5-2:別行動させてよ
「いたたたたたぁ…… またこのパターンかいな。えっとダメージは……」
クレバスに落ちてあたしは地下深くにいるようだ。
周りがなんか暗くてよく見えない。
とりあえずダメージを確認するけどHPはほとんど減っていない。
流石はギルガメッシュの職業と魔獣装甲。
でもちゃんと疑似の痛みはあるんだよね~、軽くたたかれたくらいの衝撃なんだけど。
「さてと、落ちたって事はもしかしてダンジョンか何かかな? 明りよ!」
そんな事を言いながらあたしは魔法の光を灯す。
頭の上少しの所に光の球が浮き出て周りを照らすけど、なんか変?
「ここって、何?」
―― バグが発生した模様です。現在通信状況が悪いようです。復旧作業を始めます ――
ナビさんがそう言って現状を報告してくれる。
しかし、よくバグが出るなぁ~。
このゲーム大丈夫か?
ドクンっ!
それはいきなり感じられた。
何と言うか、スキルや感知能力と言うモノとは全く違う感じ。
あたしは慌てて周りを見渡す。
ドクンっ!!
「また? 何この感じ……」
あたしがそう言うと何かが聞こえてくる。
それは聞いた事の無い言葉。
「何?」
その声は更に大きく何かを言っている様だけど、英語でも他の国の言葉でもなさそうだ。
「ナビさん、これって一体何なの?」
ナビさんに質問するけどナビさんが反応しない?
もしかしてさっきの通信状況が悪いからとかでサポート機能のナビさんが止まってしまったか?
『聞こえるか?』
あたしが戸惑っているとその声は今度は直接頭の中に聞こえて来た。
でもそれはナビさんとは全く違う声。
男性にしては少し甲高いし、女性にしては渋みが強い声だ。
「誰?」
『我は我だ…… お前こそ何者だ? 我の元にお前が来ているのだが……』
うーん、新手のボスキャラか?
しかしここまで演出が凝っているとは。
「もしかして魔王か何かかしら? ここは何処?」
『ここは我が世界。お前が我が領域に入って来た』
おおぉ!
アナザーワールドキングなんかが異世界からのボスキャラとして出ていたから今回のマジカリングワールドって異世界って設定もあるのか!!
これは燃える。
通常フィールド以外にもボーナスステージみたいなのがあるのか!?
さて、あたしは平然と質問をして見る。
「あらそうなの? それで私をどうするつもり?」
『……どうにもしない。我は我、この世界は我の世界。お前が我が世界に入って来ても何もしない』
「えーとぉ……」
いや、ここは普通に戦闘開始とかじゃないの?
あのアナザーワールドキングだっていきなり戦いが始まったと言うのに?
「……じゃあ、あたしを元の世界に返してよ」
『それは出来ない。我の世界とお前の世界を融合させなければそれは出来ない』
んん?
もしかしてこれって大イベントのトリガー?
冒険者の誰かが異世界に迷い込んで元の世界に戻るにはこいつとこいつの世界をマジカリングワールドで開放するってことかな?
つまり、異界フィールドの解放って事!?
面白い!!
まだ天空界に行ってないけどこの異界も面白そう。
だったら!
「良いわ、あたしのいた世界とあんたの世界をくっつけても。でもあんた一体何者なのよ?」
『我は…… 我は我だ。お前たちの世界で言う〇×△だ』
ん?
バグかな?
こいつの正体が何だか聞き取れなかった。
でもまあいいか、新しいフィールドの解放なんだもんね。
「何でもいいや、どうやらこのイベントが終わらないとセーブも何もできないみたいだし、演出でナビさんのアシストが受けられない緊張感とか流石最新作!」
『……意味がよく分からないがお前の承諾を受けた。我の世界とお前の世界を繋げる』
そう言った途端周りがぱぁっと明るくなって気がつけば元の雪景色の岩山付近にいた。
「あれ? 元の場所に戻った?? さっきのあれは……」
―― エラー発生。エラー発生。本システムはプレイヤーを最優先して…… ぶつっ!! ――
途端にナビさんの声が頭の中で響いたと思ったら切れてしまった。
慌ててナビさんを呼び出すも反応が無い。
「なにこれ? おーいナビさんやーいぃ」
何度か呼んでも反応が無い。
仕方なしにとりあえず北の街に戻ろうとしてあたしは気付く。
「なんだありゃ?」
空高くに門が浮いている。
「異界の門」とはちょっと違うけど、ごつごつしたおどろおどろしいのは同じ感じ。
それはあたしが見ている前でゆっくりと開き始める。
そして門が開かれるとそこから見た事の無いモンスターたちが沢山飛んで来た。
「おおぉっ! これが新フィールドの異界とのつながりか~。あっちの世界にはどうやって行くんだろうね? と言うか、これって出てきたモンスターが……」
見た事が無いモンスターばかり。
しかも鑑定してもステータスも何も見れない。
これは燃える。
未知の異界からの侵略者ってパターンか!?
「ナビさんも使えないと言う事は、これもベータ版の特別な仕様か! よおぉし、早速あのモンスターたちと戦ってみようか!!」
あたしはその門が現れた北の街の方へと急ぎ走り始めるのだった。
* * * * *
「へっ?」
急いで北の街に戻ってみるとそこは阿鼻叫喚だった。
あの門から出て来たモンスターは街を襲い、建物を破壊するけど破壊された建物はバグでも発生しているのだろうか、半透明になったり所々がじじじじじぃっと揺らいで消えたり現れたりしている。
「なんか大事ね、とりあえず近くにいるあいつから、スラッシュ!!」
衛兵と戦っているモンスターに攻撃をかける。
それは見事に相手に当たりモンスターがこちらに気付いた。
その悪魔のようなモンスターはあたしに向かって炎を吐いてくる。
「よっしゃ、『暴食の盾』!」
すぐさまレアアイテム「暴食の盾」で相手の攻撃を吸い込み、倍返しをする。
「リバース!」
ボシュボシュっ!!
ぼぉ~んッ!!
炎の球はしっかりと倍返しでモンスターに当たって破裂する。
するとモンスターの外観が焼けただれ、血とかがにじみ出る。
「うわっ、なんかリアル! でも!!」
あたしは「神舞」を発動させこのモンスターを倒す。
花びらのエフェクトが舞い、踊るかのようにそのモンスターを滅多切りにする。
勿論相手もその太い腕を振り回しあたしを攻撃してくるけど、回避補正のお陰でかすりもしない。
そして「魂喰らいの剣」がトドメの一撃を放つ。
漸っ!!
『げへぇぇええええぇぇぇぇぇ』
ばたっ!
うっし、勝ったぁ!
なんか思ったほど強くは無いけど倒せない相手じゃない。
超上級者エリアだけど、異界のモンスターでもなんとかなりそうだね。
「と、こいつのHPはイエティ位ってことかな? まあ上級者パーティーなら倒せるか」
あたしはそう言いながら街の中にいるモンスターたちの討伐を始めるのだった。
* * *
あたしは冒険者ギルドにいた。
「くそ、どう言う事だよ!!」
「ナビが効かないぞ? おい運営出て来いよ!!」
「またログアウト出来ないのかよぉ~」
「なんかあの空の門から出て来るモンスター倒しても経験値もゴールドも入ってこないよな?」
北の街に出たモンスターたちはあたしやプレーヤーの皆さんで倒して何とかなった。
空に開かれた大きな門はいまだに開いたままで、時折あの悪魔みたいなモンスターが出て来る。
でもおかしいのはあのモンスターを倒しても他のモンスターみたいに消えてなくならない。
しかもあたしの「魂喰らいの剣」で倒してもHPもMPも吸い取れない様だ。
うーん、これってベータ版のがちゃんとリンクされていないのかな?
これが新区画だからまだ安定していないと言うやつか?
しかもまたログアウトできない状況って、マジやばいんじゃないだろうか?
ナビさんも使えないとか、内容によってはウィンドウが開かれても使えない機能とかもあったりと……
「そう言えば、ゲーム内は通信出来るみたいね? あたしは他の人とアドレス交換していないから連絡する人がいないけど……」
パーティーを組むとアドレス交換をしてプレーヤー同士でメッセージのやり取りが出来る。
勿論プレーヤー以外でも双方の同意が有ればアドレス交換が出来て連絡の取り様もある。
あたしみたいなソロは冒険者ギルドにある掲示板を活用する。
某有名なネット上の掲示板よろしく、その都度色々なスレッドがたてられ情報源にもなっている。
「うーんと……」
現状が知りたくてその掲示板を見ていると……
「ネットが繋がらなくなっていてゲーム内通信しか出来ない?」
トピックとなるスレッドはその話題で持ちきりだ。
何処の誰かは知らないけど、現在の状況をいち早くまとめたのもある。
現状ログアウト出来ない人は約一万二千人。
うち日本は七百人くらいらしい。
まあ、平日の真昼間からゲームやっている人はあたしみたいに引きこもりか何かしかいないもんね。
しかし問題はあの異界のモンスターらしい。
倒せることは倒せるけど、従来のモンスターとは違い消えないし経験値もゴールドもアイテムドロップも無いようだ。
あの門を通って異界のフィールドにも行って見たいけど、天空界のフィールドで空飛ぶバイクってのを手に入れないと空中移動は出来ないはずだった。
本当は砂の街の次あたり空に現れる浮島なんだけど、そのイベントが始まる前に新フィールド見つけちゃったから今更ではあるけど。
そんな感じで情報収集で掲示板を流し読みしていると気になる事が書いてあった。
中級の冒険者が集まる東の街でモンスターにやられた人がいたらしいけど、復活の呪文が効かなくなってるらしい。
メッセいーじで連絡を入れているみたいだけど全く反応が無いようで教会でも復活が出来なくなっているそうな。
これもバグだろうか?
と言う事は、パーティーの場合は棺桶の中で何もできずに永遠と引きずり回されるって事かな??
「これはきついなぁ…… ログアウトも出来ないしまさに生き地獄」
早いところシステム障害とか直ってもらいたい。
状況を確認しようにもナビさんが使えないしなぁ……
あれやこれやとあたしは掲示板を見ながら考えていると声をかけられた。
「なあ、そこのあんた。俺たちと組まないか?」
振り返ってみると冒険者パーティーだった。
既に二つか三つのパーティーが一緒になっている様だけど、なんだろね?
「あ……」
「どうやらこのシステムエラーはかなりのモノらしい。もう掲示板で見ていると思うが、このゲーム開発したやつも今ログアウト出来ないで閉じ込められているらしい。そいつの話だとネットが繋がらない状態で閉鎖されるとモンスターたちにやられたプレイヤーは再起動できなくて本体がずっと眠ったままになってしまうらしい。つまりこの問題が解決できないとずっと起きる事の無い植物人間になっちなまうってことなんだ」
はぁ?
何それ??
昔漫画かなんかであったログアウト出来なくて命に係わるぅ~とか言うやつ?
「あた……しは……」
「取りあえず大事をとってプレーヤー同士で固まってモンスターの強襲をしのごうって事になったんだけど、あんたも参加しないか?」
えーと、昏睡状態になってしまうのを回避するにはゲーム内でモンスターにやられない様にしようって話か。
前回のシステムエラーでログアウト出来なくなったって話もなんだかんだ言って十何時間後にはログアウトできるようになった。
本体のあたしはその教訓でばっちこぉ~いぃ状態で今回挑んでるから、十二時間くらいならへっちゃらだ。
ちゃんと二日目も安心さんも装備したし。
「どうだい?」
「あ、あたしは…… その、別行動……して、させてよ!」
だっはぁーっ!!
またやっちまったぁっ!!
「あたしは今まで一人で別行動してたから一緒に居させて欲しい」と言うつもりだったのに!!
「そ、そうか? じゃぁ何か有ったらこちらにも教えてくれ」
そのプレーヤーはそう言ってまたあちらで皆さんとなにやら話始めている。
いきなり話しかけられて、久しぶりに人と話すから緊張してあたしったらぁっ!!
「ううぅ、ナビさんやNPCとはちゃんと話せるのにぃ……」
あたしは仕方なく掲示板をまた見始めるのだった。
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