世界のあたしの尊厳。

 そしてもし現実世界に戻れたら発見されたあたしの事は忘れてお兄ちゃん、お母さん、妹よ!


 絶対トラウマになって更にひきこもる~っ!!




『強きモノよ、我と同等の存在よ……』



 ばっぎゃーんっ!



 伸びて来た手は地面に着く前にバラバラになってボスモンスター自体がぼろぼろになって消えて行く。


「へっ?」


 それはどんどんと崩壊して行きバラバラになって砂のように細かくなり消えて行く。

 あたしを睨んでいたその瞳も何も。



「か、勝った?」


『お前の勝ちだ…… だがもう少しだけ本来の姿で話をさせてもらおう』



 あの声がそうあたしの頭に響く。

 その瞬間周りに上がっていた歓声も何も聞こえなくなってあたしの意識は暗い闇夜に落ちて行くのだった。




 * * * * *



 あれ? 

 ここは??



 気がついたらあたしは中学校の教室に座っていた。

 これは中学生一年の時の教室?


 小学校から中学校に上がって、付近の小学校が何校か集まるから人数も一気に増える。

 そして仲良くもしたくないのにあたしは周りに合わせてへらへらと笑いながら友達と言う連中とくだらない事を表面上だけは合わせていた。




 なんでこんな事しなきゃいけないんだろう?



 

 そう自分の中で問うても答えは無い。

 そしてだんだんと周りと合わなくなってきて距離が開き始める。



 そんなの、そんなの嫌だ!

 仲間外れは怖い。

 いじめられる!!


 あたしだって努力してるんだ、誰かあたしと一緒に!!



 しかしみんなとの輪が遠のいて行く。

 何時しかあたしはその輪から完全に離れどこの輪にも入れなくなっていた。



 いやだいやだ!

 仲間外れは嫌だ!!



 そう心では泣き叫んでも表面上はなに事も無いようにふるまっていた。

 でも、あたしの心はいつも泣き叫んでいる。


 と、そんなあたしと同じく向こうに泣き叫んでいる声が聞こえる。


 そちらに顔を向けるとあたしと同じように泣いている女の子がいる。

 それは江西奈伊代その人だった!



「いよっち!」



 あたしはいよっちに手を差し伸べる。

 その手は中学三年生のあたしの手になっていた。


 しかしもう少しでいよっちに手が届くところでいよっちは周りに現れた学校の先生や大人たちに連れ去られて遠くへと行ってしまう。




「いよっちっ! いよっちぃっ!! 駄目、いよっちを連れて行かないで、友達なんだ、大切な友人なんだ、あたしの、あたしのたった一人の『親友』なんだぁッ!!!!」






 あたしはそう叫びながらどんなに走っても届かない、あたしのただ一人の「親友」いよっちに手を伸ばすのだった。 


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