5-4:運営さーん、この人でーす


 砂の街の上空にあった異形の門はそのとま口から今までにない大きさのモンスターを吐き出した。



「なんだあれは……」


「嘘だろ、おい……」


「あんなのどうやって倒せってんだよ」



 プレーヤー冒険者の皆さんは口々にそう言う。

 そりゃぁ、身長がどう見ても何十メートルもありそうなモンスターだ。

 しかもどう見ても野獣と言う言葉がぴったりの相貌。

 夢に国に出て来る美女と一緒に出て来るあの野獣見たいと言えばいいのだろうか。


 しかしその大きさが半端ない。



「なんあんだあれは!? あんなのベータ版にすらないぞ!! どうなってんだよ、ハッキングなんてレベルの問題じゃないぞ!!」


 冒険者の一人がなんかそう言っている。

 やたらと詳しいな?



「あり得ない、あんなのプログラミングした覚えないぞ! あんなのにやられたらプレーヤーなんて!! 終わりだ…… この状態でやられたらシステムエラーで再起動できないから意識が呼び起せない、ずっと昏睡状態が続いてしまう!!」



 はい、決定。

 この人関係者だ。

 しかも開発か何かに関わっていた人だ。



「おい、どう言う事だよ!? お前まさかこのゲームの開発者か!?」


「どうなってるんだよ、あんなの倒せってのかよ!?」


 

 すぐに他のプレーヤー冒険者に捕まる。

 そして言い寄られ動揺の色を示す。



「分からない、今までベータ版のボスキャラが勝手にこっちに呼び寄せられたり修正プログラム走らせたりとしたけど、あんなの作った覚えはないぞ!! しかもこんなシナリオ設定していない!! どうなってんのかこっちが聞きたいくらいだ!!」


 

「うっ……」


 そのベータ版のボスキャラ呼び寄せたのあたしだ……

 まずい、もしかしてバグり始めた原因ってあたしに関係するの?

 

 あたしはこっそりとこの場を離れようとする。

 すると何か言い合っている声が聞こえてくる。



「じゃあ、あいつを倒せばこの状況から解放されるっていうんだな!!」


「た、多分そうだ。システムもシナリオもあいつを中心に動いている。他のモンスターたちが倒せたところを見るとちゃんとダメージ判定は設けられている。この状況は割り込んできたシナリオをあのボスモンスターを倒せばきっと打開されるはずだ。そうすれば自己修復プログラムも正常に動くし、ネットへのアクセス阻害も収まるはずだ」



 逃げ出す寸前にそんな話を小耳にする。

 うーん、要は突然入り込んできたこのシナリオを終わらせれば正常に戻るってことか。

 しかし……



「あれを倒すのはなぁ~」



 あたしはあのでっかいモンスターをもう一度見上げる。 


 あたしの最大最強の技、「カーニバル」が効くだろうか?

 いや、その前にあのモンスターのHPってどんだけ有るのだろうか?

 鑑定しても何も見る事が出来ない。

 どれだけのスキルでどれだけのHPなのかさえ分からないんじゃ手の出しようがない。



「……様子見しよっと!」


 あたしはそう言って影移動で砂の街から少し離れたところへ移動する。

 そしてアイテムボックスを確認して素材を使って回復ポーションを大量に作り始めるのだった。



 * * *



「ふむ、連合部隊を作るか。そんでもってあのでっかいのをみんなで倒そうねぇ~」



 こそっと砂の街の宿屋でゴールドとかアイテムを回収して東の街に飛んでいた。

 そこで冒険者ギルドの掲示板を見ながら残ったプレーヤーで力を合わせてあのでっかいモンスターを倒そうって話になったようだ。


 決行は今から一時間後。

 可能な限りのアイテムを持ち寄り、可能な限りの人員であの化け物を倒そうと言う事らしい。


「ん~、気持ちはわかるけどね……」


 あたしがゲームを始めてリアルな世界では多分八時間くらいが過ぎているだろう。

 一回お腹が張った感じがしていたから、多分二日目も安心さんの出番だったのだろう。

 しばらくしてお腹の張りが無くなったから、あっちの世界の本体のあたしは人生二度目の大ばくちをしてしまっている。


 まあ、実績としては前回助かったので今回も大丈夫だとは思いたい。



「とは言え、アレを倒すにはもっと他にもアイテムを作っておかなきゃだね。とりあえず素材になるモンスターは狩りまくったし、お金に物言わせて必要な素材アイテムも買いまくった。錬成してほとんどレアアイテム張りの武器も準備できたしこれで少しは戦えるかな?」


 予備のアイテムボックスに戦闘セットとか回復セットを入れてそのアイテムボックスをアイテムボックスにしまい込む。

 これを戦場でみんなに配りまくって後方支援できれば少しはあいつのHPを削れるだろう。

 

「出来ればあたしが手を出さずに倒してもらえればいいんだけどねぇ~」


 言いながらあたしは更にアイテムボックスを購入して支援用の備品を詰め込むのだった。



 * * * * *



「集まってくれたみんなありがとう! これよりイレギュラーであるあの巨大モンスター討伐を始める。このシナリオはあの巨大モンスターがボスキャラになっているようで、あいつを倒せばこのシナリオが終了し修復プログラムが動き始めるらしい。修復プログラムが動き始めればまずはネット接続が出来、我々も安全にログアウト出来る様だ。ここが正念場だ、みんなの力を貸してくれ!!」



 砂の街である程度の上級冒険者が集まっていた。

 中には中級らしいのもいるけど、ポーションとかの運搬位は出来そうだ。


 初級冒険者はゴールドを渡されて街でポーションを買い込んで運ぶと言う後方支援をする事になっているらしい。

 あたしはその様子を遠巻きに見ている。



「第一陣は遠距離攻撃と魔法攻撃で探りを入れる。大賢者でも鑑定が出来ない程の上級モンスターらしいので、その属性や特性を見極めたい。タンク職の者は彼らを守ってやってくれ。第二陣があいつの片足を集中して攻撃、揺らいだら第三陣も手伝って総攻撃だ!」



 おおぉ~っ!



 みんなやる気満々だね。

 良きかな良きかな。

 あたしはもうちょっと様子見をさせてもらうからね。


 ちらりとあのモンスターを見るけど、あいつは現れてからずっとあそこに立ちすくんでいる。

 特に何をする訳でも無し、仲間だか子分だかのあの悪魔みたいなモンスターもこっちにはもう出て来ていない。


 シナリオ的には異界の大魔王でも来たって感じなんだろうけど、何もしないってのはおかしなものだ。



「行くぞみんな! 攻撃開始っ!!」


 冒険者のみんなはその声を聴いて一斉に遠距離攻撃や魔法攻撃を始める。

 でっかあのボスモンスターに矢や魔法の攻撃が飛んで行く。

 それはボスモンスターに着弾するも、全く効いていないかのように身動きしない。



「次、第二陣行くぞぉ!!」



 次いで戦士や剣士、肉弾戦を得意とする冒険者たちがあのボスモンスターの片足に集中して攻撃をかます。

 しかしやはり効いているようには見えない。

 かなり硬いのか?



「くそう、びくともしねぇ!!」


「どう言う事だよ、当たり判定やダメージ判定はあるってのに!!」


「こいつ身動き一つしねえぞ!!」



 足元で剣や斧、槍やら何やらで攻撃をしている皆さん。

 でも全くと言って良いほど聞いていないみたい。



『我は……我は何故攻撃を受けている?』



 あれ?

 この声って……



『お前らは何故我を攻撃する?』



 その瞳が初めて冒険者たちを見つめる。

 それはまるで人間が蟻でも見るかのような目。

 攻撃は効いている。

 しかしそれは蟻が人間に噛みつくのと同じくほんの些細なモノ。


 ほとんどノーダメージである。



「ふざけてるのか!! 貴様はボスキャラだろうに!!」


「そうだ、俺たちの敵だ!!」


「この、当たり判定とダメージ判定はあるんだからとっととくたばれ!!」



『我が敵? お前らは我の敵なのか??』



 ボスモンスターはそう言って足元の冒険者たちを見る。



『お前たちは我の敵にならない…… あまりにも小さき者』



「うるせぇっ!! こなくそっ!!」


 ボスモンスターにそう言われ一人の冒険者が大きく剣を振りかぶって攻撃をする。

 

「あっ!」


 しかしそれは空から突き出された人差し指に弾かれ吹き飛ばされる。


 まずい、あの一撃で一気に数千のHPが削られた!!

 あたしはすぐさま彼の元へ走って行って回復ポーションを使う。



「大丈夫!?」


「あ、ああ、済まねぇ。一発でHP一桁とかどうなってんだよ……」



 何とか殺られるのは防げた。

 しかし、アナザーワールドゴッド並みの攻撃力とは、あたしでさえ何発も喰らったらヤバい。



「これあげるから使って! 後他の人も!!」



 本当はどさくさに紛れて後方支援の人たちに渡すつもりだったアイテムボックスを渡す。


「すまねぇ、助かる! って、なんじゃこりゃぁ!?」


 まあ鑑定できる人がいたら驚くだろう。

 だって全部レアアイテムみたいなもんだから。

 でもここで出し惜しみしていられない。


 あたしは立て続けに走り回ってアイテムボックスを手渡してゆく。


 これで戦力は大幅に増強された。

 あたしは一人小高い場所に移動してもう一度あのボスモンスターを仰ぎ見る。



「さっきの声、あの場所で聞いた声だった。そうするとあいつはあの『我』とか言うあっちの世界を作った神か…… いや、あたしたちにしてみれば大魔王だな!」



 運営さーんこの人です、この人が悪者です!!




 あたしは本気でそう叫びたかったのだった。

 

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