5-3:こいつが原因なの


「うーん、なんか大事になってるのかぁ……」



 冒険者ギルドの掲示板が現在の情報入手の手段になっている。

 とは言え、この掲示板もプレーヤーが書き込んでいるモノだから現在このゲーム内にいる人たちからの情報で外の世界、つまり現実世界からの情報は一切入って来ていない。


「ネットが繋がらないってことは自己修復プログラムとかだけじゃ直らないってことかな? だとすると早い所復旧してもらいたいんだけど……」


 あたしは長丁場を想定して十二時間くらいは戦えます状態だからまだ余裕がある。

 そう言えばお父さんなんかがギャグで「二十四時間戦えますか?」とか言いながら栄養ドリンク飲んでいたらしいけど、あれって昭和のサラリーマンの実情らしい。


「そんなことしたら死んじゃうってーの。 ん?」


 くだらない事を思い出しながら掲示板を見ていると気になるハンドルネームの書き込みがあった。

 こんなやつが。


****************************************


いよっち:だめ、東の街もログアウト出来ないどころかあの門から出て来たモンスターに次々とレベルの低いプレーヤーがやられている。


もちゃもちゃ:砂の街も同じだよ。こっちは上級冒険者が多いからパーティー組んでれば何とかなるけどジリ貧だ。


リグル:始まりの村とかもう駄目だ。NPCも建物も全部壊されてバグってるぞ!!


さや:ログアウト出来ないだけじゃなく、このままじゃやられて昏睡状態になっちゃうよ!!


****************************************



「いよっち…… まさかね。でもあいつらのせいでみんなが窮地に陥ってるって言うの?」


 ゲームのエラーとは言えプレーヤーキャラクターが倒されるとそのプレーヤーに影響が出て再度立ち上げが出来なくなって本体が昏睡状態になってしまうと言う。

 多分現実世界では大問題になっているし、そのまま意識が戻らなかったら大問題所じゃない。


「となると、あたしの楽しいゲームライフを守るためには……」


 あたしはすぐに【空間転移】で東の街に飛ぶのだった。



* * *



「マジですかいッ!?」


 

 【空間移動】の魔法でやって来たあたしはその惨状に思わずそう言ってしまう。

 街がぼろぼろと言うか、バグりまくって透明な状態とか揺らいで消えそうになっているとか、NPCがふらふら歩いているのだけど上半身なかったりとかマジやばい状態。


 冒険者ギルドはどうやらプレーヤーが集まって防衛線を張っている様だけど、レベルの低いプレーヤーばかりのようだった。

 しかしその中で上級者プレーヤーパーティーもいるみたいで時たま強力な魔法がぶっ放されてもいる。


 しかしジリ貧には変わりない。



「くそっ、たむりんがやられた! もうタンクできるやつがいないぞ!!」


「こっちもMPもうないよ、マジックポーション誰かちょうだい!!」


「嫌だぁ、こんなのでやられたくないよぉ!!」



 阿鼻叫喚。

 まあ初級か中級レベルじゃこの悪魔みたいな異界のモンスターはきついだろう。


「取りあえずサクッと倒そう、神舞!!」


 あたしはすぐにでもて冒険者ギルドを襲っている三体のモンスター共に切り込む。

 花びらのエフェクトが舞い、強力なレアアイテム『魂喰らいの剣』で踊るかのように切り込む。



 ずばっ!


 漸っ!!


 ズンバらりっ!!



 冒険者ギルドを襲っていたモンスターたちはあたしのいきなりの奇襲にどんどん倒されてゆく。

 どうやら冒険者ギルドで戦ってたプレーヤーが与えたダメージもあるのだろう、ほとんどのモンスターは一発で倒せた。

 

 しかしこいつらはまだまだいる。

 羽があるから空飛んでるのもいるし、ここは一気にとらえる必要がある。



「特別スキル深淵なる者発動! いでよ『異界の門』!!」



 あたしは手を掲げ空を飛んでいる数体のモンスターに向かって「異界の門」を発動させる。

 途端に空中におどろおどろしい門が現れその扉を開く。



 ぎぃいいいぃぃぃ~


 しゅるしゅるしゅる~


 

 門が開くと同時にあの黒い手が無数に出て来て空を飛んでいるモンスターたちを捕らえ門の中に引きずり込んで行く。



 ぎぃいいいぃぃぃ~

 ばたんっ!


 ばきっ!

 ぼこっ!

 どごっ!!



 相変わらず不穏な音がして門の向こうでボコられるモンスターたち。

 見えない分向こうで何が起こっているかものすごく気になる。

 しかしそんないや~な音も止まって再び門が開かれるとボコボコにされたモンスターたちが吐き出される。



 ぎぃいいいぃぃぃ~

 

 ぺいっ!


 どさどさどさっ!



 吐き出されたモンスターたちは地面に投げ出されピクリとも動かない。

 どうやら倒したようだ。



「すげぇ……」


「何あの技、見た事無いぞ?」


「誰だよあの人?」



 冒険者ギルドを守っていた冒険者のプレーヤーたちはあたしが近場のモンスターたちを瞬殺して驚いている様だ。

 ふっふっふっふっ、君たちこのあたしの強さを説くと見るが良い!!

 すると一人の戦士がこちらにやって来る。



「助かったよ、俺たちだけじゃあのモンスターにいずれやられてた」


 どっかで見たことのあるような戦士があたしに代表でお礼を言う。

 えーと、誰だっけ……


「サブちゃん、大丈夫? ミオミオ回復してやって」


「了解、いよっちも回復ポーション使ってね」



 ぴくんっ!



 あたしがお礼を言って来た戦士を見て誰だったか思い出そうとしていたら後ろで魔法使いと神官のプレーヤーが話しかけて来た。

 そしてその中に「いよっち」と呼ばれる魔法使いを見て思いだす。

 

 あの第七層にいたパーティーだ!


 戦士の片腕も直っている所を見るとあのダンジョンを何とか抜け出せたかな?

 しかし、「いよっち」って呼ばれた魔術師の女性キャラクターって……


 思わず彼女を見るけど、雰囲気は確かに似ている。

 でも外観が全然違うから確信は持てない。


「あ、えっと、いよ……っち……」


 あたしがそう声をかけようとした時だった。 



「おい、また来たぞ!!」



 誰かがそう言って叫ぶのを聞きあたしはすぐにアイテムボックスからアイテムボックスを取り出す。


「これあげるから回復して!」


「え、あ、ありが……とう……」


 彼女はそれを受け取り呆然とあたしを見る。

 しかしあたしはそれだけ言うとすぐにまたあのモンスターに切り込むのだった。



 * * * * *



「ふう、これで大体は殲滅できたか。しっかしこの様子だと他の街もヤバそうだな。始まりの村は壊滅状態って話だし次の場所に行って見るか?」



 とは言え、あたしの【空間移動】の魔法は行った事のある場所じゃないといけない。

 とりあえず次は砂の街に飛んでみる事にした。


 そして砂の街に到着して驚く。

 あの異界の門からまだまだあのモンスターたちが大群で出て来るからだ。

 


「なんかここは団体さんでお出ましなのね?」


 あたしは空一面を覆うモンスターの群れを見上げる。

 すると街中にいた他のプレーヤーたちの声が聞こえる。



「もう駄目だぁ、あんなに来られたら!」


「馬鹿言うな、冗談じゃないぞやられて昏睡状態だなんて!!」


「とにかくみんなで撃退済んだ!!」



 街の中にいる冒険者たちは一斉に迎撃する構えを見せる。

 うん、流石に上級者エリア。

 レベルもそこそこっぽいプレーヤーが沢山いる。



「じゃあ、あたしもお手伝いっと、いっくぞぉ職業悟る者の最大最強魔法、【爆裂核魔法】!!」


 天空に手を掲げ、爆裂魔法系の最強魔法をぶっぱなす。


 手のひらの前に赤い光が集まって来る。

 そして照準を決めた方向に何重にも魔法陣が現れ、光が更に集まって来る。

 その光はどんどん集まり小さくあたしの手の平に球体になってさらに白く輝きながら小さくなっていき……



 きゅぅうううううぅぅぅぅ~

 

 カッ!

 

 どごぼがぁどがぁああああああああぁぁぁぁっぁあああああっぁぁぁぁんッ!!!!



 収束された小さな白く輝く光の球は豆粒より小さくなったと思った瞬間魔法陣に向けて爆発するかのように光り輝く。

 その真っ赤な光はドラゴンのブレスにも劣らない核分裂の光。

 この世界での最強無敵の爆裂魔法!!


 空にいたモンスターたちはあまりの火力に一瞬でチリとなり消し飛ぶ。



「うっしゃー! 大体半分は消し飛ばした!!」



 あたしはガッツポーズをとって更にもう一発【爆裂核魔法】をぶっぱなす。

 これのお陰で空中にいたほとんどのモンスターがチリと化した。



「す、すげぇ……」


「初めて見たぞ、【爆裂核魔法】…… 最上級職じゃなきゃ取得できない魔法のはず……」


「やったぜ! あの大群がほとんど消し飛んだ!!」



 砂の街にいたプレーヤーの皆さんが口々にそう言う。

 ふっふっふっふっふっ、どうだいあたしの強さは?


 そう思いながら振り替えようとしたその時だった。



「何だあれは!?」


 誰かが大声でそう叫ぶ。

 まったく何なのよ、あたしの見せ場だったのに!

 ちょっといい気分だったのに台無しじゃないの。 


 そう思い言われたそちらを見ると、まるで野獣と言う表現がぴったりの巨大なモンスターが門から出て来た。

 身長五十七メートル、体重五百五十トンはありそうだ。

 巨体は唸るわ空飛んでるわで、昔お兄ちゃんがはまっていたゲームのスーパーなロボットのセリフが思い出される。




「こいつが原因なの?」




 あたしは思わずそう唸るのだった。


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