4-4:どうしたもんかな


 あたしは本気で焦っていた。



「マジか? システムエラーでログアウトできないだなんて。どうしよう、そろそろおトイレにも行きたいんだけど……」


 まさかスタンピートのシナリオクリアーしたのにログアウトできないとかシャレにならない。

 それに今のあたしはおトイレに行きたくなっていた。



「ナビさん、まだなの!?」



 ―― 現在修復中です。強制ログアウトしようにもシステムの本幹に異常が発生して自己修復プログラムで対処できません。現在本体サーバーに異常事態の通知をしています ――


 だっはーっ!

 何それ、本気でヤバいじゃん!


 いや、それ以上にやばいのはあたしの本体!!


 

 ……でも、実はあたしは今アレが来ているからナイト用のやつをつけてゲームをやっている。

 スペックを信用するなら二日目も安心のやつだから多少洩れても……


「いやいや、確かにあたしは毎月アレの量がそれほど多くは無いけどだからと言って安心できるかと言えばそうでもない。更にそれに別のモノが漏れたら果たして間に合うのだろうか?」


 一説にはナイト用のやつは最大五百㏄クラスのペットボトル一本分まで大丈夫と言われている。

 しかしアレに更に別のものまで漏れ出したら果たして本当に大丈夫だろうか?

 

 考えて欲しい、ペットボトル一本って献血の大きい方より量が多いのだから……



「とは言え、それでも今は神に祈るしかない、紙だけに…… ぷっ!」


 あたしは自分で言って何故かツボにはまってしまいしばし笑う。

 ひとしきり笑ってから気を取り直してナビさんに聞く。



「セーブや他の事は出来るの?」


 ―― はい、今回の問題はプログラムだけでなくハード側の問題もあるようですがセーブや他のすることに対して現在は制約がありません。大抵の事は出来ると思います ――


 ナビさんにそう言われあたしは考え込む。

 とりあえずセーブは出来るのならせっかく手に入れたアイテムは試してみたい。



「よっし、じゃあとりあえず寝てHPとMPを完全回復して安全の為にポーションとか買っておこう」


 そうと決まればすぐにベッドに横になって回復だ。


 このゲーム、一晩寝ると完全回復する事になっているけどゲーム内では本当に宿屋のベッドで横になると一晩寝た事となってすべてが回復した事となる。

 あ、死んでるとダメなんで前回セーブした所からやり直しなんだけどね。

 パーティー組んでると棺桶の中に入ったまま復活魔法か教会で高いお金払って復活するまで引きずり回され、意識があるのに体が動かず寝転がっているだけと言うキッツい状況になるけどね~。

 ネットでは暇になるのでメッセージを送ったり読んだりしか出来ないので暇だから小説書いているという強者もいるらしい。


 そんな事を思い出しながら、あたしはベッドに横になるのだった。



 * * * * *



「うっ、お腹の張りが無くなった…… 現実世界のあたし、だめだったか……」



 ベッドから起き上がって回復したのを確認してから道具屋に向かってる途中に急にお腹の張りが無くなった。

 あ~、こっちの世界ではこんな感じなんだ。

 さようなら現実世界のあたしの尊厳。

 この仇はこっちのゲーム世界で憂さ晴らしと言う事で取ってあげよう。



「とは言え、お願い二日目も大丈夫さん! ネットの噂を信じるわよ!!」


 切実なあたしの叫び声が上がるのだった。



 気を取り直して道具屋でポーション類とか必要そうなものを買いそろえる。

 そして冒険者ギルドに行って見るとちょっとした騒ぎになっている。



「まだ修復しねえのかよ!」


「まっずいなぁ、もうすぐ夜明けじゃん。会社行かなきゃなのによ……」


「私もうお嫁にいけない…… 現実世界の私は今頃ベッドの上で……」



 なんかプレーヤーの皆さんが口々にいろいろ言っている様だけど、やはり皆さんもログアウト出来なくなっている様だ。

 リアルなやばそうな声があちらこちらから聞こえてくる。


 そんな中あたしは掲示板へと行って見る。



「受けられそうなクエストは……」


 あたしのような引きこもりは世間様的な時間的制約が無いのでお気楽だ。

 まあ現実世界のあたしに問題が無いわけではないけど今は考えないでおこう。


 そんな事を思ってみていると、北の大地で冒険者募集とか言う紙が貼られている。

 北の大地なんて前のゲームでは無かった。

 と言う事は、これって新しいフィールド!?


 あたしは慌ててその紙をひっつかみ、ギルドの受付嬢の所へ行く。


「ねぇ、これって新しいフィールド!?」


「はい、北の大地は新区画として本マジカリングワールドに追加されたものになります。砂の街の呪いを解いた事で新フィールドが解放されました。現在北の大地では冒険者を募集しています。北の大地に行きますか?」


 受付嬢はにこやかにそう言う。

 これはもしかしてあたしが一番乗りか!?


「行く、いくっ!」


「では新たに砂の街の北門が出来ましたのでそこから北の大地に移動できます。最初に北の街が見えますのでそちらの冒険者ギルドで登録をよろしくお願いします。登録後北の大地でのクエストが受けられるようになります。但し、北の大地は超上級者区となりますのでご注意ください」


 ―― 新区画、北の大地が解放されました ――


 受付嬢の説明が終わるとナビさんからも通知が入る。

 これで北の大地に行ける!


 あたしは意気揚々と冒険者ギルドを出て行くのだった。




 * * * * *



「ここが北の大地かぁ……」


 歩いて一週間くらいかな?  

 実際には数分なんだけど、日夜が変わったのでそのくらいみたい。

 到着したそこは砂の大地から岩場になり、その向こうがいきなり冬景色の場所だった。


 現実世界じゃ温度差でおかしくなっちゃいそうだけど、足を踏み入れてみると何となく雪を踏んだような感じがする。

 凄いな、フルダイブゲーム。


 そう言った感覚は弱めであるけどちゃんとプレーヤーに感じられるとかは凄い。

 臭いも疑似であるし、あとは食事をして味があればなぁ……


 HP回復で何か食べても口に入れた途端消えてなくなって食べた事になるから、味とかの再現は無い。

 もし味が有れば高級食材をたらふく味わってみたかったのに……


 ―― 北の大地に入りました ――


 ナビさんのその宣言と同時に魔物の反応がする。

 見れば雪の中真っ白な毛皮の巨大な類人猿が数体こちらに向かってきている。


「もしかしてイエティか何かかな? 鑑定っと」


 向かってくるモンスターを見ながら鑑定してみるとかなりの強さ。

 これ、上級者でもやばいステータスだけど……


「あたしの敵じゃない!」


 あたしはそう言いながら迫りくる魔物をさっくりと倒すのだった。



 * * *



「うーん、暴食の盾使う暇なかったなぁ~」


 言いながらあたしは北の街に到着した。

 何となく街並みがロシアを思い出すような感じ。

 黒っぽいレンガが雪で少し埋もれたような。


「ようこそ北の街へ」


 門を通ろうとすると門衛がいた。

 まあNPCなのでそのまま無視して中に入ろうとするとしつこく話しかけられた。


「冒険者だな、冒険者ギルドに行って登録してくれ。登録しないとクエストが受けられないから注意してくれ」


 言う事だけ言うとまた元の位置に戻って静かに突っ立ってる。

 まあNPCなんてこんなもんだ。


「さてと、それじゃぁ冒険者ギルドに行って見ますか?」



 あたしは冒険者ギルドに向かうのだった。


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